第29話:華族の定めと新型魔法鎧
あれから四条さんと土御門さんに滅茶苦茶触られながら式神召喚を試され、土御門さんはすっかり式神召喚をマスターしていた。
「それでは、今日はありがとうございました」
「ありがとうございました」
土御門さんと共にお辞儀をする、結局放課後スレスレまでやってしまったので帰りは『転移』で帰る事にする。
「いやーこっちも貴重な体験をさせて貰ったわ。御前試合まであと数日、私も正式に棄権をするけど何かあったら頼って欲しいわ」
「良いんですか?」
「えぇ、三条と四条は正面戦闘では滅法弱いからね、そこを正面から破られちゃったら降伏するしか無うござりんすえ」
そういって肩を竦める、残念そうにしてはいるがその顔は晴れ晴れとしている。
「むしろ、嘘の情報を流布して。私達を嵌めた六条のガキをボッコボコにしてもらえる所を見れて清々しんす」
「私は不安しか無いんですけどね……」
不敵に笑う四条さん、対照的に絶望的な顔をする土御門さん。
「そう言えば結菜ちゃんは、上凪さんと戦うのよね……」
「はい、お父様達が嬉々として、京都十条の役に立てると喜んでますから……」
「それは……ご愁傷様やなぁ」
今にも死にそうな顔をしている土御門さん、確かに彼女は俺の事を間近で見てる分不安なんだろう。
「四条さん、土御門さん達の出場どうにかできませんか?」
「それは無理やわぁ……私の、四条の力を持っても無理でありんす」
煙管を吸いながらあっけらかんと言う、【四条家】の名を出してる以上かなり厳しいみたいだ。
「それは……どうしてです?」
「それがなぁ、華組の家々との関わりが薄いんよ。それでいて今回ご指名の六条家はかなり懇意にしてやす」
「えっ? そんな理由で?」
「あぁ、そんな理由でありんす。華族っつうのは総じて当主に逆らえない。結菜ちゃんも他の華組のメンツ同じでありんす」
何だろう、凄く下らない……。
「そありんせんな怖い顔せんといて、それが今まで生きて来た華族の生存戦略なの。だから私も進みたかった道を捨てて、当主まで上り詰めたんよ」
「それって……」
「あぁ、本当ならナースになって、医者のボンボンとさっさとうっつきたかったんよ! ビバ・気楽な専業主婦!」
暗い空気を吹き飛ばす様に笑いながら言う四条さん、この人の本心が少し見えた様な気がした。
「という事で、上凪さんには他の連中をブッ飛ばして貰って、目に物見せて欲しゅうござりんす。その為なら私も力を貸しんすえ」
「わかりました、そこまで言うなら四条さんの力借りたいと思います」
「一条家以外の各家の情報収集は任せるでありんす」
「わかりました、後で連絡しますね」
一条家は恐らく式神の本場という事だし、対策をしているんだろう。
――♪♫♬♪~
「あ、そろそろ時間みたいです」
「そうかえ、ほな二人共。いつ来てくれても良いからねぇ~」
「「ありがとうございました!」」
急いぎながら転移で巴ちゃんの元に転移するのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「いやん、お☆ま☆た☆せ♪」
夕方になり、西園寺さんと賀茂さんを連れて異世界に来た、二人はガリウスとの訓練で俺達は雛菊さんの元にやって来た。
そして人が多い店内でくねくねしながら、依頼をしていた装備を渡してくる雛菊さん。
「あの、優希さんあの方は?」
「あっ、紹介してなかったか……雛菊さんだよ」
「えっ……? はぁ?」
そうだよねぇ……中身を知ってるから、見た時はびっくりするよね。
「えっとね、私の本当の姿を見ているじゃない? その姿だと襲われたり、舐められたりするから見た目を変えてるの♪」
「それに魔法鎧ってかなり高価でね、既製品でも日本円で数百万はくだらないんだ」
「ええっ!? これが!?」
手に持った狩衣風の魔法鎧を見て、目が真ん丸になる土御門さん。
「あはは……そうは見えないだろうけどこれを着ていれば銃弾やちょっとした落石程度なら弾けるんだ」
「それに、ユウキ君とユフィちゃんの発想を盛り込んだから魔力使用効率も半端ないのよ、なんて言ったかしら……カイセイエネルギー? だったわよね?」
「そうそう、合ってますよ。魔法を使うと、魔法を維持した分や余った分、それと余剰に流出した分がどうしても出るからね、そこに目をつけてみたんだ。俺の奥さんが……」
いつの間にか科学技術とかに関しては、俺より詳しくなってるんだもんなぁ……。
「優希さんの奥さんって凄いんですね……」
「うん、自慢の奥さん達だよ」
「さて、そろそろ店じまいもしちゃうし。もし良かったら『試運転』見せて貰えないかしら?」
「良いですよ、ヒナギクさんの家の前で待ってますね」
時間はまだ全然あるし、ユフィも呼んで試運転をしようと思ってたからね。
「オッケー、じゃあちゃちゃっと片付けちゃうわ!」
ドスドスと効果音を鳴らしながら、雛菊さんは店の奥へ戻って行った。
「それじゃあ土御門さん、一旦出てようか」
「は、はい!」
閉店と聞いて、慌てる様に商品を選ぶ人たちの間を、手を引いて店を出る。
「さて、それじゃあこっちだよ」
そのまま混雑した商店街を抜けながらヒナギクさんの家へ向かうのだった。