第54話:祖父と二振りの刀
「いらっしゃい、優希殿。それとご家族方、初めまして、ワシは七条幻斎じゃ」
三十三間堂の本堂に併設されたテントの中で、道着を着た幻斎さんが綺麗な姿勢で一礼する、今回呼ばれたのは幻斎さんが小鳥遊姉妹に会いたいとの事だった。
「ほっほぉ~可愛いお嫁さんじゃのぅ。それに二人共相当強いのぉ……」
「あ、ありがとうございます……ご無沙汰しております」
「お久しぶりです幻斎おじーさん!」
にこやかに挨拶する二人と髭を擦りながら笑う幻斎さん。
「あれ? 二人は知り合いなの?」
「そうじゃのぅ、二人の祖父……錬司とは昔から切磋琢磨した仲でな。その関係で付き合いがあったくらいじゃな、ちなみに二人が赤ん坊の時も知っておるぞ」
「そうだったんですね。というかそれなら前もって言ってくれても良かったじゃないですか」
「いやいや、小鳥遊なんぞ全国に100万以上は居る名前じゃぞ? 合うまで確証は無かったわ」
うん、嘘だろうな……だって、笑ってるもん。
「ま、まぁ良いです……それでどうしてここに?」
「おぉ、そうじゃった。小鳥遊の姉妹に渡す物があってな」
そう言って隣に置かれた竹刀袋から、二振りの日本刀を出す。
「!!!」
出された瞬間、春華の目が開く。
「ど、どうしたの春華?」
「これ、おじいちゃんのだ!!」
「ほう……よくわかったのぅ」
「わかりますよ! この肉厚な鞘と独特な柄巻はおじいちゃんのです!!」
力説する春華、よくわからない……冬華も頭の上にハテナを浮かべている。
「おにーさん、わかる? 私、わからないんだけど……」
囁いて来る冬華。
「大丈夫だ、俺も全くわからない……」
「それで、この刀をどこで?」
「1年前かのぉ、ふらっとワシの所に来て刀を打つから場所を貸せと言って来てな、出雲の方に知り合いがいるからそちらに場所を用意したんじゃよ」
「一年前って……失踪してる時期です!」
「そんな、おじいちゃん……生きてたんだ。お、お父さんに連絡を!」
目に涙を浮かべる二人、それと同時に気まずそうにする幻斎さん。
「すまない二人共。錬司はある日、この刀を打ち切るとふらっとどこかへ消えてしまったんじゃ」
「そんな……」
肩をガックシと落とす二人。
「警察にも連絡したんじゃ、色んな場所を捜索したんじゃが手掛かりはゼロ。それ故に鷲司には連絡をしたんじゃが……伝わっておらんかったのか……」
「はい……」
神隠し……まさかね……。
「それで、ついこの間上凪殿と出会い、何かの縁だからと今日渡す事にしたんじゃよ」
「そうだったんですね、ありがとうございます」
刀を受け取る二人、よく見ると長さが違う、春華の方は4尺はある大太刀で冬華の方は普通サイズの太刀だ。
「うん、しっくりくる……」
抜き身を持つ冬華、今の冬華にぴったしサイズの刀だ。
「私の刀も凄く持ちやすい……」
うん、刀と和服と美少女って凄く合うね!
「よし、それが一つ目の用事じゃ」
「一つ目?」
「あぁ、二つ目のお願いがな。優希殿、一つ勝負をしてくれんか?」
「勝負ですか?」
「あぁ、とは言ってもワシじゃ優希殿には敵わんのはわかってるんじゃがな。場を盛り上げる為に出て欲しいんじゃ」
「わかりました……それでその勝負とは?」
「あぁ、ここに来たという事はわかるじゃろ?」
三十三間堂……つまり弓か……。
「わかりました、やりましょう」
「そうかそうか! 支度は終えてるからのう。頼んだぞ」
幻斎さんがテントの幕を上げるとそこには沢山の観客が待っていた。
◇◆◇◆
「ルールは一つ、一人づつ弓を撃ち外した者や的に弾かれた者の負けじゃ」
「わかりました」
「はい!」
俺と冬華の返事に続き、他の人も返事をする。弓の勝負という事で冬華も出場する事にしたようだ。
「と、いう事でここからくじを引くのじゃ。くじの番号がそのまま順番じゃよ」
「「「「「はい!」」」」」
8人でくじを順番に引いてく、俺は8番目……最後である。
「冬華は何番目?」
「私? 私は最初だよ~、優希おにーさんは?」
「俺は最後だったよ」
互いにくじを見せる、1と8が書かれている。
「さて、皆引いたな? それじゃあ行こうか」
幻斎さんに言われお堂の前に誂えられた弓場に立つ。今回用意された的の距離は江戸時代に行われた通し矢の長さで66間つまり……120メートルだ。
「それでは、小鳥遊流・小鳥遊冬華。前へ!」
良く通る声の審判に言われ冬華が前に出る、小柄なその姿と大きな弓のアンバランスさにどよめきが起こる。
「——ふぅ……」
一息、そして構え番える。構える冬華の美しさに目を奪われる。
絞られていく弦の音と撓る弓の音が聞こえて来る、隣のおじさんが息を呑む。
「——!」
――ヒュンッ!!
スッと放たれた矢が風切り音と共に翔ける、そして的の中心を音もなく射抜いた。
「——ふぅ……」
冬華が息を吐く、その瞬間割れんばかりの歓声と拍手が巻き起こった。
「流石冬華だな……」
「おにーさん!」
近付きハイタッチをせがんで来る冬華に手を出す、一人目の1射目という事で緊張したのであろう、少しだけ指先が震えていた。
「ナイス、凄く綺麗で見惚れたよ」
ハイタッチの後手を繋ぎ、ぐにぐにと冬華の手を揉む。いつもなら頭を撫でるのが好例だけど、今日は髪を整えてるのでお預けだ。
「えへへ~おにーさんも期待してるよ!」
「おいおい……プレッシャーかけないでくれ……」
「えへへ~番外戦術ってヤツだよ」
肩を押しつけてくる冬華に苦笑いをしながら、会場が静まり返るのを待つのだった。
一応主人公達は身体強化だけ使ってます、風魔法とか魔力を込めて飛ばしてはいません、それでも相当チートですけどね……。




