第99話:王都制圧戦⑦
◇リリアーナside◇
避難が始まり、クロコちゃんによる避難民の転移が始まった、数も多くは無いので耐える時間も少ないだろう。
「リリアーナおねーちゃん!シアおねーちゃん、問題が発生しました!!」
「問題……」
「ですか……」
あまり聞きたくない言葉だった。
「一体どうしたのかしら……」
「それが中央市場の攻勢が激しく、更にスラム街に向かった軍の半分が壊滅したそうです」
「それってかなり不味いですよね……」
「えぇ……住民の避難は?」
「ほぼ完了しているそうです! 残りはここの人達と、一部区画で起きた家の瓦礫で通れなくなって遠回りした人達の避難だけです!」
「なら時間を稼ぐ必要があるのね……」
「そうですね、リリアーナ様」
私は残りの小瓶の内、最後の一つを呷る。
「ここで、時間を稼ぐわ! セレーネには救出を早めに進めて、安全な位置まで下がるように伝えて!」
「クロコはもう一度詳しく情報を聞いて来て下さい」
「はい! わかりました!!」
伝令役のクロコちゃんが潜る、これでセレーネ達は安全に撤退できるだろう
「シア、すみませんね」
「謝らないで下さい、本来ならば私が時間を稼いで体制を立てなおすのが一番なのですが……」
シアが申し訳無さそうにする、私達は同じお嫁さんなんだから気にしなくて良いのに……。
「シア、あなたも私達と同じ優希様のお嫁さんなのよ、誰か一人に任せてなんて優希様に叱られてしまうわ」
優希様に叱られるのもそれはそれで楽しみですが……もしの事で犠牲になれば悲しませてしまう。
「ですが、犠牲になるのなら私が!」
「シア、優希様は地位や序列なんて関係ないもの。だから、誰も欠けずに戻ることが最優先なのよ」
そう言うとシアがクスリと笑う。
「そうですね、優希様には叱られたくないですね!」
ひとしきり笑うと、大きな足音が聞こえて来た。
「グぎゅルルウルるわぁぁ亜ぁぁぁん!!」
見た目はナメクジの様な、だが立ち上がれば周囲の屋敷より一回り程大きな邪神が現れた。
「ひっ!?」
「もうだめだぁ……」
へたり込む避難民達、あと2往復なので諦めないで欲しいのだけれど……。
「コイツが、この周囲の家々を破壊していたのか……」
「そうみたいね、しかし気持ち悪いですわね……ぬめぬめしてるし……」
「いえ、リリアーナ様。邪神は割とぬめぬめしてます」
そう言われ他の邪神を見る、確かにちょっとぬめぬめしてる。
「そう言われてみればそうね……まじまじと見た事無かったので新発見ですわ」
「ぎゅワワわぁ!!」
「ビュグリりりん!!」
「雑魚も湧いて来たか……」
「そうね、シアはどちらのが得意ですか?」
「それは……大きい方です……」
「嘘ね、なのでデカブツは私が貰いますわ」
「リリアーナ様!?」
何度か模擬戦で戦ったシアの戦闘スタイルは暗殺専門だ、それなりに正面戦闘は出来るがあんな大きな相手は無理に決まっている。
「私の技は!」
手首から出た血で剣を伸ばす、私の数倍の大きさ剣を作り出し振り下ろす。
「ピギゅううビリュウう!?」
両断した敵が塵と化す、羽根を出してふわりと着地をする。
「ほらね、私のが得意でしょ?」
「はい、僕もがんばりっ……ます!」
シアの身体がかき消えたと思ったら、襲ってきた敵の間を黒い線が縫い致命傷を与え戻って来た。
「シア……今まで本気じゃなかったわね……」
「ははは……すみません、優希様のお陰で過去の自分を取り戻せましたので」
そう言って笑うシア。
「それじゃあ、がんばって時間を稼がないとね!」
◇セレーネside◇
「ウルベリック殿の傷は!?」
「大丈夫だ、傷口は焼いたし、毒は無い!」
「クソッ! 避難はまだ終わらないのか!」
「二つ先の辻が最後尾だ! 早く進ませるんだ!」
「こっちだって詰まってるんだ慌てるな!!」
中央市場は大混乱に陥っていた、ウルベリックさん達スラム街に向かった人達の敗走、リリアーナ様の所からの避難民は直接場外に向かってもらってるけど、その為に時間がかかり過ぎている。
「セレーネの姐さん! 大変だ!」
「どうしたの!?」
「貴族街からデカい敵が!!」
「っつ!?」
貴族街の方を見ると以前、ユウキさんと倒したヤツよりも巨大な邪神がこちらへ進んできている。
「皆! 戦線を下げて!! まともに相手しない様に!!」
私は駆け出し刀を構える。
『セレーネちゃん! 力を貸すよ!』
「ありがとうございますマーレルさん!!」
大太刀に魔力が宿る、風魔法で浮き上がった瓦礫を足場にして跳び上がる。
「はぁぁぁぁあ『小鳥遊流魔剣術——風影乱斬!!』」
魔力ごと叩き付け吹き飛ばし着地をする、だけど何かがおかしい……。
『セレーネちゃん! 跳んで!!』
「っっ!?」
後に跳び下がり攻撃を回避する、見ると形を取り戻そうと蠢きながら死んだ邪神の一部を回収して行く。
『なぁ!?』
「そんな……」
先程より大きくなった、邪神が私に手を伸ばす。
『下がるよ!』
「うん!」
戻りながら考える、今までの敵と違う点を……。
「あの時と何が違うんだろう?」
あの時の事を思いだす、それと今の状況との違いを考える。
「あの時は補充される邪神の身体が無かったから?」
落ちている瓦礫を飛び越えたり、家の壁を蹴り上がったりで時間を稼ぐ。
『ねぇ、セレーネちゃん、その剣光ってない?』
「ふぇ? ほ、ほんとだぁ!?」
マーレルさんが指差すのは、私の腰に差されているもう一つの刀。
「これを使えって事なのかな?」
『かもしれないわね……』
「それじゃあ使ってみようかな!」
刀を空間収納に仕舞いもう一つの刀を抜く。
「マーレルさん! 援護をお願い!」
『任せて!』
屋根の上から飛びマーレルさんの魔法で浮かされた瓦礫を踏み台にして距離を近づける。
「『炎よ!その力を持ってこの敵を焼き尽くして!風よ!炎を巻き上げ大きなうねりを解き放て!』そして!『小鳥遊流魔剣術——風影乱斬!!』」
炎と風を纏わせた剣で魔法をぶつけ叩き斬る、二つに分かれた先では小さな石が砕け散った。
「ぷギイィイいいぎャアァぁ亜あ!?」
すると途端に塵となって消えていった。
作者です。
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