第41話:宝石と先祖と出発
「店主のおじさん、それは?」
何かを感じ取ったのかセレーネが箱を気にする。
「これは私の曽祖父のもっと昔から受け継がれてたもので、話に聞くと我が一族の至宝が入っているのです」
「それと何で私が関係あるの?」
「それはですね、もし宝石獣の者が来たら。渡して欲しいとの言い伝えが残っているのです」
「へぇ~」
まじまじと箱を見る、金属質で所々錆びはあるものの綺麗な状態だ。
「ですので、こちらはお客様の物です」
「ふぇ!? いや、私は確かに宝石獣ですが!? もし偽っている人だったらどうするんですか!?」
「それは確かにありえますね……ですので、お客様の額の宝石が本当の宝石獣の物であれば開錠されると聞いております」
おじさんは額を指差して言うとニッコリと笑う。
「セレーネ、ちょっといい?」
「あ、うん。ユウキさんどうぞ」
「ありがと『——鑑定』」
箱を受け取って鑑定をする、するとこの箱は500年前の物で宝石獣の冒険者が作り上げた魔力鋼の箱らしい。宝石獣特有の宝石魔法を使うと開錠されるらしい。
「うん、大丈夫みたい。500年前の宝石獣が作ったんだって」
「ふぇー凄いですね……」
「開けてみたら? 持って宝石魔法を使うと出来るみたい」
「でも、私。鍵を開ける魔法なんて……」
「多分、魔力を込めて《《開け》》って願うだけで開くんじゃない?」
「そうなのかな? 『——開け!』」
額の宝石と箱が淡く光り箱が開く、すると中にはセレーネの宝石よりも一回り小さく淡く光る宝石と、手紙が入っていた。
「えっと……『いらっしゃーい子孫ちゃん。こうして里を出て外の世界で60年。私は素敵な旦那様を見つけて(中略)それでラブラブちゅちゅして余生を過ごしました。マレール』だそうです」
「なんというか……」
「凄い惚気でしたね……」
「すみません……私の祖先が……」
「ま、まぁ里の外に出た宝石獣が楽しそうで良かったです?」
「恥ずかしっ!!」
両手で顔を覆って恥ずかしそうにする店主。家宝として長く伝わって来た開かずの箱を、開けて貰った後でこれだけ惚気られてたら恥ずかしいだろうな。
「えっと……このお手紙どうします?」
「恥ずかしいですが、我が祖先の墓にでも報告させてもらいます。それに宝石獣に縁のある店としてやってきましたので、宝石獣直筆の手紙として飾っておきますので差し支えなければ手紙だけ頂けますと……」
「あ、はい。どうぞ、私、この人の子孫でも無いし、親族が居たとかわからないので。どうぞ……」
なんだか触れちゃいけないアイテムみたいに扱われる惚気手紙、というかこれ、見える位置に飾るのか。
「あ、勿論宝石は持って行っていただいて大丈夫です!」
「あ、はい……頂戴します」
なんとなく気まずい感じになったのでそのまま何も買わずに出てしまった。
「良かったの?」
「また今度買いにくればいいので、それよりもこれ、どうしましょうか?」
セレーネが宝石を持ちあげる。確かにこの大きさだと加工するのも一苦労だ。
「うーん、何かに加工してもらう?」
「加工ですかー悩みますね」
むむむと悩むセレーネ、何か頼れそうな人とか宝石獣について詳しそうな人……。
「あ、あの祠の先人に聞いてみるのはどうだろう?」
「あの人たちですか? それがいいかも……」
「じゃあ帰りに寄ろうか」
「はい!」
それからは再度洋服屋とかこの世界にしては珍しいカフェに入ってお茶などをした。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「よし、じゃあ出発しようか」
「「「「はい!」」」」
空馬車に乗り込んだ皆が元気に返事をする。
「長い間、ありがとうございました」
「もし、ミローズに来る事があればまた来てください」
「えぇ、その時はまた来ますね」
「ご飯も美味しかったです」
「お風呂が良かったですわね」
「こんな宿、初めてだったので楽しめたわ」
「んふふ~ではギルドの方に伝えてありますので後は良くして貰ってください!」
そして走らせると若夫婦が丁寧にお辞儀をして送り出してくれる。
「ロップルさん、さっきは何を話してたんですか?」
「実は、グローグさんにあの宿を少し弄ってもらえる様に言ったんですよ」
「あぁ、あの事ね。なんとなくわかった」
「そうです、まぁ細かい意匠とか金具作りは私がやっちゃたんですけどね」
てへへと笑うロップルさん。
「何の話です?」
置いてきぼりにされたリリアーナ達が問いかけて来る。
「あぁ、あの奥さん妊娠してただろ?」
「えぇ、少しですがお腹が出ていましたね」
「それで、あの宿階段が少し急だったり、お風呂が少し滑りやすかったじゃん。それでそのままだとあぶいないし、手すりが無かったからね」
「そうだったんですね、確かにあの階段急でしたものね」
「お風呂場のタイルも滑りやすかったしね」
「流石ユウキさん」
「あはは、俺の世界はそういった物が発達してるからね」
(その内、俺の家も皆が住めるように考えないとなぁ……)
そんな事を考えながら馬車を走らせるのだった。
作者です。
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