第72話：事の決着と帰還。
鳳さんに何とか離れてもらい、ロガンの元へ向かう。
「おーい、いつまで寝たふりしてるんだー？」
――ビクッ。
「仕方ない……ユキと鳳さん優羽がこっち見ない様にして、少し離れてて。後、出来れば耳も塞いでもらえると……」
「わかったわ」
「かしこまりました！」
そう伝えて十分に離れたのを確認する。
「よしっ、それじゃあ今から１０数える間に起きなきゃ、頸を斬り落とす。１……２……面倒だな７から始めるか、７……」
「待て待て待て待て！？」
狸寝入りしてたロガンが飛び起きた。
「チッ」
「なんだよ、勇者って甘ちゃんじゃねーのかよ……」
「残念ですが、それはもう売り切れました」
「クソッ……」
「それで、約束した通り、この都市は俺の物になったんだよな？」
「ヘッ、それはどうかな？ 俺が退いても他の野心家が……」
「わかった、アンタらまとめて鏖殺するわ」
カチンと鯉口を斬る音をさせ、軽く脅すと途端に慌てだす。
「わかった、わかった、待ってくれ！俺はまだ死にたくない！！」
「じゃあわかってるな？」
「クソッ、こんなはずじゃ……」
◇◆◇◆◇◆◇◆
そうして場所を移し族長の家に到着すると全員分の首輪を破壊する。
「獣人でも壊せないんだぞ……何なんだお前は……」
「ただの《《勇者》》だよ、人助けが趣味なだけだ」
端の方では鳳さんとお母さんが抱き合って泣いている。
「さてそれじゃぁ、男たちの方に案内してもらおうか……」
「………………」
――カチン――カチン――カチン――カチン。
「ひいぃぃぃ！？ やめてくれその音！！」
「じゃあ早くしろ、俺は別に自力で探せるから案内はいらないんだが？」
「わ、わかった！ 今案内するから！！」
そう言って連れてかれた先は地下の坑道だった。
「……ロガン」
「は、はぃ……」
「何か申し開きはあるか？」
「ありません……」
「わかった。逃げるなよ？」
ぎろりと睨むとその場に身を竦ませる。
そうして坑道内に入ると下方への階段が続き、その先は巨大な穴が広がっていた。
「ねんだぁ！ てめぇ！！」
狸人族の男が抜き身の剣をもって入って来た。
「今日でここ、終わりだから。後お前その剣で何するんだ？」
「何言ってやがる！ この人間がぁ！！」
振り下ろされた剣を防御魔法で受け止め、剣を折る。すると男が唖然とした顔をしている。
「もう一度聞くよ？ お前その剣で何をするんだ？」
折れた刃を投げ捨て聞くと、悲鳴を上げて逃げて行った。
「さて……皆さんは自由です！ 仕事や生活の事でお話がありますので皆さん一度外へ出て下さい！ 怪我人等はいらっしゃいますか？」
そう聞くと喜ぶ者、安堵に腰を抜かす者、怪我をした者達を担ぎ上げる者と様々だ。
「失礼、君は一体……」
困惑した声の男性がこちらへ来る、俺は初対面だが見知っている人だ。
「俺……私は、上凪 優希です。鳳さん」
「どうして私の名前を？」
「そりゃ、貴方を助けに来たんですから」
◇◆◇◆◇◆◇◆
「お父様！！」
「おぉ……里菜……里菜なのか！？」
「良かった……生きてた……」
「里菜……お前が生きていてくれて本当に良かった……」
「旦那様も、御無事で何よりです……」
そんな二人を傍らで見る俺達。
「いやーよかった、良かった」
「そうですね……」
「…………」
ユキは眩しそうに、優羽は物欲しそうに見ている。
（そう言えば……二人共両親がもう居ないんだよな……）
そんな事を想いながら二人の頭を撫でる。
「ユウキ様……？」
「優希さん……？」
「もう少し二人にはあんな風に甘えてもらいたいんだよね～」
鳳一家を指差して言うと二人共困惑した表情を見せる。
「良いのですか？」
「でも……」
「父さんにはなれないけど。旦那としては、ユキのお嫁さんなんだから甘えてもらいたいよ？ それと優羽、まだ慣れないだろうけどその内お父さんだと思ってもらいたいなぁ……」
「優希さん」
「ユウキ様」
二人を抱きしめる、するとユキも優羽も抱き付いて来てくれた。
◇◆◇◆◇◆◇◆
それからガリウス達に来て貰い諸々面倒事を押し付け俺達は一足先に帰る事とした。
「では皆さん手を繋いで下さい」
全員で手を繋ぎ転移して自宅へ戻った、そして鳳夫妻にはお風呂に入って貰う事になった、ちなみに今は里菜と菜々《なな》さんが入っている。
「ところで、上凪君だったかな？」
鳳さんのお父さん辰之助さんが話しかけてきた。
「はい、どうしました？ 何か忘れ物とか？」
「あぁ、ある意味忘れ物かもしれないな」
「とりあえず、ガリウスに連絡を……」
「あぁ、違う違う、忘れ物とは君と話し合いをしたいとの事だよ」
浮かせてた腰を落ち着ける。
「話し合いですか？」
「あぁ、君があのロガンの前、言ってしまうと妻の前で里菜の旦那と明言したらしいね？」
「あ……」
「それで、私は君や娘から何も聞いて無いんだが？」
「あの……それはですね……」
（あの一族の掟に対抗するために、わざわざ結婚したなんて言えない……）
「お待たせしました優希さん……どうなさいました？」
「丁度いい、里菜。そこに座りなさい」
「はい……構いませんが……」
そうして鳳さん達との話し合いが始まった。
