第31話:ノクタールの秘密
◇アミリアside◇
私がユウキと会わなくなって早数日、最初の内は気になって探していたのだが、ここ最近の慰問が多すぎて疲れ果てていた。
「いやぁ……ちびっ子達舐めてましたわ……」
「聖女様大人気でしたからねぇ~」
今日は戦争で家族を喪った子達の孤児院への慰問だった、戦争で親達を亡くしたとは思えないほど元気な子供達だった。
「シアはいつの間にか消えてるし……セレーネは一緒になってはしゃいでるし……疲れたわよぉ~」
「すまないね、ボクは護衛だから皆を守れる位置に居たんだ」
給仕服を纏ったシアがお茶を淹れてくれている、このユウキが従えてる護衛、何でも出来るのだ。
「それとアミリア様。今日はこの後、ノクタール様と会食があるのだが出られそうか?」
「うっ……出ないと駄目だよねぇ……」
「そりゃ、結婚相手なんだから顔見せは重要だからな」
「うぅ~やらなきゃいけないとはいえ気が進まないよぉ……」
「そうだろうねぇ~ボクが見ててもわかるくらいご主人様目で追ってるからねぇ……」
「うっ……」
「しかも、ご主人様の絵図だとアミリア様はノクタール様とご結婚する事を描いてるし……」
「うぅ……」
「それなのに、イマイチ行動を起こさず。なぁなぁに慰問ばっかり」
「ううううぅ……」
「嫌なら嫌って言えば良いじゃん」
「でも……ユウキの期待は裏切りたくないし……」
「まぁ、ノクタール様はアミリア様には興味無いですけどね」
「どうせ魅力ないですよぉ〜」
むくれながら立ち上がりシアに着替えを準備してもらう。
◇◆◇◆◇◆◇◆
それからナイトドレスに着替えた私は夕食の席でノクタール様と雑談をしつつ夕食を共にした。
「そうだ、お食事の後、庭を見に行きませんか? 今の時期、珍しく魔薔薇が咲いているんですよ」
どうゆうことだろう……今迄はお誘いなんて無かったのに……。
「えぇ、楽しみです」
それから食事を終えた私は、防寒具を纏い指定された庭園の東屋へ赴いた。
「お待たせしましたノクタール様」
「あぁ、いらっしゃい」
彼は既に椅子へ座り、煌々と輝く月の光で本を読んでいた。
「紅茶は何が良いかね? 量と種類だけはあってね、好きなのを選ぶと良い」
「うっ……」
紅茶だけで50種類以上はあるだろう、どうしたもんか……。
「アミリア様も、しよろしければ私の方で。飲み口が良いものをお選びしましょうか?」
悩んでいるとシアが助け船を出してくれた。
「ありがとうございますシア」
そうしてシアは数種類の茶葉を取り、慣れた手つきでブレンドしていく。
「凄いね君の従者は」
「えぇ、ユウキの従者ですが非常に助かっております」
そんな話をしているとシアが出来上がった紅茶を持ってくる。
「ライトローズとレモライト、それとマンドラゴラの根を入れています」
「そう……マンドラゴラは飲んだ事無いから少し怖いわね……」
恐る恐る口を付けると、思ったよりも甘めの紅茶だった。
「甘い……」
「その方が飲み口が良いでしょ? だからマンドラゴラが蜜の多い部分を、ライトローズは元々甘みが強いからね」
「そうなんですね。シア、ありがとう」
「いえいえ、そうしたらボクは控えているよ、何かあったらベルを鳴らしてくれ」
「わかりました、ありがとう」
そう言って瞬く間に消えて行った、ノクタール様もシアの紅茶に口を付ける。
「うむ、これだけ調和を崩さず入れられる者は少ないな……我が家のメイド長でも淹れられるか……」
「そうなんですね、流石シアです!」
「それに懐かしいな……」
「懐かしいのですか?」
「あぁ、もう数十年前になるが、若い頃一度遭難しかけてね。その時に小屋に居たエルフの少女が同じ様な茶を淹れてくれたんだ……」
「そうなんですね、シアも長命ですので、もしかしたらどこかで会っているのかもですね」
そう言うと、ノクタール様は途端に難しそうな顔をする。
「ノクタール様?」
「ん? あぁすまない、少し考え事をしていた。それで今日お呼び立てをしたのは少しアミリア様に提案をしたい事がございまして……」
「提案ですか?」
居住まいを正してノクタール様の顔を見据える。
「えぇ、カミナギ様のご提案されている、我々の婚約についてです」
「はい……」
やはりその事だった。婚約の言葉が降って来て、私の心が跳ね上がる。
「それでは単刀直入に……私はこの度のアミリア様との婚約はお断りさせていただこうと思います」
「そ、そうですか……」
その瞬間目の前が暗くなる、目の前のこの人との婚約をする事より、ユウキの信頼を裏切った形になるのがあまりにショックだった。
「いえ、誤解しないで下さい、アミリア様が不出来とかでは無く私の方に問題があるのですよ」
「ノクタール様の方にですか?」
「えぇ、お恥ずかしながら私は枯れ専でして……しかも少し特殊な『長命種の見た目が童女』にしか心動かされない質でして……」
「は、はぁ……」
「なので、リリアーナの母。私の亡き妻も私とは歳が300程離れた童女だったのです、ですのでアミリア様が箸にも棒にも掛からぬです。すみません……」
「そ、そうだったんですね……」
「えぇ、お詫びと言っては何ですが、お一つ提案をさせて頂きたい事が……」
「提案ですか? それは一体?」
「それはですね……」
ノクタール様の言葉に、私ははっとするのであった。