第26話:暗殺者
よくわからない相手だし、とりあえず鑑定っと……。
⏤⏤⏤⏤⏤⏤⏤⏤⏤⏤⏤⏤⏤⏤⏤⏤⏤⏤⏤⏤⏤⏤⏤⏤⏤⏤⏤⏤⏤⏤⏤
【スティシア】 性別:女 年齢:350歳 種族:ダークエルフ
ジョブ:暗殺者 Level:660
所持能力:【体術】【薬草学】【闇魔法】【5元素魔法】【暗殺術】【剣術】【毒耐性】
称号:暗殺者、竜を屠るもの、奴隷。
備考:国の奴隷、長年暗殺者として国に仕える。
現在は薬と拷問による恐慌状態で隷属を強いられている。
隷属魔法により従属を強いられている状態。
⏤⏤⏤⏤⏤⏤⏤⏤⏤⏤⏤⏤⏤⏤⏤⏤⏤⏤⏤⏤⏤⏤⏤⏤⏤⏤⏤⏤⏤⏤⏤
「へぇ……スティシアって言うんだ、君の名前」
「!? ——チッ!」
俺が名前を言うと先程までニタニタ笑っていた顔が憎々しげに俺を見る、人でも殺せそうな目だ。
「それで、君の目的は?」
答えないだろうけど、一応聞いてみる。
「聖女を殺す事さ!」
「あ、言っちゃうんだ……」
まぁ確かに本人のレベルは高いし、薬漬けだから正常な判断が出来ないかもしれないな。
「そりゃあ君達を殺すのも、造作は無いよ! だって仕込みは終わってるんだから!」
すると突然皆が苦しみ始める、毒か!
空間収納からポートを取り出して足元に置く。
「『——転移』それと『——復元』」
外に置いてあった馬車へ転移して皆を回復する。
「ありがとう、ユウキ」
「ごめんなさい、気付かなかった……」
「すみません、ご主人様」
「ありがとう、お兄様……」
「みんなはここに居て、セレーネ任せたよ」
「はい……」
転移で戻ると暗殺者は苦々しそうな顔をしている。
「クソッ……なんで効かないんだ! 僕特製の魔獣を即殺せる神経毒だぞ!!」
「まぁ効かなかったんだし、未熟だったんじゃない?」
今は、逃げられない様に意識をこっちに向けないと。
「クソッこうなったら直接殺してやる!」
仕込みナイフか何かを投げて来る。それを躱すと背後に迫った彼女が曲刀を振り下ろす。
――キィンと甲高い音を立て空間収納から出した剣で受け止める。
「は? なにそれずるい!」
剣を軸に、宙返りをする。おまけに横薙ぎの一撃も入れてくる。
それも防ぐと面白くないといった顔をする。
「何だよ! 今まで僕が相手してたらすぐ死んだのに!」
「へぇ……よっぽど雑魚しか相手にしてなかったんだね」
またも挑発すると顔を真っ赤にする。
「ふざけんな!!」
単調になった攻撃を受け止め腕を掴む。
「『——解咒』そして『——服従しろ』」
「!?」
奴隷契約魔法で所有権の上書きをする、すると彼女は驚いた顔をする。
「はへっ?」
「はい、これで君にかかってた奴隷契約の主導権はこっちになった、つまり君は自由だ」
「な、何を!?」
少し狼狽しつつ目を丸くする。
「ほら、試しに攻撃してみなよ」
曲刀を握らせて言う。
「フンッ!」
受け取った後、スティシアは躊躇なく斬り付けてくる。
「あぐぅ!」
すると途中で剣を取り落とし、彼女が震える。
「大丈夫?」
蹲った彼女に触れると彼女がビクンとする。
(なんか、セレーネの時と同じ感じがするんだけど、まぁそれなら成功だし問題無いかな?)
「という訳でスティシア……長いからシアでいい?」
「どうとでも呼んでくれ……」
顔を上気させたシアが俺を見る。
「OK、それでこの毒はもう大丈夫なの?」
「あぁ、致死性は高いが空気に触れてるとほんの数十秒で無毒化する。体の中に入ったら毒性は維持し続けるがな」
「凄いな……」
「しかし僕があっさり負けるなんてなぁ……ご主人のレベルは幾つなの?」
「そういえば前計った時は9200とかだった気が……」
「はは……はははははは!!」
そう言うと笑い転げ始めるシア。
「お前……この世界のどんなヤツよりも強いじゃないか!!」
「まぁ、結構ハードな人生だからねぇ~」
「わかった、それじゃあこれからよろしく頼むよご主人」
◇◆◇◆◇◆◇◆
「という訳で、スティシアを仲間にしました、皆シアって呼んであげて」
「「「「えぇぇぇえ!?」」」」
「ちょっと! また女の子じゃない!」
「ぐぬぬ……私より強い奴隷……」
「まったく、規格外過ぎるわ……」
「お兄様凄いです!」
「ご主人の奴隷となったシアだよろしく頼む」
ローブを脱いだシアは浅黒の肌に金色の瞳、髪は短く切り揃えられている銀髪だった。沢山の傷や欠損した耳の一部は本人の意思で残してある。
「実力じゃ勇者クラスだし、これからはアミリアの正式な護衛に付いてもらうからお願いね」
「……わかったわ」
何か言いたそうだったが、アミリアは納得してくれた。
「それじゃあ、食事の続きと行こうか」
「ご主人、毒草は抜いたから食べて大丈夫だぞ」
シアが、平然とした顔でサラダを置いてくる。
「「「うっ……」」」「ひっ……」
「大丈夫だ、ちゃんと毒草は抜いてある。なんならご主人に『毒草を抜けと』命令してもらえば良い、そうすれば問題無い」
そう言われて皆の視線がこちらへ向く。
「わかった、じゃあ『俺達の質問に嘘偽りなく答えろ』」
そう言うと奴隷紋が光り、シアが恍惚の表情を浮かべる。
「はいご主人!」
「これに毒草は入っているか?」
「いえ、入ってません、普通のサラダで使われる野菜のみです!」
「飲み物にも?」
アミリアがおずおずと聞く。
「はい! なんだったら飲みましょうか?」
「それじゃあ……ご主人様の魔力はどうですか?」
「ちょまて! なに聞いてる?」
「最高です! 甘美な蜜の中にひたされる様な、溺れてしまう程の良さがあります!」
「うん、本当みたいですね」
「どこで判断してるの!?」
「確かに、奴隷刻印されると魔力が流れるしその魔力の感じは共通だったりするものね、なら間違いは無いわ」
「何それ……知らん……」
「言って無いもの」
「そう言うのは、言っておいてくれ……」
そうして、夕食は進んでいくのであった。