第86話:秘策ダイナマイッ!
馬から降りて敵軍へ歩いて行く、大体半分くらいの距離になった所で武器を構えた歩兵達が俺を見る。
「止まれ! 貴様は何者だ!!」
歩兵の後から騎馬に乗った身なりの良い騎士が現れた。
「えっと、先程聖女の紹介にあった教会に召喚された【勇者】ですけど……」
そう言うと騎士が目を見開き剣を抜いた。
「奴を捕らえよ!!」
「話し合いに来たんだけどなぁ……」
「「「「「うおおおおおおおおお!!!」」」」」
地面を鳴らして突撃してくる、うーん……どうするか……。
「仕方ない……無力化するか……『——魔装・マルバス』」
久しぶりに使う魔装を展開し両手両足に大きな爪を、以前とは少し変え頭から連獅子の様な髪を創り出す。
「ふっ!」
「ぎゃはっ!」
突き出された槍を掴み掌底で吹き飛ばす。
「はぁ!」
「「「「ぎょふっ!?」」」」
槍衾の様に突き出される槍を爪で裂き長く伸びた髪で薙ぎ払う。
「はっ! とぉ! はぁぁぁ!!」
投げ飛ばし、蹴り上げ、鉄山靠で吹き飛ばす。
「な、なんだアイツ……」
「武器も無いのに……」
「ほらほらほら!! もっともっと!!」
躱し、殴り、吹き飛ばし、纏めて投げ飛ばす。
「ひぃぃぃ!?」
「ば、化物ぉ!?」
化物と聞こえたのでひとっ跳びで目の前に降り立つ。
「化物とは酷いなぁ……これでも俺は人間だよ?」
にっこりと笑うとその兵士は足が砕け立てなくなる。
「やめっ!? 殺さないで……」
「はぁ……殺す訳ないじゃん……」
そう言って飛んで来る攻撃を回避し他の兵士を叩き飛ばす、あくまで死なない様に抑え気味で。
「引け……ひけぇぇ!!」
必死こいて逃げていく、とりあえずさっき偉そうだった騎士に追い付き捕まえる。
「ひぃぃぃ!? お助けぇぇ!?」
「あーはいはい、落ち着け」
ぺいっと投げて落ち着かせる、魔装を解いて近づきヘルムを取って目線を合わせる。
「とりあえず話を聞いてくれるかな?」
「は、はひぃ……」
「俺達は無駄な殺生は好まない、だから投降してくれると有難いんだけど」
「そ、それは……」
「わかった、仕方ない……」
魔力を放出し、魔王形態に変化する。
「ひっつ!? ま、魔王!?」
「あぁ……知ってるのか……なら話が早い……」
火球を用意していた山へ放つ、すると連続して山が崩壊する程の爆発が起きる。
「あわっ……あわわわわわわ!?」
「ふむ……威力を少し間違えたか……」
ぎろりと睨むするとガタガタと目に涙を溜め震え出す。
「今降伏するなら、これはお前らに撃たないでやる」
「ひぃ……」
「わかったなら早く纏めてこい!!」
立たせて背中を押す、すると半ベソをかきながら軍に戻って行った。
「はぁ……慣れない事はするもんじゃないなぁ……」
頭を掻きながら自陣へ戻った。
◇◆◇◆◇◆◇◆
◇バルダーンside◇
「んなぁ……何んだったんだ……」
城の正面で兵の声がしたと思ったらそのすぐ後に丘が爆発した……。
「王よ、失礼します!!」
伝令の兵が駆け上って来た。
「先程の爆発は敵に魔王がおり、その魔王の攻撃によるものです!!」
「なん……だと……」
魔王だと!? あの刺客共ぉ!!
「しっぱいしやがってぇ!!」
思わず机を殴り、ワインをひっくり返す。
「そして魔王より降伏勧告が……」
「降伏……だと!? 舐めやがってぇ!!」
「どういたしましょうか……既に軍全体の士気も落ち……」
「わかっておるわい!! クソッたれ!!」
考えろ……あんな化け物を倒せる手段など……いや……小娘一人で来させればいいのでは?
「わかった、だが明日まで待ってもらいたいと伝えてくれ、明日正式に譲位の式典を行うのでな」
「か、かしこまりました」
「早くいけ、ワシは忙しいんじゃ」
慌てて伝令が出ていくのを見送った後、ベルを鳴らす。
「王よ呼びましたか?」
「こいつを井戸に混ぜろ、後貴族街の貴族共にこれを飲ませろ」
薬を置き指示を出す、これだけばら撒けば魔王の足止めになるだろう……。
「魔王共め……目に物見せてやる……」
大きな窪みの残る平原を見ながらワシは爪を噛んだ。
◇◆◇◆◇◆◇◆
降伏勧告を入れたその日の夜、俺達の元に伝令が到着した。
「はぁ……明日ねぇ……しかも姫1人とは……」
「は、はい! 我が王は譲位の指揮をするとの事で!」
うわぁ……裏があるよなぁ……。
「わかった、その申し出受けよう」
「ユウキ!?」「優希様!?」「ユウキさん!?」「「魔王様!?」」
皆が驚く、まぁそうなるよな。
「かしこまりました! 我が王もお喜びになります!!」
喜んで走り出そうとする伝令、それを引き留める。
「はい? どうしましたでしょうか?」
「君はあの王が他人の命を簡単に犠牲にするような奴だと知ってるのかい?」
俺は努めて優しく聞く。
「それは……」
「それじゃあ質問を変えよう、君はいざとなったらあの王に化物に変えられて、見境なく街の人を襲う事になっても大丈夫なのかい?」
そう聞くと考えたのちおずおずと顔を上げた。
「嫌です……俺だって家族がこの街に居るんです……」
「そうか、『——邪呪治癒』これで君が化け物になる事は避けれるよ、怪しいもの渡されても飲まない様に」
「はい……わかりました?」
不思議な顔を浮かべながら戻って行った。
「さて……説明をしないとなぁ……」
後で驚いてる皆へと振り返った。
作者です。
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