第59話:未来視の少女②
翌日、病室へ入ると物は飛んで来なかった。
「おはよう」
「おはよう……ございます……」
鑑定で見ても健康体で、今の所は心理的な物だけだ。
(その心理的な物が、とっても大変なんだけどねぇ……)
異世界では錯乱状態に陥った新兵などに施す、精神的な緩和魔法はあるけど、一度で綺麗さっぱり治るものは無い。
復元魔法で治せるのも肉体的な部分や記憶といったものを無理矢理繋げ直してるだけだ。
メアリーやキランの時は薬物に侵された脳を元の状態に復元しただけ、だからトラウマは自身の心で克服するしかない。
「今日は何したんだい?」
「特に何も……」
「そっか、じゃあ今日はピクニックにでも行こうか」
「え?」
少女の肩に触れて転移魔法を使う。
異世界に切り替わり、俺の執務室へ到着する。
「!?!?!?」
「お待ちしておりましたユウキ様」
「メイド長、久しぶり。突然だけどこの子の服を身繕ってくれない? エアリスの服も良いって許可はもらってるし」
「かしこまりました、手早く準備いたします」
そう言って下がっていくメイド長、この子に似合う服を選んでくれるだろう。
するとこちらを見ていた少女と目が合う。
「おにーさんは偉い人なの?」
「んーまぁそうでもあり、ちょっと違う人でもある」
「意地悪ですね」
そう言われそっぽ向いてしまった。
「そうだ、どこに行きたい?」
「どこでも良いです……」
「そうか……この時期だと……どこが良いかな?」
少ない知識で考えていると、メイド長が淡い青色のドレスを持ってきた。
「こちらエアリス様の、御幼少の頃に着ていた物でございます」
「へぇ……良く似合いそうだ」
「それでは、お召し替えさせていただきますが……ユウキ様はお部屋の外へ」
「わかった、昨日の手紙に書いてあることに注意して」
「かしこまりました」
メイド長が頭を下げる、その間に俺は部屋を出て扉の前で待機する。
◇◆◇◆◇◆◇◆
さて……この世界の名所について知らない俺はメイド長にピクニックに良さそうな場所を教えて貰い馬車に乗っていた。
少女は初めて見る異世界の風景に警戒を抱きつつも、興味があるようで注目している。
(さて……このまま良くなればいいけど……)
軽いフラッシュバックになった子供達は精神安定魔法で改善が見られたけど、この子はそれも無いから困っている。
重篤な子だったり行方不明者届が出ている子は、早めに親元に返して定期的にその後を見るといった方針がとられる様だ。
(かといって未来視の子供なんて、誰かに悪用される未来しか見えないんだよなぁ……)
この子には何が見えているんだろう……出来ればそれが幸福な未来であって欲しいな。
その後は見晴らしのいい観光スポットで、昼食を食べた後は。散歩をしたり、空を飛んだりと、適度な食後の運動を楽しんだ。
◇◆◇◆◇◆◇◆
そして元の世界に戻り着替えると夕食の時間になった。
「それじゃあ、用事があって一旦俺は帰るけど……」
「大丈夫です、今日は一人で寝れます」
「そっか、じゃあ明日は……確か検査だっけ?」
「はい……」
「じゃあ夜にまた来るよ」
そう言って、転移で自宅へ戻ると、巴ちゃんが待っていた。
「優希さん、ご報告が……」
深刻そうな表情で巴ちゃんが書類を取り出す。
「これが、彼女の調査結果です」
そこを見ると、彼女について書かれた部分は少しで、彼女の父親の名前と彼女を買ったリストが記載されていた。
おおよそ300人ちょっと、よく見ると現野党の幹部や海外の政治家なども居る。
「想定以上の多さでした……」
「本当に腹が立つな……」
俺は宮田総理から受け取ったスマホを取り出して通話をかける。
「もしもし、どうしたんだい?」
2コールででてくれた宮田総理にお礼を言って、内容を話す。
「わかった、政治家などはこちらに任せてもらえないだろうか?」
「国内はこちらで《《処理》》したいのですが……」
怒りのあまり声が冷たくなる。
「そうだね、今回の件無論最後は君に任せるよ。ただ、『はい、消えました』じゃ第二、第三の彼女を生み出すだけだ」
「そうですね……」
「だから告発して法の裁きを受けて貰う、そうならないように法の整備もしっかり行う、そのリストに乗ってる《《一般人》》は知らないけど、まぁダンジョンで不慮の事故位に遭ってもらえば良いかな?」
「怖いこと言いますね……」
「でもそのくらいしないと気がすまないでしょ?」
「そう言われると、そうなんですが……」
そういうと向こうで総理が笑った。
「今回の件、それだけかな?」
「後はその子を引き取りたいんですが」
「うーん、そういった事は門外漢だからなぁ……親権を委任させて行方不明になってもらえば? あ、でもその子元々戸籍がないのか……だったら、異世界での戸籍にしたら? 日本国内でも証明できるし」
「まぁ、君だけが使える抜け道だね。多少のことは目を瞑るし、好きにやると良いよ」
「わかりました、ありがとうございます」
そう言って通話を切った。