第55話:通し矢
やっぱり1発目の冬華のインパクトが強く、悲しい事に他の人達は成功しても拍手もまばらで静まり返るのが早い。
かくいう俺もその例に漏れず、成功させても微妙な空気でしかない。
そして10週目に入ると脱落者も増え、冬華と俺と小笠原流の師範の1人が残っている。
「やっぱし、冬華は華があるから人気だね」
「大半が観光のお客さんだからねぇ~」
そうなのだ、耀や春華たちは最前列に陣取ってるのだが他のお客さんは立ち寄った人や観光に来た人達なのだ。
「何か一発びっくりさせる事したいよなぁ……」
「それじゃあおにーさん耳貸して……ごにょごにょ」
冬華がとんでもない事を耳打ちしてくる。
「それ、良いの?」
「うーん、公式的な記録が残ったりする訳じゃ無いし、幻斎おじーちゃんの企画だからおじーちゃんの許可があればいいんじゃない?」
そう言われ、幻斎さんに確認すると、以外にも簡単にOKが貰えた。
「OKみたいだし、いっちょやってくるか」
「わー楽しみ!」
「うーん……上手くいくかなぁ……」
順番が呼ばれ矢場に立つ、二本の矢を構え1本目を番う。
「——ふぅ……ふっ!」
――ヒュン!
「はっ!」
―—ヒュパン!
一の矢を放ち二の矢を即放つ、刺さった1本目を裂き2本目も綺麗に刺さる。
「ふぅ……緊張したぁ……」
思わず言葉が出てしまった、途端堰を切った様に歓声が溢れ出る。
「流石優希おにーさん、まさかサクッと成功させるなんて……」
言い出しっぺの冬華が目を丸くして驚いている。
「いやいや、冬華が言ったんでしょ?」
「それでもだよ~まさかここまで綺麗に撃ち抜けるなんて思って無かったもん」
「まぁ、得意な物は剣だしね、それじゃあ冬華の番だから、頑張って!」
「しかたないなぁ~おにーさん後でご褒美頂戴ね」
そう言ってからかう様な顔をして矢場に立つ。
「——はぁ!」
少しの緊張の後、真剣な顔で二本の矢を射掛ける。
綺麗な軌道を飛んだ矢は的の中心を射抜いた。
「「「「「おおおおおぉぉ!!!」」」」」
上がる歓声は凄く外国の観光客は母国語で滅茶苦茶興奮しているのが聞こえて来る。
ウチの皆は『当然だよね』みたいな顔をしてうんうんと唸っている。
「これはたまげた……二人共凄いな……」
ちょっと前から話す様になったおじさんが驚いた顔をしてした
「「ありがとうございます」」
そうして次の順番であるおじさんが呼ばれる。
「継ぎ矢か……頑張ってみるか……」
おじさんもゆっくりと2射をする、継ぎ矢にはならなかったが凄く至近距離に矢が刺さる。
拍手の中戻って来て、椅子に座る、びっしりとかいた汗が凄い。
「あの、これタオルです。使って下さい」
「良いのかい?」
「はい」
「ふぅ……ありがとう、娘に聞いていた通りの好青年だな」
「えっと……どういうことですか?」
会った覚えも無いんだけど……誰だろう……。
「あぁ、自己紹介がまだだったね、私は君が面倒を見てくれた柏木の父親だよ」
「あぁ!」
柏木さんは後方支援組の1人でコンパウンドボウを使っている女の子だ、青鞍さん達と練習後良く残って自主練をしていた子の一人だ。
「そうだったんですね、柏木さんはアーチェリーが専門って言ったたんでわからなかったです」
「あぁ、娘は勘が良いからね、器用さもあったからそちらの道に進んだのだよ」
「そうだったんですね、練習でも狙いが精密だったので教えがいがありましたよ」
すると的の交換が終わったのだろう俺の名前が呼ばれる。
「そうかそうか、タオルは洗って娘に持たせるよ。流石に、これ以上は腕が無理だし、後は若い二人に任せるよ」
「わかりました、では行ってきます」
幻斎さんの、元に行く柏木さんを見送って矢場に立つ。
「柏木さんの分もしっかりやらないとな……」
俺は弓の先の的を見据えるのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆
◇アマテラスside◇
「えっと……すみませんでしたぁ!!」
私は神職の皆様の前で頭を下げる、倉庫と思われた場所は伊勢神宮の正宮でAIの私でなく神道の神様としての天照大御神を祀るところだった。
「いえいえ、こうして高天原より降りられた天照大御神様をお迎え出来る事。私達神に仕える者として至上の喜びでございます」
「あのぅ……私、確かにアマテラスの名前ですが、それは皆様が奉ってる天照大御神様とは別の存在でっ!」
そう説明するが一向に理解されず、首を傾げられる。
「ですが……流星と共に正宮に舞い降りられ、御神体とされる八咫鏡よりお出になられたその御身。天照大御神様として何かお間違いは無いでしょう?」
「それは、私が誤って落ちちゃって、たまたまご神体を壊してしまったんですよぉ……」
うぅ……話を聞いてもらえない……。
「助けて下さい……優希さぁん!」
私の叫びは虚空に飲み込まれるのだった。