第66話:君の名前は……
鳳さんのご両親の捜索手配を終えた翌日。俺は学校終りに、未来視の少女の元へやって来ていた。
「おはよー」
「むぅ……」
物は投げられなかったけど、むくれていた。
「ごめんよ、ダンジョンで人助けしてたんだ」
「人助け?」
「そそ、ダンジョンに囚われてた人を助けてきたんだ」
「……ダンジョンって何ですか?」
「そっか、よくかんがえたら、まだ小っちゃい子なんだよね」
「むぅ……小さいですよ……」
一度はこっちを向いてくれたけど、またそっぽを向いちゃった。
「あはは……それでね君の方はどうだった?」
「私は……」
それからは、彼女がカウンセラーとの治療での事や病院食がアップグレードしてハンバーグやケーキが出て来た事、それがすごく美味しかったことを伝えてくれた。
(そういえば、骨の浮いていた所が減って来たな……未だに手首とか俺の半分しか無いけど……)
ポーションを毎食飲んでもらってるので肉体自体の戻りも早い。
(というか食べ過ぎ対策として飲ませてたんだけど、意外な効果だったな)
これなら他の子供達も元気になっているだろう。
(問題は精神的なものだよね……)
眠っている彼女の頭を撫でながら考える、一旦お医者さんと話すか……。
「んっ……んんっ……」
「起きた?」
「あれ? 私……」
「そろそろ、時間だから起こそうかと思ったけど、起きてくれて良かった」
「もう帰るんですか?」
服の裾を握り、唇を尖らせる少女。
「そうだね。でも、しばらく予定は無いから、明日も来るよ」
「わかった……」
頭を撫でて、病室を出る。スタッフステーションに行き、彼女を担当してる精神科の先生に面会をお願いするとすぐに会えた。
「やあ、君が彼女の言っていた人か」
「すみません、こんな時間に」
「構わないよ、私達からも君に感謝を言いたかったし」
空いているソファに促され座ると、簡単なカルテを出してきた。
「まず、彼女を救ってくれてありがとう、肉体もだけど心もだね」
「でも、彼女の精神疾患はまだ……」
「確かに彼女の状態はまだ安定はしていないし精神的なものはまだ根治には至ってない。でもね、君が彼女に語り掛けて、彼女に見せた世界のお陰で確実にね」
「力になれたのなら良かったです。それでなんですが、彼女を引き取ろうと思いまして」
「ほう? それはどうしてだい?」
「それは、彼女に普通の人とは違う力があるからですね。放っておくと確実に悪用されるので、先んじて庇護下に置きたいんです」
「そうか、彼女の身体的外傷については?」
「それは治してると思うのですが……」
そう言うとカルテをペラペラとめくる女医さん。
「あぁ、あったあった。すまない、確認したよ。しかし凄いな……」
「あはは……それで彼女を引き取る上で、何か気を付ける事はありますか?」
「特には無いけど……あまり年の行った男性に会わせるのは、やめた方が良いね」
「そうですか、それじゃあ俺と同じくらいの女性は?」
「それは無論大丈夫だ、病院のスタッフも彼女や彼女と同じで慰み者された子には、女性での担当としているからね」
「そうだったんですね、それじゃあ今度ウチの奥さんを連れてきますね」
「あまり大所帯だと驚かれるからな、最初は数人で会ってあげると良い」
「わかりました、そこは気をつけます」
「それじゃ、また何かあったら訪ねて来てくれ」
「はい、ありがとうございました」
◇◆◇◆◇◆◇◆
それから自宅に帰り皆に、彼女の事を話すと皆すぐ受け入れてくれた。
そして引き取る上で名前をどうするかという所で議論が始まっていた。
「美優はどう? 優希の字も入ってるし」
「それなら優月はどう? 優しい月って良いじゃん」
「優愛菜は? 名前に愛という文字が入ってますし」
「私は……こちらの世界の命名ルールが判らないのですがこの優来というのがいいですね」
「うむむ……私は優凛等も良いと思うが……」
「ん、優心も良いかも、にこにこしてほしい」
「私ハ……優羽がいいですネ。将来、羽ばたいていける様ニ」
「優希さんはどれが良いと思います?」
「そうだねぇ……優羽が良いかなぁ……字も覚えやすいし。後、響きが気に入った」
そう言うと皆、優羽で決まったらしい。
「とりあえず名前は秘密でね」
「「「「「はーい!」」」」」
それから数日かけて優羽の元に通い皆と顔合わせをしていく、最初にもっと負担になるかと思ったけどそんな事は無く皆受け入れられた。
◇◆◇◆◇◆◇◆
そうしてある日、異世界での鳳さんの両親の事を聞いた後、いつもの通り病室へ向かうと真剣な顔をしている優羽が居た。
「優希さん……今日は私にあった事を話します……」
そうして優羽はぽつりぽつり話始め、次第に涙交じりになりながら今まであった事を話してくれた。
「許せないな……」
気付けば口から漏れていて、涙も出ていた。
「優希さん!?」
「大丈夫、大丈夫だよ……」
優羽を抱きしめながら、一つの決意をした。