第97話:王都制圧戦⑤
◇セレーネside◇
シアさん達と別れ、中央市場戻って来た私は貴族街へのバリケードを伸していた。
「皆さん! どうです?」
寄って来る敵を倒し、戻るを繰り返している。私の戦闘中に皆がバリケードの距離を伸ばしている。
「今の所半分でさぁ!」
戦闘開始からかなり時間が経った、魔力の補充を兼ねてマーレルさんは休憩中だ。そして貴族街へ向かった皆はまだ帰ってこない……。
「セレーネの姐さん!!」
「どうしたの?」
「あっちに姫様の護衛隊が!」
顔を上げ遠くを見ると多くの住民と共に避難してくる姿が見えた。
「リリアーナ様!」
到着すると皆どこかしら怪我をしていて撤退も大変だった事が伺える、だが肝心のリリアーナ様が居ない……。
「姫様は残された最後の救出者を助けに向かって、単独で行かれました」
「そんな……」
「それから敵の数も増え、待機していた私達も撤退を余儀なくされたのです」
悔しそうに言う。
「そうですか……どうしよう、このままじゃ……」
確かに先程の兵士が言っていた通り、各方面から流れて来る敵の数は戦闘開始時より増えている。
「うぅ……でも、私がここを離れる訳には……」
「その援護、僕達が行きます」
その声に振り返るとシアさんが荷物を降ろしていた。
「シアさん!?」
「私も居ますよセレーネおねーちゃん!」
クロコちゃんも影から包帯や軽食と水筒に、貴重な魔法薬を取りだしている。
「これは、セレーネちゃん達防衛組への物資だよ」
「あ、ありがとうございます……」
「それとさっき言った様にリリアーナ様達への援護は僕達が行くよ、住民の避難もクロコの能力があればここまでは運べるからね」
朗らかな笑みを浮かべながら笑うシアさん、確かに能力を使えば安全に運べるけど……。
「でも、ずっと働きっぱなしだし……」
「それを言ったらセレーネちゃんも働き過ぎだよ~僕はずっと後方で薬作ってただけだし。今は教会の子も変わってくれてるしね」
そう言って笑う顔は疲れなど無さそうに見える顔だ。
「わかった……リリアーナ様達の救援お願いします!」
「あいわかった! じゃあ行こうかクロコちゃん!」
『はい!』
そう言ってシアさんは影に潜って行った。
◇◆◇◆◇◆◇◆
◇リリアーナside◇
「はぁっ!」
剣で切り裂き敵を屠る、明らかに救助に向かう時よりも数が増えている。
「まだ対応できる範囲ですわね……ただこれ以上は……」
ぱっと見貴族街へ救助に入ったときの3倍の数が居る、ここまで敵の数が多いとあの館全員での避難は私一人で守り切れなかっただろう。
(別れた兵の皆さんは避難民を連れて先に逃げているはず……)
「どこからこんな増えてるのでしょう……住民避難も進行していてある程度の敵も倒しているはずなのに……」
少し、女性や子供には厳しいでしょうが……。
「皆さん、走りましょう! 敵の増加が早いです!」
「わかりましたわ!」
「は、はい!」
優希様の血が入った小瓶を呷る、力と魔力が体の中を巡り魔力が満ちる。
「行きますわよ! 『鮮血装衣の能天使!』」
軽装鎧から血が全身を覆い甲冑となる、背中には光輪を背負いそこからはおとぎ話の天使という存在の様な羽根を出す。片手にレイピア、もう片手には攻防一体の血球を持つ。
「これからは少し強引な突破になります! 互いを助け合って下さい!」
そう言うと皆が頷く。
「はぁぁぁぁっ!!」
血を加え延伸したレイピアで貫き飛ばす、形の変わる血剣と優希様の魔力のお陰で掠めた敵ですら塵と化す。
「今です! 走って!」
走り出し進む、注意したお陰か広がらずに一団となっているので私も守りやすい。
血剣を鞭の様に扱い薙ぎ払う、だが先程からおかしい事が見受けられる。
(血が出ない? 塵と化してるから出ないのかしら?)
「それよりもっ! はぁっ!!」
追って来る敵の数は増えている、こちらが中央市場へ向かっているので推定だと外縁部から内側へ敵が押し寄せている状態だ。
(アミリアの撤退は最悪クロコちゃんに任せれば良い、今は中央で維持してくれているセレーネ達の元へ行き防衛線を下げなければ……)
そして、市場近くまで来た時私達の視線に絶望が映った。
「リリアーナ様!」
マリティニアさんが悲痛な声を上げる。
「そんな……」
恐らく邪神が暴れも燃え落ちたのだろう、貴族街から中央市場の間にある住宅が崩れ熱を持っている瓦礫の山が私達の前を塞いだ。
「この熱じゃ渡れない……」
「どうすれば……」
「やっぱり逃げなきゃよかったんだ!」
恐怖は伝播する、その為逃げていた中にも悲痛な声を上げる人が現れ始める。
「くっ……私一人じゃ同時に対処出来ない……」
「間に合った様ですね! リリアーナ様!」
その言葉と共にシアとクロコちゃんが影から飛び出してくる。
「お待たせしましたリリアーナおねーちゃん!」
「シア! クロコちゃん!」
「セレーネさんに聞いて救援に来ました!」
「避難する皆さんはコレで全部ですか?」
その言葉に私はつまる、あの館に残してきた人達が頭をよぎる。
「ええ、全部です!」
応えたのはマリティニアさんだ。
「わかりました! では皆さんを避難させます! 5人づつ送りますのでっわぷ!?」
パニックになった避難民にもみくちゃにされかけたクロコちゃん、が影に沈む。
「あなた達!! みっともないですわよ!!」
「「「は、はいぃ……」」」
マリティニアさんが一喝してくれたので彼らは大丈夫だろう。
「はふぅ……ビックリしました……」
ひょっこり出て来たクロコちゃんが私の影に隠れる。
「さて、リリアーナ様。そろそろ動きましょう」
「えぇ、クロコちゃん皆さんを頼みますわ」
「はい! リリアーナおねーちゃん!」
クロコちゃんはマリティニアさんの方へ走って行った。
「さて私達は……」
「皆さんが転移するまでの時間稼ぎですね……」
邪神の大軍を前に、私達は武器を構え直すのだった。
作者です。
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