第43話:少女の能力と王城潜入
ミローズから戻り二日、魔王城にある俺の居室にシアと以前セレーネとの見回りの際に孤児院で出会った夜魔の少女、確か……クロコちゃんが居た。
「えっと……何で彼女が居るの?」
「僕がこの間、アミリア様と孤児院回りした時に、見つけたんだけど。クロコは影転移っていう固有魔法が使えるんだ」
「影転移?」
「そう、その名前の通り。影から影に転移出来る魔法なんだよ」
「へぇ……凄いね」
「それに、影に潜むことが出来るし隠密にはうってつけだろ?」
「まぁ、それはそうなんだけど……」
ちらりとクロコちゃんを見ると目が合う。恥ずかしいのか、顔を赤くして半分くらい影に沈みながらこちらを見ている。
「それに、この子の将来の事を考えれば、鍛えておいて絶対損しないからな」
「将来?」
「あぁ、どうせご主人様の世界やこの世界、もしかしたら他の世界にも行くかもしれない。そうでなくてもこの世界で半端に冒険者をやってるなら、ご主人様の世界に連れて行って冒険者やらせてた方が安全だろ?」
「いや、連れて行ったりはしないけど……」
「いやいや、影に潜んで転移が出来る逸材だぞ!? 諜報、暗殺、潜入、破壊工作、何にでも使えるんだぞ!?」
マジか!? みたいな顔をするシア。いやいや、こんな少女にそんな事させられないよ。
「それに、ご主人様が使わないとする。でも力は隠しておけないし、権力者に目をつけられたりする。そうなると、孤児院にも迷惑かかるぞ?」
「それじゃあ、王城で保護してもらえれば……それか冒険者として独り立ちするのは?」
「どの道孤児院は襲われるだろうね。それで責任を感じたクロコが犯罪に手を染めるのは目に見えてるよ。冒険者はまぁ……やって行けるだろうけど、能力をひた隠しで生きるのは無理だからな。遅かれ早かれの問題だよ」
溜息をつきながら言うシア、やれやれと言った感じで肩を竦める。
「うーん……だからといって今回連れて行かなくても……」
「それは、クロコからの要請でね。ご主人様達の手伝いがしたいからという理由なんだ」
「そうなの?」
クロコの方を向いて聞くと首を大きく縦に振る。
「わたしがお手伝いをお願いしたの。それと、ユウキサマに認められればものすごいおちんぎんがもらえるって……」
そう言ったクロコの目はしっかりとこっちを見ていた。うーん、このまま放っておくのは問題を生み出すだろうし、それを考えると先に手を打った方が良いよなぁ……。
「わかった! それじゃあ基本的には、俺とシアのいう事をちゃんと聞く事、わかった?」
「はいっ! がんばりましゅっ!」
息込んだクロコが舌を噛む、痛そうにしてたので回復魔法をかけておいた。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「さて、ここまで転移してきたのは良いけど……」
「まだ昼ですねぇ~」
「入るのは……夜になってからですか?」
鞄の中からひょっこり顔を出したクロコが聞いてくる。
「そうだね、闇夜の方が見つかり辛いからね」
「まぁ、そんなこともあろうかと、僕はこの様な物を用意しましたけどね」
シアが謎の鍵を取り出す。
「シア、それは?」
「王城が緊急事態の時に使う、脱出口の鍵」
「なんでそんな……そうか最初追いかける時に使ったのか」
「そうそう、まぁ、脱出口の場所はわかるし最悪はご主人様が何とかしてくれるでしょ?」
「まぁ……そっちのが楽だし、それはどうにかするよ」
それから王城の見える位置まで来ると池があった。
「あそこの小島に隠し扉があるから、あそこまで行こう」
「わかった、シア掴まって。クロコは影から出ない様に」
「え? 良いの?」「はい!」
「良いも何も……俺が連れて行った方が早いからね」
シアを抱え一息に小島に飛ぶ、着地すると長く伸びた雑草の中に鉄扉があった。
「はい、お待たせ」
「かっ、鍵は……うん、大丈夫」
顔を赤くしたシアが鍵を開ける。扉は安全の為に俺が開ける事にする。
――――ギギギッギギ……
「「うわぁ~カビ臭ぃ!」」
それに混じって水の腐った匂いが鼻を突く。
「シア、これを。クロコ匂いは大丈夫?」
シアへはガスマスクを、クロコは影の中に居るので大丈夫の様だ。
「どりあえづ、風魔法でぐうぎのいれがえずるで」
鼻を摘まみながらなので言語は怪しいが、シアは判ったようで大きく頷く。
地下通路へ風魔法を流し込み新鮮な空気を送り込む、段々と臭いが霧散していくとやっと普通に喋れるようになる。
「いやーきつかった……」
「そーだねぇ。今思えば、良くここ通ったな僕……」
遠い目をして思い出しているシア。
「とりあえず先に進もうか、ここは地下牢に通じてるんだよね?」
「うん、僕の居室は基本そこだったからね」
「酷いなぁ……」
「先代、アミリアのお父さんの時はちゃんと城の一室に居室を作っててくれたんだよ、その後は薬と暴力で従属させられてたからね」
「「……」」
「あぁ、引かないで! ご主人様に治してもらって今は元気いっぱいなんだから!」
慌てながら言うシアを俺とクロコが抱きしめて撫でていた。
作者です。
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