第77話:最終決戦に向けて・婚約披露パーティー①
「それじゃあ、今日はよろしくね」
予定の確認を終えたノクタールさんが、嬉しそうに微笑む。
「はい。慣れないですが、頑張りますね」
そしてノクタールさんは、忙しそうに部屋を出て行った。
――――コンコン。
「はーい、どうぞ」
ノックの音と共に滑り込んで来たのは最近よく見る長い耳だ。
「聖騎士様ぁ~」
「どうしたのロップルさん?」
「お姫様達の婚礼の証を持ってきましたぁ~」
「ありがとう、ギリギリになっちゃってごめんね」
「いえいえ~私もこれを作るの夢でしたので!」
そう言って差し出されるティアラ、どれも目を見張る様な美しさだ。
「でも、結局は私をお嫁さんにしてくれませんでしたね~」
「いや、だって俺の事、本気で好きじゃないでしょ」
そう言うとロップルさんは、冷汗をたらりと流す。
「うぐっ……バレてましたか。はぁ、やっぱり私に恋愛とか無理ですよぉ……」
つまらなそうに言うロップルさん、当人の言う通り事あるごとにアプローチをかけてきていたが全部が本気じゃなかった。
「まぁ、この世界の人とは合わないみたいだし。俺の世界で探してみようよ」
「うぅ……高収入で職人でそこそこ背が高くて顔が良くて、私も職人仕事を許してくれて、それでいて真面目で優しくて、お金持ちで顔が良いなら誰でも良いんですけどねぇ~」
「わぉ、欲まみれ……」
「良いじゃないですかぁ~理想は理想なんですよぉ!?」
うーん理想は理想だけどなぁ……。
「もう少し妥協しない?」
「しません! 目指せ玉の輿!!」
「さいですか……」
ドヤ顔で言う彼女に少々呆れながら、言葉を切った。
◇◆◇◆◇◆◇◆
それからしばらくして、王城の鐘が鳴り、扉がノックされた。
「そろそろかな? はーいどうぞ」
扉が開くと中にシアが入って来た。
「ご主人様、準備が出来ました」
「ありがとうシア、それとこっちに来てくれないか?」
「はい、何でしょうか?」
「皆と違って、式には出れないから先に渡しとくね」
空間収納から先程受け取ったティアラを出す。
「ご、ご主人様!?」
「あの時は、なぁなぁで相手しちゃったし、なし崩しみたいな感じで悪いんだけど。改めて……シアの人生の、ほんの百年ほどしか無いけど、俺の隣で過ごしてくれないか?」
そう言うとシアの顔がよくわかるほど朱に染まり、涙が溢れ出る。
「良いんですか? ボクで……」
「あぁ」
「いっぱい人を殺したんですよ?」
「まぁ、俺もそこまで多くは無いけど……人を殺めてるし」
「ダークエルフですよ?」
「だから何? 俺はこの世界の人間じゃ無いし」
「でも……」
いつものシアらしくない、まぁ甘えてきてたけど一線引いて過ごしてたし、あれはシアなりのけじめだったったんだろう。
「シアは俺と一緒は嫌だ?」
「嫌じゃないです! でもボクの歳だと子供が……」
「それは……どうにかなるんじゃないかな?」
そう言うと、シアは顔を上げる、まだ迷いがある様だ。
「それに、このままだとティアラが重くて落としちゃいそうなんだよね……」
意味もなく手をぷるぷるさせて限界のフリをして手を下げる。
「ダメです!!」
その声と共に飛び込んで来たシアが頭でキャッチする、必然的に抱き付いている状態だ。
「受け止めてくれたね。それじゃあ、これからもよろしくお願いします」
膝を折って、抱き締め返しながら言うとシアの涙が決壊した。
「はぃぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛!! よろじぐおねがいじまずぅ゛!!!」
◇◆◇◆◇◆◇◆
それから他のメイドさんが様子を見に来てくれたタイミングでシアは泣き止んだ。
メイドさんもシアの頭を見て察してくれた様で、親指を立てた後どこかに消えちゃったけど、まぁ良いだろう。
「すみませんでした……」
「あぁ、大丈夫だよ、それより式典に遅れちゃいそうだし。シアはここか俺の自室で休んでな」
「えっ、それって……」
顔を赤らめるシア、今更ながらとんでもないパス投げをしてしまった様な……。
「い、いや! アミリア達の部屋は今日一日人の出入りも多いだろうし! 俺は特に着替えたりしないからさ!」
慌てて取り繕うと、ニヤッと笑ったシアが軽く口を合わせて、立ち上がる。
「わかってますよ~それと、リリアーナ様達から『今日の夜は寝かしませんので覚悟してください』だそうです」
「へっ? ちょっと!?」
「ボクもそのつもりですので、覚悟してて下さい!」
無邪気に笑って、シアは足早に部屋から出て行ってしまった。
「とりあえず……向かうか……」
部屋の扉を空け、お披露目の会場へ向かった。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「魔王様、お待ちしておりました」
「すみません、遅れてしまい」
「それでしたら、もう既に皆様にはご説明させていただいております」
「え゛つ?」
振り返るとノクタールさん含むリリアーナ達がニヤニヤしていた。
「あーあはは……はい……」
諦めつつ彼女達の方へ向かうと、満足そうなリリアーナが声を掛けて来た。
「やっと、シアの事認めてくださったんですね」
「全く……ユウキのせいでシアはすっと不安がってたんだからね」
「そうですよ~シアさんが可哀想でした!」
「うっ……すまない……」
「まぁ良いんじゃないかな、ダークエルフの彼女は幸運を運ぶ存在だし」
「そうなんですか?」
「あぁ、エルフ種の中でもハイエルフと同等に個体数が少ないのがダークエルフだ、数も全体で500人も居ない筈だよ」
「そうなんですね、でも幸運を運ぶって?」
さっきシアは別の意味の様に言ってたんだけどな……。
「あぁ、それはね……「コホンコホン」っと、そろそろ式典を始めないと……」
ノクタールさんの話が始まりそうなタイミングでメイドさんにせっつかれてしまった、時間も押してるし仕方ない。
「それじゃあ皆、バルコニーへ」
「ユウキ、行きましょう」
「優希様、さぁ」
「ユウキさん!」
そして溢れる光の中へ踏み出した。
作者です。
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