第29話:帰ってきました!
光に包まれた視界が開けるとそこは水の中だった。
「ごばおごぼごぼごぼご――」
ロップルさんが突如水の中に飛ばされたので、わけもわからず暴れている。
(いやまぁそうなるわな……っと『——魔装・クロケル!』)
水竜と天使の混ぜ合わせの魔装を展開して高速で泳ぐ、そのまま水面から飛び出して縁に着地する。
「はぁ……はぁ……二人共大丈夫?」
アミリアもロップルさんも体調が悪そうだ。
(そういえば前に、スキューバダイビングとかで一気に浮上すると体調が悪くなるとか漫画で読んだな)
「とりあえず二人共、『——状態異常完全回復』」
「うぇ~ありがとうユウキ……」
「げほっげほっ、死ぬかと思いました……」
「あはは……そういえばあの時アミリアは潜って行ったって知らなかったもんね。そういう俺も忘れてたけど……」
「それで……今はどのくらい日が経ったん……ぐえっ」
まだ月が頭上にあったので。見づらいものの時間経過を調べる為星を見上げた瞬間、鳩尾に何かが突っ込んで来た。
「うわぁぁぁぁぁあ!! ユウキさーーーーん!!」
それは約一月ぶりに見る、虹色の輝きだった。
「ははっ、ただいまセレーネ」
半ベソかきながらぐしぐしと俺の服にいろいろなモノを擦り付けるセレーネ。
「それで、優希様はどこに行ってらしたんですの?」
スッと飛んできたリリアーナが俺の背後に降り立つ。
「あはは……少し過去の世界を救いに……」
「過去の世界ですか……? 私にはわかりませんが恐らく大変だったのですね……そ・れ・で、そこの女性は一体なんですの?」
「ひぃ!? わわわたワシは、聖騎士様の部下です!!」
簀巻きにされたロップルさんをいつの間にか作った剣で指し示すリリアーナ。ハイライトが消えてるんだけど……。
「えっと……戦争孤児の子で、俺の世界で働きたいって言うからスカウトしてきた」
「そうなんですね。私、吸血鬼の姫でリリアーナ・ノーブルブラッディと申します。未熟ですが優希様の妻をやらせていただいてます」
「ノーブルブラッディって……東の大国の王様じゃないですかぁ!?」
「あら、私の家系が東の国出身と良く知ってますわね……かなり前の事だというのに……」
「だって神教国の王女様は、ノーブルブラッディ家、当主の妹君ですから!!」
「へぇ~そうなんだ」
回復したアミリアがやって来る。体調も問題無さそうで良かった。
「それに先程おっしゃっていました神教国とは、グリームス神教国の事ですか?」
「はい、そうです」
話を向けられたロップルさんが横たわった状態で答えた。
「あーアミリア、ロップルさんの縄解いてあげて」
「わかったわ、ほら動かないですね」
セレーネが抱き付いて動かないので代わりにアミリアにお願いする。
「それで、優希さん達は何をしていたのですか?」
「えっと……邪神が現れててね、それを倒したんだ」
「邪神……つまり優希さん達はおおよそ2000年以上前に行っていたのですね」
「にせん……ってマジか……」
「えぇ、聞いた話だと我が家に残る口伝ですと、『聖剣の聖女とその伴侶である聖騎士によって邪な神は打ち払われ世界に安寧の光が満ちた』と言われてます」
あれぇ? 思い当たる節しかない。
「さらに続きがありまして『偉大なる二人の功績を絶やさぬよう書を残し、口伝を残し、永劫感謝を忘れぬ様』と言われております」
「あぁ! だから聖女として回ってた時に剣を持たされてたんだ!」
「えぇ、『聖剣の聖女』というお話は童話にもなっておりまして、わが国では一様に幼き時から読み聞かせや寝物語として語られております」
「そうだったんだな……ってアミリア? どうしたんだ?」
顔を膝に埋めたアミリアがぷるぷる震えている。
「いや……その絵本孤児院で読み聞かせしてたんでたわ……しかもカッコつけながら……」
あー恥ずかしいなそれは……。
「ま、まぁ期せずして孤児院の子達も本物の聖剣の聖女様に読んでもらえるなんて思ってもみなかっただろうね」
「それは、そうだけ「ぶえーっくしっ!!」」
ロップルさんが大きなくしゃみをしつつ震えていた。
「そういえば服濡れっぱなしだったな……リリアーナ、アミリアとロップルさんをお風呂に入れてあげて」
「わかりましたわ、セレーネさんはどういたします?」
「私も行く……」
俺がずぶ濡れだったのかセレーネの顔がぐちゃぐちゃになってたのかわからないけど、服が濡れていた。
「それじゃあ皆で行こうか、セレーネの家だと入らないから家を出すよ」
「わかったわ」
「あの時のお家ですか!?」
「うん、そうだよ。あそこなら広いしみんなで休めるでしょ?」
「「家を出す?」」
リリアーナとロップルさんが首を傾げた。
「あぁ、二人は見た事無かったっけ? まぁ見た方が速いか……セレーネ、使ってもいい広いところある?」
「あるよー、こっちこっち!」
セレーネに先導され空き地に行き、空間収納から家を出すと二人が唖然とした。