第9話:買い出しと出立
話し合いをした翌日、早朝の朝市でアミリアと旅の買い出しをしていた。
「野菜も、買った。パンも買った、後は何を買うかなぁ……」
「ユウキ、それならあれがオススメよ!」
露店でケバブサンドの様な軽食を指差す、確かに評判が良いのか10人くらい並んでいる。
「美味しそうだねアミー。それじゃああの串焼きは?」
近くにあった串焼きの屋台を指差す。
「それもオススメよ、一度しか食べれた事は無いけど絶品だったわ!」
良い匂いをさせる串焼きの屋台を前に話し合う。
「おっ、嬢ちゃんわかってるじゃねーか!」
「えぇ! この市の屋台は大体制覇したもの!」
「それじゃあ、買って行くか、おじさん今すぐになら何本用意できる?」
「そうだなぁ……仕込み分あるし、焼く時間を貰えるなら50本はいけるぞ」
「わかった、じゃあ50本頂戴」
「ごじゅ……!? 良いのか? 結構な大金だぞ?」
不安そうにこちらを見る店主に笑い返す。
「じゃあ先に半分払うよ、いくらになる?」
「1本銅貨8枚でそれが50本、銀貨4枚か、大銅貨8枚か、銅貨400枚だな」
「それじゃあ、先に銀貨2枚渡すよ、時間もかかるし先に他の買い物して来るよ」
「おう、それじゃあ朝の鐘が鳴る頃に着てくれ」
「わかった、ありがとう」
「変な奴だな、感謝をされるのはこっちだよ!」
そのまま屋台の前から離れ先ほど言っていたサンドのお店へ行く。
「アミー、朝の鐘って今からどのくらい?」
「そうね、この時計の長針がここに来た時よ」
アミリアに渡した時計で時間を教えてくれる、大体今から30分位の様だ。
「それにしても。まず、目指すのが魔王領とはね……」
「そうね、ここからひと月くらいだし。それにあの国境は100年近く小競り合いが起きてるところだもの、煙に巻くのに丁度いいわ」
お昼前に聖女としてのお披露目から各地を慰撫する目的で、王都を出発する予定の俺達。レナスも俺の強さなら魔族も簡単には手出しできないので、隠れ蓑には丁度いいと言っていた。
「それに、危険と言われる魔族領でも、ユウキは私達を守ってくれるんでしょ?」
「そうだね、任せてよ。ちゃんと二人共守るから」
そう言うとアミリアは何とも言えない複雑な顔をしていた。
「お二人さん、熱々なのは良いけど、注文は?」
気付いたら俺達の注文の番になっていた、屋台のおっちゃんが呆れた顔で言って来る。
「アミー、これは何人前くらい買う?」
「そうね、おじさん何人前までいける?」
「そうさな、一人十人前で勘弁してもらってるな」
「わかったわ、じゃあ二十人前で!」
そう言うと周りが、ざわざわとし始める。
「それは良いが払えるのか?」
「大丈夫よ! いくらかしら?」
「一つ銅貨10枚だからな、ちょっと待ってくれ……銀貨2枚か、大銅貨4枚、銅貨200枚だ」
「わかったわ、ユウキお願い」
「了解、じゃあこれで」
「おう、銀貨二枚だな。すぐ作っちまうから待っててくれや」
屋台の奥にある調理スペースに声を掛ける店主、すると中から悲鳴ともつかない驚きの声が起きた。
「すまねぇ、じゃあこの割札を持っててくれ、横の渡し口から割札と合わせて渡してるからな」
「わかりました、ありがとうございます」
それからもめぼしい屋台で買い物を済ませ、串焼きとサンドを受け取り教会へ戻った。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「なんだか……着慣れないわね……」
白色の法衣に身を包んだアミリアが、錫杖を持って身じろぎをする。
「似合ってるけど、歩き辛そうだね……」
「お姉様綺麗です!!」
少し豪華な装飾のついたシスター服(司教の子供達が着る式典用の礼服らしい)を着たレナちゃんが喜びを表す。
「二人共、よくお似合いですね」
入って来たレナスも、にっこりと微笑みながら感想を言う。
「逆に俺は、この衣装で良いんですか?」
式典用の魔法鎧を纏った俺は、レナスさんに声を掛ける。
「えぇ、異世界からの勇者様を1人付けていると思わせられますし、何より未知の能力の相手なら手を出せませんから」
「わかりました、それならうってつけですね」
「はい。それと恐らく、王都を出たら比較的に早い段階で襲撃があるかと……」
レナスさんが声を落として耳打ちする。
「それは、本当ですか?」
「はい、ウチの諜報部が先程、城の裏手から武装した集団が出るのを確認しました」
「早いですねぇ……」
「先代を追い落としたと言われる程の王ですから」
「先代と言うと……」
「はい、お察しの通りです」
アミリアとレナの母親を謀殺して父親を追い落とした張本人か……。
「まぁ、ユウキ様なら圧倒的でしょうから、大丈夫かと」
「わかりました、情報感謝します」
そうして密談が終わるとレナスが、二人を連れ立つ。
「それじゃあ、アミリア、レナ。少し離れたとこに居るけど、見える位置には居るからね、しっかりやるんだぞ」
「「はい!」」
防御魔法のネックレスをした二人が、魔力の翼を出現させ大聖堂の扉へ歩き出す。
扉を開けると、二人を一目見ようと沢山の信者や司教たちが詰めかけていた。
「さて、俺は外に回りますね」
「はい、後はお願いいたしますユウキ様」
聖堂横の出口から出て一足先へ馬車に向かうのであった。




