第85話:秘策の準備と王都到着
ミローズを出立してから2日目の夜、俺は王都近郊の平原の一つに来ていた。
「あらら、本当に二つの軍に分かれてるよ……」
「そうですね、しかもあっちの方が大きいですよね?」
クロコが王都から少し離れた場所にある一団を指差す。
「多分あれがウルベリックさんが居る反戦派というか反対派だね」
「多いですね……」
「多いね……」
おおよそ現在の3分の2が反戦派に回っている様だ、蝙蝠連中も既に動いてるはず。
「まぁ、先にやっちゃおうか!」
「はい!」
「よし、じゃあクロコ頼むよ」
「わかりました!」
すると俺の影から大量の土が物凄い勢いで落ちて来る、俺は少しづつ渦巻き状に動きながら土を盛る。
「なんだか、ソフトクリーム作ってるみたい……」
「ソフトクリームって何ですか?」
クロコが影の中から聞いてくる。
「えっとね、俺の世界での美味しくて甘い食べ物だよ、昨日作ったかき氷に似てる奴」
「アレにですか!? 美味しかったなぁ……」
クロコがうっとりした声を出す、顔は見えないが恍惚とした表情をしてるに違いはないだろう。
「アイスクリームはもっと美味しいよ、ミルクを使ってるから味も濃厚だし」
「うぅ……食べたいです……」
「うーん……似たようなものなら作れるから、今度作ろうか」
「はい! それとユウキおにーちゃん、一つ目の山が終わりそうだよ」
「分かった、じゃあ終わったら移動しようか」
それから夜の間に頑張って丘を作り終えたのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆
ミローズを出立してから早3日、俺達は王都と秘策用の丘が見える位置に陣取った。
だが現在は少し奇妙な事になっていた。
「ありゃー凄いね……」
「聞いてはいましたが……」
「戦う前から決着が着きそうだね」
「いやいや、戦わないに越した事は無いよ」
二つの軍を見比べる皆、そろそろナタリアさんも到着の時間だけど……。
「魔王様! 奥方様方!」
装備を整えたナタリアさんが到着する、これで作戦が開始できる。
「それじゃあ、俺とアミリアとナタリアさんで反戦派に接触してくるよ、軍の指揮はリリアーナ、その護衛にセレーネとマーレルさん。お願いします!」
「「「「「はい!」」」」」
◇◆◇◆
魔王軍を抜け出し、ゆっくりと反戦派へ向かう、すると気付いた軍全体がざわざわと騒がしくなる。
「それじゃあアミリア、頑張って」
「え、えぇ……」
拡声魔法の魔道具を手渡し、アミリアの言葉を待つ。
「すーーーはぁ……すーーーはぁ……よしっ……」
軍団に向き直り顔を上げる、その瞳には自信が見て取れた。
「私は、アミリア・フィルレイシア! この国、フィルレイシア王国の正当な後継者であり【アマトリウス教の聖女】でもあります!」
その言葉により一層ざわめきが強くなる。
「そして、【剣の聖女】その者でもあります!」
二本目の聖剣を抜く、すると昼間でも目が眩むような光が放たれる。
「私は、この国が好きです! 亡き父も亡き母もこの国を愛してました! ですが今の偽王が父と母を暗殺し国を乗っ取り、この国は荒れ果てています!」
先代の暗殺とそれがバルダーンの手によることがアミリアの口から出ると、反戦派の中で悲痛な声や、すすり泣く声が聞こえて来る。
「偽王よって土地の格差は広がり、耕作地帯は荒れ、魔王領への度重なる無謀な攻撃により国は疲弊、その結果王都には沢山のスラムが出来ています! それは長く王都に居た皆様なら良く知っているはずです!」
アミリアが言葉を切る。
「ですが私には力が無かった、スラムに落とされ、妹を守る為に瘦せっぽちになり、それでも守れず私達の命の火が消えかけていました……ですが、幸運な事に私は神様が遣わした勇者と出会いました! それが隣に居る彼です!」
何か、話の流れが変わって来た? というかアミリアさんなんか顔がやたら上気してない? 真っ赤なんだけど!?
「そして彼は持ち前の勇猛さで、私を救い! その力で魔族領の王女も救いました! 私はそんな彼を愛してます!!」
いや絶対関係無いよね!? というかナタリアさん何で涙流してるの? 反戦派からもすすり泣く声聞こえるし!?
「いや、アミリア……話がズレてるから……」
肩を叩き耳打ちするとハッとした顔をする。
「そ、そうね……」
そして向き直り魔道具を持ち再度声を上げる。
「皆さん! 私に力を貸してください!」
「「「「「うおおおおお!!!」」」」」
なんか……丸く収まったのかな? 拍手も聞こえるし……。
俺は何とも言えない状態でアミリア達と共に、反戦派を引き連れ陣地へ戻った。
「まぁ仲間に引き込めたしいっか……!」
それから魔王領の全軍が集結すると数は相当数の差が付いた状態になった。
「今度は俺の番だね、ちょっと行ってくる」
「優希様気をつけて下さい!」
「ユウキさん頑張って!」
「ユウキ、頼んだわよ……」
皆が不安そうな顔で見て来る。
「まぁ、程々でやってくるよ、降伏させるだけだし……」
俺は1人、残りの敵軍のへ向かって行った。
作者です。
本日も読んでいただきありがとうございます!
もし良かったら☆やいいねをくれると嬉しいです!!