第30話:優希の血
◇耀side◇
「それで、理映ちゃん、ホントの所はどうなの?」
「どうって?、優希くんの血?」
「そうそう、あのお姫様が夢中になる程の血な訳でしょ?」
「えっとね、優希くんは99.8%が御両親と彼自体の血で。体を作り直す時に0.1%づつは僕の血と大神様の血を入れてるんだよ。まぁ僕の方の血から優希君の遺伝子情報を抜き出して、それを移してるからぶっちゃけ輸血みたいな感じ。でも誰かに血をあげても神様になったり、強靭な体にはならないよ」
「それって優希には……」
「あーあはは……言って無いね、正直ついさっきまで忘れてたし……」
「それじゃあ仕方ないわね……」
「うん、だからその内説明しに行ってくるよ」
確かにあの女神より、理映ちゃんが直接説明した方が速いだろうからねぇ。
「それにしても、ナチュラルに落としてるわねぇ……」
「流石旦那様ですネ」
「みなさーん、お茶入りましたよ〜」
巴ちゃんが紅茶とジェムクッキーを元の世界から持ってきた。
「どうしたんです? 皆さん難しい顔をして……?」
「あー、まーた優希の誑し癖が出てるなぁ……って」
「アミリアちゃんでしたっけ?」
「後はセレーネちゃんって子とリリアーナちゃんね」
「流石優希さんですね……」
「でも、どーするのかしら」
「お兄ちゃんだもんねぇ……」
「優希君だもんねぇ……」
「でも、優希自体が動けばすぐ解決なんだけどね」
「それはそうですね」
それから各々学校に行ったり、政府に連絡を入れたり。家事をやったりで、その日の夕食の際に再度集まった。
◇◆◇◆◇◆◇◆
◇優希side◇
リリアーナさんに血を分け与えて3日目、王城でのルーティンとしては朝起きて、全員での食事、それからアミリアの見送り。昼まで居室で待機、昼食時にリリアーナさんへ血を分け与える、そうして夜は暇つぶしでセレーネとシア、それとこの間使役した魔獣のグレイウルフを鍛えている。
「ご主人様……強過ぎです……」
「二人がかりで一歩も動かせられないとか、ボク自身無くしちゃうなぁ……」
「くぅ~ん」
「ごめんごめん、三人だったね」
グレイウルフはシアとアミリアによく懐いていて、普段の慰問から簡単なモンスター討伐まで一緒に行っている。
「よし、じゃあ三人共怪我とかは無いかい?」
「はい!」「問題無い」「わふぅ!」
「それじゃあ、次は……」
今まで控えていた近衛兵たちを見ると全員背筋を伸ばす。
「それじゃあ、次は皆さんの番ですね」
「「「「「は!」」」」
ふと背後から視線を感じた。
(この感じは……リリアーナさんか……)
振り返ると、修練場の扉を少し開けてこちらを覗いているリリアーナさんと目が合う。
「少し待ってて下さい、リリアーナさんが来られたので、挨拶をしてきますね」
「「「「「はっ!!」」」」
こうして暇な時間になるとリリアーナさんが探してくるのだ。それもあってか、なるべく城内に居る様にしている。
「リリアーナさん、どうなされました?」
「えと、えと。カミナギ様は只今何をしてられるかしらと考えてしまい……つい探してしまいました」
白百合のような顔を少し上気させて寄って来る。
「そうですか、今日はノクタールさんの頼みで。近衛の方と鍛錬をしていました」
近衛の皆さんへ視線を促しながらそう言うと、少し上気した顔が険しい顔に変わる。
「むぅ……それでは一対多ではありませんか、カミナギ様には不利です……」
「いえ、姫様……私達全員でかかってもカミナギ様をあの小さな円から出す事すら不可能なのです……」
隊長さんの言葉に皆が頷く。
「そうなのですか?」
小首を傾げながら俺に問いかけて来るリリアーナさん。とは言っても『ハイそうです』なんて言うのもなぁ……。
「はい! ご主人様は素晴らしく強いですから!」
「もし良かったら姫様、上で見ると良い。護衛は僕達が付きますから」
「わかりました。カミナギ様の勇姿、目に焼き付けますね」
そう言って、リリアーナさん達は修練場の上にある貴賓席へ登って行った。
「では、始めましょうか」
「「「「「はっ!!」」」」
引かれた円の中央に入り、木刀を空間収納から取り出して片手に構える。
「はああああああ!!」「ええええええぃ!!」「ちぇああああああ!!」
斧、槍、剣を構えた三人が突っ込んで来る。
剣を弾き上げ、半身で槍を躱して柄を掴み剣士の人ごと体勢を崩す。
そして振り下ろされる斧を弾き返し、その場で回し蹴りで近衛を蹴り飛ばす。
「まだだぁ!」
剣士が盾を構え俺ごと弾き出そうと突っ込んで来る。
「甘い!」
魔力を込めた一突きで盾ごと吹き飛ぼす。
「おおおおおお!?」「ええええええぃ!!」
錐もみ回転して吹き飛ばされた剣士の後。再度、槍を振り下ろされた槍を躱し踏みつける、そしてその上を走り。蹴り飛ばして円に着地する。
「ぎゃふっ!?」「ちぇああああああ!!」
着地を狙うかのような渾身の一撃を、強化した木刀で受け止める。
甲高い音を立てた木刀と斧が弾かれ、その反動を生かして逆回転からの横薙ぎで吹き飛ばした。
「うわああああ!?」
そうして、三人が動かなくなったのを確認して、終了する。
回復魔法をかけると、三人共ピンピンとしていた。
そうして、その後2時間程同じ様なメニューや『俺が20人近い近衛に切り込みながら乱戦をする』といったメニューを繰り広げた。