第36話:ヒマリとアミリア
◇アミリアside◇
「またこの空間……」
ユウキとのお話の最中、疲れからか眠気に負け。目が覚めるとヒマリさん達の居る空間に私は連れて来られていた。
「おはよーアミリアちゃん」
「あ、おはようございますヒマリさん」
「元気……とは言えない感じだったね」
「まぁ……お陰様で久々にあの人と話が出来たので良かったのですが……」
「へぇ~そこら辺の話聞きたいわねぇ~」
立ち上がったヒマリさんに連れられお茶会の席へ着く、今日は他の人が居ないで二人きりだ。
「ごめんねー、今日のお茶は私が淹れたのだからあんまり美味しくないかも~」
舌を出しながらヒマリさんが紅茶を淹れてくれた、乾燥したフルーツが入っていて口当たりが凄く良い。当人はあまり美味しくないと言っているが私には十分美味しく思えた。
「いえ、美味しいです、これは何の紅茶ですか?」
「えっとね~フルーツフレーバーなんだけど……なんだったっけなぁ……」
ユウキが使っているような空間収納から色彩豊かな箱を取り出して眺めている。
「あぁ、ベリー系と柑橘系を合わせた奴だって! ってわからないか」
「そうですね、ベリーと言うと木苺なんでしょうけど見た事無いですし、『カンキツルイ?』に至っては全くわかりません……」
「そうだよねぇ~言語は通じる様にしてるけど具体的な日本語のモノは伝わらないよねぇ~」
箱に描かれた絵を見てみるが黒い実と木苺っぽい赤い実、それと初めて見る果実の絵が描かれていた。
「この夕日色のが『カンキツルイ』なんですね」
「そうそう、他にも黄色とかもっと濃いオレンジ色があるよ」
「『オレンジイロ?』とは?」
「あーそうか、柑橘類が無いんじゃオレンジも無いよね、えっとね……これこれ」
ヒマリさんは銀色の金属の板を撫でると私に移り変わる絵を見せてきた。
「これが『オレンジイロ』ですか……濃い夕日色なんですね」
「そうそう、オレンジって果実の色だからオレンジ色なんだよ」
そう言って笑うヒマリさん、美しさの中に見せる少女の感じが私でも見惚れてしまう。
「でも、何故私にそれを教えてくれるんですか?」
「あーうん……まぁそれはおいおいわかるとして……アミリアちゃんには私のとっておきをあげましょう!」
ヒマリさんが空間収納から謎の入れ物を取り出した。
「これはね、私のとっておきの蜂蜜で『蜜柑蜂蜜』なんだ~これをこの紅茶に入れるとすごく美味しいんだよ~」
そう言うとひと掬いした蜂蜜を私の紅茶へ落とす、それは当然美味しいに決まってる。
蜂蜜なんて私の世界じゃ凄く高級品だ、普通私の世界の甘い調味料は北や南の先端地域にある樹蜜を加工したモノや甘い蜜を含んだ花から絞られたものだ、それでも大銀貨数枚はする。魔王領じゃほんの少しだけ蜂蜜は出回る、だがそれでも金貨数枚になるほどの高級品だ。
「い、いただきます……」
少し震える手で蜂蜜が入った紅茶を飲む……。
「ふぁぁぁぁぁあ~」
美味しすぎて口から魂が出るかと思った……。
紅茶の甘味が増して、それでいて後味の爽やかさがスッと来る。今まで飲んでた紅茶の数段上に美味しさが増している。
「ふふっ……そこまで喜んでもらえると嬉しいわね」
ヒマリさんがくすくすと笑う、その声に私は居住まいを正す。
「凄く美味しかったです、いままで飲んだ紅茶とは格別でした……」
「それは良かった、お代わりもあるから言ってね」
「はい、ありがとうございます!」
それからしばらく、紅茶や食べ物についてのお話をしていた。
「そうそう、アミリアちゃん。貴方が好きな優希って人、何で好きなの?」
思い出した様に言うヒマリさん、その言葉に私は少し心臓が跳ねた。
「えと……あの……」
「ん? 好きじゃないの?」
「いえ……好き、です……」
「へぇ~どうして好きになったの?」
ニヤニヤとしたヒマリさんに詰められる私、なんだろうこの空気……セレーネさんとかシャリアさんとかと話した時にも感じた独特の感じだ。
「えっと……ユウキは最初は不審者だしよくわかんないし、それに私の名前を知ってて不気味だったけど、攫われそうな私を助けてくれたし、レナの命を助けてくれた。それに私がやりたいと言った事を嫌な顔せず手伝ってくれるし、優しいし、女の子すぐ拾って来るし、それに飄々としてるとこがムカつくし、スケベだし……」
「あはは……」
「でも、ユウキは私の事を前王の娘とも政治的な駒とも見ていない、ただ一人の人間として……【アミリア】として見てくれる。それが凄く心地よかったし嬉しかったの……」
「あーそういう所ナチュラルにあるわよね……」
「ヒマリさんは知ってるんですか?」
「あはは……そりゃずっと見てるからね」
「やっぱりヒマリさんって……」
「おっと、それ以上は無しだよ、今ここに居るのは聖女アミリアとただのヒマリだからね」
「はい……」
「それじゃあ、そろそろ優希が戻って来るだろうし、またね」
「あっはい……」
「次来た時はみっちり鍛えてあげるからね!」
「ひっ……」
ヒマリさんの笑顔に引き攣った言葉が出てしまった。
「あはは~それじゃ~ね~」
その言葉と共に私の意識が沈んでいった……
(あ、紅茶もう少し飲んどけばよかったな……)