第72話:最終決戦に向けて・パーティー準備④
「さて、本題の話だが……」
居直したノクタールさんが神妙な面持ちで声を出す。
「今回のユウキ殿とセレーネちゃんの報告から警備隊と城内の兵士に勧告は出したけど、婚約パーティの日までは人の出入りがかなり多くてね……」
「仕方ないと思います、今日は偶然セレーネに執着した奴が居たから発見できた訳ですし、見つけられないのは仕方ないと思います。パーティー会場はこちらでどうにかしようと思いますのでノクタールさんは城下の警備体制やパレードの方をお任せします」
とは言っても、考えが無いんだけどね……。
「あぁ、それとユウキ殿の知識を借り受けたいのだが、いいだろうか?」
「はい、何でしょうか? 俺に出来る範囲でしたら……」
「ありがとう、実は――」
ノクタールさんは城下に入り込んだ【邪神の萌芽】持ちの割り出し方で悩んでいる様だ、城下に入る際の持ち物検査のチェックを厳しくするのは明日から実施するとの事らしいが、知りたいのは既に城下に入り込んだ者達の探し方らしい。
「それでしたら、宿帳を書いてもらうのはどうですかね?」
「宿帳? それは何だい?」
「えっと、俺の世界での話なんですが。宿に泊まる際は受付で名前と出身地なんかを書いてもらうんです。防犯の面もありますが、お客さんの情報を書き込めたりもするらしいです」
「ほう、それで大きく振り分けするのだね?」
「はい、魔族でも人間とそっくりな人も居ますから出身地を書いてもらえれば一発ですよ」
「それは良さそうだね」
「まぁ識字率が高いから出来る方法でもあるんですけどね……」
魔族領は長い歴史なのもあるが識字率が非常に高い、というのも魔族の中には発声器官を持たない種族も少数居て、そういった人たちの雇用や、商売の為に識字率を上げた歴史がある、共通言語ならぬ共通文字というものがあるのだ。
「それは良かった。だが、問題が一つあってね」
「えっと……何ですか?」
「紙の生産が足りないんだよ、宿帳というのはかなりに数になるだろう?」
「あーそうですね……盲点だった……」
「まぁ、型が作れるまでは白紙に書いてもらおうか、その型作りも手伝ってくれるかい?」
「はい、お手伝いをしますよ」
「それでは食事の後にでも頼むよ」
そう言ってノクタールさんは湯船から出て行った。
◇◆◇◆◇◆◇◆
そして、手の空いてる司書さんや編纂師さんなどの手を借りて手書きで百冊近い宿帳作りをしたり、城下の警邏で酒場や市場で【邪神の萌芽】持ちを探す事数日、婚約披露パーティの二日前になった。
「はぁ……疲れたぁぁぁ……」
「お疲れ様です、優希様」
部屋のソファーに座ると、リリアーナが水差しから水を入れて持ってきてくれた。
「しかし……疲れましたね……」
「そうね……」
「皆さんお疲れ様です……」
リリアーナが皆にも飲み物を配っていく。
「いやーリリアーナも大変よねぇ……」
「そうですね……貴族の皆様への挨拶が主ですからね……」
「ごめんな、俺が城下に出張ってるせいでお任せになっちゃって……」
「いえ、優希様達の方が大変で重要なお仕事ですので! 私は挨拶など手馴れてますし、つい最近まで病床の上でしたので面会も私が体調悪そうにしてるとすぐに終えてくれますから!」
ドヤ顔で、胸を張るリリアーナ、流石にそんな力技で済ませてるとは……。
「うん、明日は俺もそっちに参加するよ」
「よろしいのですか? 私は嬉しいですが……」
「流石に各軍の将だし、それを率いる俺が出ないのも問題だからね」
「それなら、私も出ようかしら。一応聖女だし……」
「じゃ、じゃあ私は……」
セレーネがしゅんとする、俺は気にしないけど貴族の多い場所だとどうしても『肩書』が必要になるか……。
「そうだなぁ……セレーネは〝侍〟にするか……」
「「「侍?」」」
「そう、俺の国での騎士にあたる人なんだけどその中でも地位の高い人に使う言葉なんだ」
「「へぇ~」」
「そうなのですね」
「それに、セレーネの持っている武器が〝侍〟の武器だからね」
大太刀と小太刀を備えるセレーネ、そういえば……。
空間収納からお土産の一つを取りだす、何で渡されたのか疑問だったけどこの為だったのかな?
「セレーネ、こっちにおいで」
お土産を机の上に置き手招きをする、中から藍色に牡丹と金糸の刺繍の袴とこげ茶のブーツを取りだす。
「ユウキさんそれは?」
セレーネが覗き込む、取りだしてあててみるとセレーネの背丈にぴったしだ。
「これは俺の世界での服で袴ってやつだね、着てみる?」
「はい!」
キラキラした顔で元気よく答えるセレーネ、でも着せるのって……俺か!?
(でも、今更駄目とは言えないし……やってみるか!)
――5分後——
「やっと着せられた……本を見てても難しいなぁ……」
箱の底に、栞の挟んであった着方の本があったので見ながらやったのだが、かなり難しかった、これなら春華と冬華に教えて貰っておけばよかった……。
(いつもは俺だけジャージだったし帰ったら教えて貰おう……)
「わぁ~ユウキさんこれ可愛いです!!」
くるくると回るセレーネ、虹色に輝く髪に藍色と牡丹の柄が似合う、金糸の刺繍で更に豪華さがある。
「いいなぁ~可愛いです~」
「可愛いわね……」
「セレーネおねーちゃん綺麗~」
いつの間にかクロコが来てたけど、多分ノクタールさんのお使いだろう。
(まぁ、侍が着る様な袴じゃなく、ブーツなので和モダン喫茶の制服みたいに見えるのは言わないでおこう)
「俺の世界に来たら、皆で着ようか。俺も皆の着物姿見たいし」
「良いのですか!?」
「やった!」
「わーい!」
喜ぶ皆を見ていると部屋の扉がノックされた、皆がセレーネを囲んでるので俺が代わりに出る。
「はーい」
――ドゴォ!!
「ひでぶっ!?」
「わわっ! ユウキさまぁ!?」
ラティティの声が聞こえる、恐らく思い切り開けたせいで俺は吹き飛ばされたらしい……。
作者です。
本日も読んでいただきありがとうございます!
もし良かったら☆やいいねをくれると嬉しいです!!
活力になるので!!