第57話:鳳さんの異変と、とある少女。
その日は結局、質問と何度か休み時間にエアリス達に告白しに来た他クラスの奴が、瞬殺されるのを見ている内に終わった。
「上凪さん達は居らっしゃいますか?」
放課後になっても異世界の興味が尽きない皆の相手をしていたら鳳さんがやって来た。
「悪いな、鳳さん来たからもう行くよ」
「おう、今日は悪かったな。色々質問攻めにしちゃって」
「また話、聞かせてくれよ」
「また来週~」
男子達はそう言って解散していく。
「わー、エアリスさんその化粧品使ってるんだ! やっぱりお姫様は違うなぁ~」
「そうなのですか? リンカさんにこれ使いなさいと言われたので……」
「ねぇねぇユフィさんって肌のケアは何してるの?」
「天然、特に何もしてない」
「耀さん!! いえ師匠!! どうか幼馴染を落とす方法を……」
「私も! 幼馴染じゃないけど! 上凪君とどういちゃいちゃしてるのか知りたい!」
「えー難しいなぁ……私の場合はね――」
と、皆異世界の事よりも、お肌や恋愛模様の方が気になる様だ。
「凄い人気ですね」
「あはは、まぁあの三人ですから」
「それじゃあ、上凪さんだけでも良いですので、付いて来てください」
「わかった、三人ともちょっと行って来るから教室で待ってて!」
「わかったー」「わかりました」「ん」
「それでは、行きましょうか」
そうして鳳さんに促され、理事長室へ出発する。
「そういえば、学業の方はどうですか?」
「あぁ、それなら大丈夫です。みっちり補習をやりましたので……」
「そうですか、それでしたら大丈夫ですね」
鳳さんはにこりと優しい笑みを浮かべる。
「そうだ、鳳さんは進学ですか?」
「えぇ、亡くなった両親が、生前望んでいた大学へ入ろうかと」
「へぇ……聞いても良いですか?」
「東京大学ですね、両親もそこ出身で、出来れば行って欲しいと言われてましたので」
「凄いですね……」
「優希さんはどうですか?」
周りに人が居なくなったので、鳳さんが呼び方を変える。
「俺の場合は、巴ちゃんのお爺さんに一〇大学の経済学部とか言われたんですが、正直なところ勉強が追い付くか……」
異世界に行ったり、会社の事で動いたり、皆とイチャイチャしたりで忙しいのだ。
「そういえば、優希さんは社長さんでしたね」
「そうなんですよ……まだ本格始動はしてないのですが、それでもやる事は多くて……でも巴ちゃんのお陰で、そこまで書類仕事が無いのは有難いです」
「でしたら、大学卒業後は優希さんの会社で働くのも良いですね……」
「いつでも良いですよ、鳳さんならかなり強力な探索者としての素質はありますので」
「そうでした、小鳥遊さんとの練習を組んでいただき、ありがとうございます。お陰で最近は暴走も抑え気味になって来てます」
「それは良かったです」
そんな話をしてる間に、理事長室に到着した。
「それではすみません優希さん、私はこれから用事がありまして」
「わかりました、ありがとうございます」
そう言うと鳳さんは、階段を登って行った。
――――コンコンコン。
ノックをすると中から理事長の声で「どうぞ」と言われた。
「失礼します」
中に入ると理事長が大量の書類と格闘していた。
「すまないね、呼び出したのに」
「大丈夫です、凄い量ですね……」
「あぁ、特殊な学校だからね、目を通す書類も多いんだ」
答える合間にも次々と書類を処理していく。
「座っててくれ、もう少しで一区切りがつくのでね」
ソファーに促され座っていると、一区切りがついた理事長が目の前に座る。
「それで今回来てもらった理由なのだが――」
どうやら昨日保護した子供の中にかなり精神に不安な子が居る様なので見て欲しいとの事だった。
「わかりました、お任せください」
「それでは、頼むよ」
そう言って理事長は書類の山に埋もれて行った。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「という訳で、皆の力を借りたいと思って」
「うん、流石優希」
「ですね、私もそんな子を見捨てておけません」
「でも難しいよね……心の問題だと」
「そうですね、何か力になれればいいのですが……」
「ん、優希なら大丈夫」
「ユフィ……」
「何人もの奥さんを作って来たから」
そう言いながら親指を立てるユフィ、名誉な様な……不意名誉な様な……。
「大丈夫です、ユキの心に寄り添い。ユフィを慰めたユウキ様ですから、きっと今回もどうにかなります!」
とは簡単にはいきませんでした。
病院の応接室で凹む俺達、取りつく島も無かった。
「名前も無し、親は片親。でも出生届は出ていない、つまり戸籍も名前も無いみたい」
「酷い……」
調べられた情報を見ると、必要最低限の事しか描いてなかった。
「うーん……見えた袖口とか痣があったよね……」
「すみません、ユウキ様の連れてきてくれた子達でも特にひどい子を優先してしまったので……」
「仕方ないよ、それにあの子はあの場から逃げ出してて、昨日保護されたみたいなんだ」
余程あの場に嫌う、《《何か》》があったのだろう。
「うーん……何か引っかかるな……もう一度会って来る」
「それでしたら私も……」
「大丈夫、大勢で行ってびっくりさせちゃったのかもしれないし、俺一人で行ってくるよ」