人気投票SS:【冬華編】
「ぐふぅ!?」
朝、腹部に感じだ衝撃によって目を覚ます、目を覚ますと空色が目に入って来る。
「うぅ……冬華……おはよう……」
「おはよー! 優希お兄ちゃん!」
久しぶりに見るこの光景が何とも懐かしい……。
「どうした? こんな朝早く」
壁掛けの時計を見ると、時間はまだ3時である。
「うーんと、ドライブに行かない?」
「おーいいぞー、どこに行くんだ?」
「それは秘密! ほらほら早く起きて!」
「えぇ……まだ三時なんだけど……」
「うん、でも混み始める前に出発したいの!」
確かに……ドライブに行くのであればどっちに行っても朝の通勤時間は道路が混雑する。冬華の口ぶりだと遠出したいようなので、早い時間に出るべきだろう。
「わかった……じゃあ、どいてくれると有難いんだけど……」
「えー、仕方ないなぁ~」
横に転がり、布団の中に入って来る冬華。
「冬華さんや、早く出るんじゃなかったのかい?」
「そーだけど~、久しぶりなんだし……駄目?」
猫撫で声を出してくる冬華、確かに出張でひと月の間、異世界に行ってたからなぁ……。
「そういえば冬華、お店の方は大丈夫?」
「大丈夫だよ~巴のお陰で私より優秀な社員だし、私が経営に口を出せるとこ無いよ。まぁ、そのお陰でデザイナー業をゆっくりやれてるのは有難いけどね」
「そっか、無理するなよ」
セットされた髪を丁寧に撫でながら時計を見る。
「そろそろ起きるか……シャワー浴びてくるよ」
「りょうかーい、じゃあ私は荷物纏めとくね~」
朝早い時間なので足音を立てずにシャワールームへ向かった。
◇◆◇◆
そして30分後、準備を終えた俺達は車庫に降りていた。
「冬華、今日は運転する、しない?」
「運転する~」
「了解、安全運転でな」
冬華の車に乗り込み出口へ向かう、自動で空いたシャッターとフェンスの間を抜けて走り出す。
「そういえば、今日はどこまで走るんだ?」
「んーっとね、伊勢まで走る予定」
伊勢って……6時間くらいかかるじゃん……。
「まさか、今日って泊まり?」
「せいか~い」
「それなら途中で運転変わるぞ?」
流石に運転好きの冬華とはいえ、そこまでの長丁場を運転させられない。
「あー大丈夫大丈夫、途中でお父さん達拾うから」
「鷲司さん達を?」
「うん。だから今日は、少し大きめの車にしたんだ」
大き目って……ランクルはウチで一番デカいんだけど……。
「まぁ良いか。それで、冬華は何で伊勢まで? アマテラスさんに挨拶にでも行くの?」
アマテラスさんは理映の作ったデウスエクスマキナの1人で世界の管理をと維持を行うAIの1人だ、作った当初は色々あったけど今は安定して動いている。
「うーんまぁ、お土産は持っていくけど今回の目的は温泉旅行なのです!」
「温泉旅行? 何でまた?」
「それは、着いてからのお楽しみ♪」
「そっか、じゃあ楽しみにしていよう」
◇◆◇◆
それから鷲司さん達を拾って沼津港まで行き朝食を食べる。その後は高速道路を走り伊良湖港まで来た。
「ん~、ついたついた!」
「お疲れ冬華、予約したフェリーのチケット買って来るよ」
「ありがとーおにーちゃん」
チケットを買って戻ると、冬華が車の外で待っていた。
「あれ? どうしたんだ?」
「ねーねーおにーちゃん、ここ行こうよ!」
見せられたスマホには近くにある『恋人の鐘』という場所までのルートが出ている。
「おっけー、まだ時間はあるし行こうか。鷲司さん達は?」
「うーんとね、お母さんに連れてかれた」
あっけらかんと言う冬華。そうだよな、姫華さんが居て行かない筈は無いしな。
「それじゃあ、俺達も行こうか。少なくとも20分前には戻って欲しいって言われてたし、急ぎの時は転移で戻ろうか」
