第53話:王都の近況とあのオッサンのその後。
皆とキャンプを楽しんだ翌日の夜、俺は1人でウルベリックさんの所へ来ていた。
「よっと……最近はどうですか?」
鐘楼へ降り立った俺が、ウルベリックさんに問いかける。
「うーん、魔王様のお陰で王都に兵が集められてるんですよ。それもあってか我が領も兵を出してるんですよね」
「あーそれは……すみません……」
「いえいえ! それもあってかこちらの手勢を上手く送り込めていますので!」
「そうなんですか?」
「えぇ、今では向こうの資材から武器なんかの仕入れまでもう漏れまくりですよ」
「マジですか……」
「えぇ、大助かりですよ!」
反戦派も引き入れているとは……数どのくらいになるんだろう……。
「あはは! その顔は城の戦力を気にしてますね。大体1万2千くらいで、その内反戦派は7千です」
「は?」
7千? マジで?
「呆れますよね、あの魔王様の攻撃で大半の主戦派がビビっちまって、ロクに兵を出せるのが反戦派だけなんです」
「えぇ……」
「しかも魔王様の事、尾鰭・胸鰭・背鰭まで付いてるんですよ?」
「うそん……」
あの件がどんな誇張してるのか知りたくないんだけど……。
「まぁ少なくとも一撃で1万の兵を葬るし、死者は邪法で蘇生してアンデットにされるとか言われてます」
「えぇ……」
「しかも古代魔法を継承してて、魔王に滅されると来世が来ないとか言われてます」
「俺そんな外道じゃないよ!?」
「という訳で、向こうが勝手にビビッて自領を固めてて、王都に割ける兵が少ない少ない」
「今の王ってそこまで人望無いの?」
そう聞くと、少し悩み込むウルベリックさん。
「そうですね、確かに人望はあまりない……だが、あの王は口車が上手くてね。以前のクーデターの際は日和見で甘い汁を吸いたい貴族を上手く扇動して前王を追いやったんですよ」
「へぇ……それで今回の俺の噂で日和見の連中がこっちに着いたって感じか」
「そうそう、特に【特区】と呼ばれない領地の連中ですね」
「【特区】?」
聞きなれない単語に首を傾げる。
「えっと……カジノって言ったらわかりますか?」
「あぁ、そういう事」
「そうです、カジノや高級煙草、高級酒なんかの特殊品の生産を許可された地域で正直この世界の貧困を発生させてる原因です」
「あぁ、カジノじゃ大儲けしたもんなぁ……」
「魔王様もう行ってたんですか……あれ、そういえば目玉商品で宝石獣が居ると噂になってましたが……」
「あ、はい。この間連れて来てた、セレーネという娘がその子です」
「成程、流石ですね」
「流石って何ですか、流石って……」
「いやー好色家だなぁ……と……」
「いや、殆ど偶然の積み重ねですから!」
「偶然であんなに奥さん居るなんて、おかしいですよ?」
「仕方ないじゃないですか、出来ちゃうんですから……」
「なんか子供みたいですね……」
「止めて下さい、何となく納得しかけちゃいましたよ!」
「あはは、すまないすまない」
笑うウルベリックさんから、その後も色々な情報を貰うのであった。
◇◆◇◆◇◆◇◆
ウルベリックさんとの密会を終えて戻って来た翌日、朝食を終えた俺はノクタールさんと今後について話し合っていた。
「という事で、約5千が敵の軍ですね、もしかしたら反戦派の7千で抑えられそうですけどね」
「とはいえ、こちらも軍を出さない訳にはいかないだろう? それにその日和見を確実に動かすなら数が一番だからね」
「そうですね、やっぱり数が少ないとどうしようもないか……」
「まぁ、ユウキ殿が山一つ吹き飛ばしたら、即寝返りそうだけどね」
「あはは……それで簡単に寝返るなら苦労は無いですね」
「いや、冗談だったんだが……出来るのかい?」
「ま、まぁ仕込みは必要ですけど……抉り取るくらいなら?」
「そうか……なら戦力は8千くらいで、残りはユウキ殿が山を吹き飛ばしてビビらせようか」
「わかりました、そうしたら山の調査に行ってきますね」
「あぁ、頼んだ。私は諸侯に連絡しよう、丁度面白いものも出来上がったし」
そう言ってニヤニヤと小さな石像っぽいものを取り出したノクタールさん、中身は布に覆われてわからないけど……。
「見てくれ、これが【聖剣の聖女】像だ」
ドヤ顔で取り出したのは色付きの像で、完全にアミリアだった。
「いや、その像って作られてるんじゃないんですか?」
「そうなんだけど、今回はアミリアさん……聖女様監修というお墨付きで、サインも同梱してるんだ! オマケに最初から最後まで参戦した諸侯には聖女様とのお茶会も開催予定さ!」
「特典商法じゃないんだから!」
「特典商法……かそう言わせてもらおうか。ちなみにお茶会は聖騎士である君も一緒だぞ? 救国の英雄二人とお茶会なんて本来じゃありえないからな」
そう胸を張って答えるノクタールさん。いやいや、俺達が名乗っても信頼の要素無くないか!?
「いやいや、貴族達にはどう説明するんですか!? 俺達が本物って信じてもらえるかはわからないんですよ!?」
そう言うと、ノクタールさんは二枚の絵姿を取り出した。
「実はな、ユウキ殿の容姿は伝えられている容姿でな。聖女様の容姿もこのように残されているのだ」
「ほんとだ……どうして……」
「これはとある貴族の家から見つかったものでな、その貴族の主流は潰えてしまったが支流の家が大事に保管していたのだ」
「そうだったんですね」
「あぁ、その貴族は魔王と呼ばれる悪神の手先に殺された所を聖女様に、命を聖騎士様に救ってもらった事により。自分の家が傾く程に生涯善行に尽くしたと言われている」
その言葉を聞いた瞬間、あのオッサンだという事が分かった。
「そうか……あの人は本当に改心したんだな」
「それで、民からも慕われ、いくつもの分家が生まれたのだ」
「そうだったんですね……」
「その顔は知ってるようだね、もし良かったらこの戦いの後見舞いに行ってくれないかな?」
ノクタールさんがニコリと微笑む。
「わかりました、その内機会を設けて、アミリアと向かいますね」
「あぁ、ありがとう」
そう言ってボロボロの絵姿を見る、アミリアには後光が差してるし、俺は神の様な姿になっている。
顔が滅茶苦茶そっくりなので、気恥ずかしかったりするけどね。
作者です。
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