第19話:魔王と貴族と聖剣と
王様と密談してから三日後、第一砦を前にした連合軍は足止めをくらっていた。
「何なのだアイツは!!」
「我々の前に何度も何度も何度もぉ!! 出て来て小癪な!」
「そういえば王よ、聖騎士様と聖女様は?」
「あの二人は神託を受け、あの恐ろしき者を倒す為に聖剣を作っておられる」
「おぉ! それならばもう少しの辛抱だな!」
「お主たち……もう少し場をわきまえよ……仮にも無関係な我々の為に戦ってくれている者達だぞ……」
「平民なぞ良いであろうが……、それではそろそろ戻らせていただきます」
そう言って天幕の外へ出て行った。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「すまない、ユウキ殿」
全員が出て行った所で王様が申し訳なさそうに言う。
「いえ、それにしてもあんな駄目な貴族居たんですね……」
「あぁ、あ奴は魔族側の公爵家でな、王女の外戚の者なのだが国の一大穀倉地でしかもかなり大きくてな、それに今回の遠征の糧秣は彼が出しているのだ」
「それで顔がデカいと……舐めてるなぁ……」
「本当にすまない……」
まぁ食事や諸々を負担してるのはそれだ軍においては大きいからなぁ……。
(とはいえアミリアを無礼くさってるのはムカつくな)
痛い目を見せたいが糧秣を焼くのも問題だしなぁ……。
「いっそ殺すか?」
思わず声に出ててしまい、王様にぎょっとされた。
「いざとなれば、生き返らせれば良いかな~と思いまして」
「そんなことが出来るのか……」
「えぇ、まぁ人数は限られるので死んだ人全員とかは無理ですが」
「本当に規格外じゃな……」
「よし、面倒だし殺して蘇生しよう! ついでにアミリアへ忠誠心も高めさせよう!」
もう面倒ださっさと半殺しにして命乞させればいいか。
「わかった……だがなるべく兵には損害を出さんでくれよ……」
「大丈夫ですよ、そこは上手くやりますから!」
という訳で方針を決めた俺は早々に街へ戻った。
◇◆◇◆◇◆◇◆
――――カーン――カーンと金槌で金属を叩く音が響く。
「よし、これで冷やして……」
「ジュウウウウウ」と激しい蒸発音が鳴り鉄の塊が冷える。
製法は昨日教えて貰ったからそれをなぞって槌を振っている。
「ふぅ……」
赤く熱された炭の上に置き上から魔力を込めた炎で熱を与える。
「色がほんのり青くなってきた……よし、成功だ」
今失敗作を含め三個目の鋼を叩いている。今回は魔法剣として作る為素材に魔力の籠った鋼が必要なのだ。
「魔力を込めつつ……一振り一振り垂直に落とす様に」
――カーン――カーン。
本来は折り返しに関してはいらないのだが。魔力を込めるという工程を踏む為に必要なのだと教えられた。
「今は失われてるらしいし、文献が一部残ってる位しか無かったからね。職人ギルドの皆には感謝しないっと!」
そして最後に力を込めて叩くと一際輝きが強くなった。
「よし、完成!」
これで基本となる『魔力鋼』が出来上がった。
「この武器なら、アミリアでも邪神を斬れるでしょ」
汗を拭い伸びをすると、工房の扉が開いた。
「おーい兄ちゃん、大丈夫……ってマジかよ……」
入って来たドワーフのおじさんが目を丸くする。
「あ、丁度出来ましたよ」
「マジに作っちまうとは……」
顎を撫でながら唖然とした顔をしていた。
「じゃあ次の段階ですね……」
「おう! 次は失敗した魔力鋼を外側にするから叩いて行くぞ、これは俺がやるから少し休んでてくれ」
「わかりました、夜食食べてきますね……」
「おう、聖女様は食堂だぞ~」
◇◆◇◆◇◆◇◆
ドワーフのおっちゃんに乗せられた訳じゃ無いんだけど食堂まで来た。
「さて……アミリアは……っとと」
中を覗くとアミリアが何か作ってる様だった。
あれはシチュー? なんか味見しては『うんうん』と唸っている。
(とりあえず出ていくか、必要なら手伝えば良いし)
「はぁ~腹減った……」
そんな事を考えながら食堂へ入るとアミリアの肩が跳ねる。
「ユ、ユウキ!? 終わったの?」
「芯になる魔力鋼の部分は出来たよ、今はそれに合わせる鉄鋼をおやっさんが打ってる所」
「そうなのね、それでユウキ……お腹はすいてるわよ……ね?」
「うん、空いてるよ。流石に帰って来てから10時間は経ってるからね」
「それじゃあ……シチューを作ったんだけど……食べる?」
「良いの?」
「えぇ、とはいっても何かユウキの作るのと違うのよねぇ……だから食べて貰ってアドバイスが欲しいのよ」
苦笑いをしながら言うアミリア、覗いた鍋には綺麗なホワイトシチューは入っていた。
「それじゃあ一口……」
少し器に入れて食べると原因がわかった。
「これはアレだね、使ってるお肉が違うんだよ」
「お肉でそんなに味が変わるの?」
「うん、お城とかで使ってたのは兎とか鶏の肉だったんだけど今回は牛の干し肉使ってるでしょ」
「えぇ、水で戻した干し肉使ったわ」
「その汁は?」
「流しちゃったわ……」
「そっかー、干し肉はうま味が水に出ちゃうから。軽く洗って埃を落とした後は、戻した汁ごと煮ちゃって良いんだよ」
「そうなのね、今度は気を付けるわ」
「それじゃあ今回は肉を焼いてから入れよう」
「わかったわ!」
フライパンを取り出したアミリアに以前に買って空間収納に入れておいたお肉を取り出した。