第8話:そうだよ? 言ってなかったっけ?
大聖堂での1件の後、改めて元教皇の部屋に今回の関係者が集合していた。
「しかし使徒様、本当によろしいのでしょうか?」
新しく教皇になったレノスが、床に膝を着きながらおずおずと聞いてくる。
「使徒様は恥ずかしいし、一般の場で話が出来ないから優希と呼んで下さい、というか話し辛いのでちゃんと椅子に座って下さい、命令しますよ」
「有難き光栄、それでは賤しき身ながら座らせていただきます、それと普段はユウキ様と呼ばせていただきますね」
「そうしてください。それで、どうかしたんですか?」
身なりを整えたレナスが椅子に腰かける、豪華な椅子に座り慣れてないのか悪戦苦闘してる。
「いえ、私なんかが本当に教皇になっても良いのかと……他に優秀な方も居ますし、それに私は貧民の出でして……」
昨日の朝いきなりレノスが運営する孤児院にマリアンと押しかけて、教皇になって貰う様に働きかけたのだ。
つまり先程の茶番劇の際レノスがいち早く反応出来たのは仕込みがあったからである。
「大丈夫ですよ、アストマリウス教全体で清貧に尽くせという訳でも無いですし、かといって前教皇みたいに私腹を肥やす為に運営しろという訳でも無いですから。ただ祭事なんかを執り行う時だけ豪華にすれば良いので、ですよね? マリアンさん」
先程から疲れた顔をしているマリアンへ話を向ける。
「あ、はい! 普段からこれだけ悪しき状態が蔓延らない様にしてくれればいいですぅ……」
連日、司教や教会関係者の悪事を過去にまで遡って全部調べてきたマリアンが遠い目をする。
「しかし、実に8割の教会関係者が。横領、重税、法外な治療費、強制売春、果ては人身売買とまで……どうしてこうなったんですかぁ……」
「それはマリアンさんが他の世界を管理してて、この世界を数百年放っておいたからでしょ……」
「うぅ……そうだけど……確かにちょこちょこ~っと祭事の際しか見て無かったけどぉ~」
もうダレてきて威厳がすっかりないマリアン、今回の事をする為に時間を引き延ばして実に十数日たった一人、ぶっ通しで働いてた
その為か、もう頭もふらふらしている。
「とりあえず、マリアンさんは先に休んでて良いよ。それで、レナスさん、これがリストアップしてきた状態ですから、これを元に内部の改革をお願いします、護衛には三人の勇者をつけますから」
幾度となくパワーレベリングでぼこぼこにされた勇者達が首を縦に振る、練習とはいえ神域で数十回も殺されれば自ずと大人しくなる。
「わかりました、それとアミリア様とレナ様についてですが……」
「「は、はいっ!」」
まるで置物の様に先程から黙っていた二人へ話が移る。
「あぁ、お二人共そんなに緊張しないで下さい……お二人は神子なのですから」
「「は、はいっ!」」
「あはは……」
「大丈夫ですよ、そのうち慣れますから」
「それならいいのですが……」
少し残念そうに肩を落とすレノス、どうも二人とまともに話せないのが残念な様だ。
「それで、二人がどうしたんですか?」
「えぇ、どうやら王家がお二人の事を察知していた様で……」
「えぇ……でも二人が神子と発表されたのはついさっきの事ですよ?」
「はい、前教皇の私兵として使っていた奴隷の諜報部員が教えてくれました。内容としましては『以前から前教皇がお二人を使って政治への足掛かりにしようとしていたのもばれていた』という事のようです」
「うわぁ……余計な事を残してくれたなぁ……」
使う為の策略は考えてたのは知ってるけど、まさか相手側にもばれてたとはなぁ……。
「えぇ……私達としてもこのままこの教会本部で預かっていると、内部の事を片付ける前に、余計な介入をされかねないという状況でして……」
申し訳なさそうに言うレノスに対して、悔しそうにするアミリア。
「わかりました、それで対策などは考えてますか?」
「えぇ、それでしたらお二人には、巡礼の旅と称してこの王都から抜け出して、ほとぼりが冷めるまで各地を回っていただきたいのです」
「どのくらいの期間ですか?」
「えっとですね……少なくとも1年くらいでしょうか……」
長いな……正直三勇者をパワーレベリングしてさっさと帰るつもりだったし。そんなに長居するつもりも無かったからなぁ……アミリア達には悪いけどまたくれば良いわけだしね。
「うーん……」
「ユウキ様、どうかなされたんですか?」
「いえ……召喚されたのが突然だったので向こうの世界に家族を残してるんですよ……」
そう言うとアミリアが驚いた顔をして、レナが肩を落とす……。
「ユウキ! 貴方って結婚してるの!?」
アミリアが前のめりになりながら聞いてくる。
「そうだよ? 言ってなかったっけ?」
「初耳よ!」
「そっか、改めて説明すると。今は奥さんが11人で養子だけど子供が一人いるよ」
「「「「「じゅういちにん!?」」」」」
三勇者も、アミリア達もレナスも驚いてる。
「師匠と呼ばせて下さい!」
「はは……ははは……僕の4倍……」
「驚きです……」
「あはっ……あはは……」
「お姉様!?」
「まさかそこまでとは……歴史上それだけの奥さんは聞いた事が無いですね……」
「まぁ、俺の奥さん事情は置いといて……もう少し早くならないですかね?」
「うーん……そうですね……これでも少なく見積もってなので、何か問題がでたらもう少し掛かると思います……」
「そうですか……わかりました、とりあえず王都からの脱出をしようと思います、早い方が良いですよね?」