「ありがと~それじゃあ、れっつご~!」
腕を組んで歩き出す、とは言ってもすぐそこなのであっという間だ。
「とうちゃーく!」
「あら、早かったですね」
「あ、姫華さん、それと鷲司さんも」
背後から声をかけて来たのは姫華さん達で、何やら鍵を持っている。
「おかーさん、それは?」
手に持った鍵について冬華が聞く。
「これは『しあわせの鍵』というものでお願い事を書いて、あそこにある柵にかけると叶うという事よ」
「「へぇ~」」
「そういう事だから、はいっ。優希君と冬華の分」
姫華さんが持っていた二つの内未開封の方を渡してくる、受け取ると袋には南京錠と木のプレート後は鍵が入っている。
「と、いうわけで。私達は先につけてくるわね~」
ご機嫌な姫華さんが鷲司さんを引っ張っていってしまった。
「とりあえず、書こうか?」
「そうだね~、さーて……なんて書こうかな~」
空間収納から机を取りだして書き始める、凄い勢いで端から端まで埋まる。
「はい! おにーちゃんどうぞ!」
約八割が埋まったプレートをやりきったぜという顔で渡して来る。
「じゃあ俺は……『いつまでも冬華を幸せにする』っと」
「……っつ!!」
ぽかぽかと叩いて来る冬華、残りのスペースに上凪優希・上凪冬華とお互いに書いてフェンスに留めた。
「後は、さっき言ってた『恋人の鐘』まで行こうか」
「はぁい……」
その後は、待ち構えた姫華さんに写真をお願いされたり撮られたりとしている内に時間が来たので皆で慌てて戻るのだった。
◇◆◇◆
「ふぃ~食べたたべた」
「そうだねぇ……私も想像以上だったよ……」
お腹いっぱいなった俺達は、ベッドに仰向けで寝転ぶ、まさかあんなに量が出されるとは……。
「でも驚いたのは、冬華がこの旅館の社長をやってた方だけどね……」
「あはは……実は驚かせたかったんだ~」
「びっくりした。最初は浴衣のデザインをやったのかな~って思ったらまさか旅館全体のデザインをやってるとは……」
「ふっふっふーそうなのです、最近は色んな構造物のデザインを学んでてね。その内こんなものも作りたいんだ」
冬華が俺にデータの共有をして来る、ファイルを開くと見た事無いデザインの武器が並んでる。
「冬華、これって……」
「そう、おにーちゃんがやってる武器制作、色んな機能性と今の子に受けるデザインが両立したモノを作りたいって言ってたじゃん?」
「冬華……」
おぼえてはいるけど……それって師匠に学び始めた時の事じゃん……。
「ありがとう、数年前に言った事覚えててくれて……」
「まぁ、それの副次的な事で色んなデザインを学んだんだけどね~」
「でも、良かった。冬華のやりたい事がちゃんと見つかって」
「うーんと、ちょっと違うかな……」
冬華が起き上がり俺を見る。
「私のやりたい事は優希さんのやりたい事、それを全力で支えて、その意志を助ける事その為なら私は何でもやるんだよ。それが私のおねーちゃんと巴と皆を見て私の心に芽生えたやりたい事。決めるのに時間かかっちゃったけどね」
そう言って笑う冬華がダイブしてくる。
「ちょ!? 冬華!? ごっぷ!!」
今のヤバかった……結構いい感じのとこまで昇って来た!!
「それと、もう一つやりたい事あったんだ……」
「そ、そうか……良ければ聞かせてくれ……」
「それはね優希さんの子供が欲しいな♪」
甘い匂いと耳元で囁かれ、頭がくらくらする。
「とりあえず、潮風も浴びたし、風呂に行こうか」
「ひゃう♪ 優希さんいきなりお風呂でってマニアックですね♪」
あぁ、この冬の雪解けの様な冬華の笑顔、これに弱いんだよなぁ……。
そう思いながら部屋つきの露天風呂へ向かうのだった。




