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攫われた少女は、世界一幸福な夢を見る・下 ※残酷表現有

そう言って私の心を落ち着けてくれた彼は、インターホンを鳴らし、ドアを蹴破った。


「!?!?!?」


「おじゃましまーす」


そう言って土足で家の中へ上がり込むと、迷わず父がいつも居たリビングへ向かう。


更にリビングのドアも蹴破り、中に居た父が驚きの声を上げる。


「なんだてめぇ!!」


「てめぇがこの子の父親ですか?」


そう彼が言うと父がこちらを見る。


「クソガキが!! 今までどこに居た!!」


顔を赤くして私に掴みかかろうとする。


「ひぃ……」


思わず予想される衝撃に身を竦ませていると、その恐怖はいつまでも来ることは無かった。


「何してるんだてめぇ……」


その声に目を見開くと、彼が父の腕を掴んでいた。


「何なんだお前!!」


「そんなのはどうでもいい、質問してるのはこっちだ」


初めて見る、彼の怒りの表情に。私は声も無くへたり込んでしまう。


「そうだよ!! だから何だ!!」


「わかった、この子を買い取らせてもらう」


そう言って、どこからともなく大量のお札を取り出し並べていく。


「ここに10億ある、手切れ金だ」


その瞬間父親が下卑た顔になる。


「ははは!!! そんな薄汚ねぇガキにか!? お前もそのガキの身体を味わった口か!!」


「どうでもいい、その額で良いなら書類にサインしろ」


「いいぜ!! そんな股で稼ぐしか能の無い! 性病まみれの腐った肉〇器が欲しいならくれてやるよ!!」


「————っつ!」


実の父親にそう言われたのがショックだった……。


(でも、どこかでそう言われるのを納得している自分が居る)


そう言うと嬉々としてサインする元父親。


「よし、それじゃあお前は用済みだ」


瞬きをした瞬間。彼が、元父親と共に消えた。


ものの数秒で戻って来た彼は、優しい声で「ただいま」と言って、私を抱っこして家を出る。


「そうだ、この家には必要な物とかあるかい?」


「無いです……お母さんとの思い出も捨てられちゃいましたし」


「そうか……」


そう悲しそうに言うと彼は手品の様に、家を消してしまった。


「それじゃあ行こうか、優羽ゆわ


そうして私は車に乗せられあの地獄から抜け出した。


◇◆◇◆◇◆◇◆

目が覚めるとすっかり慣れた私の部屋が目に入る。


「そう言えば懐かしい夢を見たな……」


あの地獄に居た頃、私の人生の最低点であり、折り返し地点。


昔は何度も嫌な夢として見ていたが、今はいい思い出だ。


――――♪♬♫♪♬♫♪♬♫――


ぼーっとしていたら目覚ましが鳴り出した。


「あっと……やばいやばい、早く起きないと」


今日は高校の入学式の日だ。


慌ててリビングへ入って行くといつもの通りの光景が広がっていた。


「耀おかーさん、春華おかーさん、メアリーおかーさんおはよ!!」


「珍しい、優羽が自力で起きてくるなんて……」


「そうですね、今日は雨が降らないと良いのですが……」


「そうですね、一応傘の用をしておきましょう」


そう言って三人のお母さんが笑う。


「もう!! お母さん達! 私もう高校生だよ!!」


「わかってるわよ、この調子で毎日起きてくれたらいいんだけどね……」


「そうですね、私達もそれなら楽なのですけど……」


「全くです……」


「今日は特別!! 私準備して来る!」


そう言ってリビングを出る、そのタイミングで耀おかーさんが声を掛ける。


「鈴香と冬華ちゃんが待ってるからお店の方に行きなさい!!」


「はーい!!」


そのまま階下に降りて鈴香おかーさんの元へ行く。


「おはよー、鈴香おかーさん!」


「おはよー寝坊助さんがやっと来たわね」


「もう……鈴香おかーさんまで……」


「あはは、ゴメンゴメン、それじゃあサクッと身だしなみ整えちゃおうか!」


鈴香おかーさんの手によって、シャンプーから簡単なヘアカットまでされていく。


探索者アイドルグループを辞めた鈴香おかーさんは今は美容院で仕事をしている。


「よし、完了。じゃあ次は冬華ちゃんのとこへ行ってね!」


「はーいありがとう、鈴香おかーさん!」


寝巻のまま店舗兼住宅の中を進み冬華おかーさんのお店に来た。


「冬華おかーさんおはよー」


「おはよー、流石鈴香さん、時間ぴったし」


制服とメイク道具を持ってきた冬華おかーさんの前に行く。


「そうだ優羽、あんたまだ、優希さんの事好きなの?」


「ふぇ!? どどどどどどーして!?」


唐突な発言に私の顔が赤くなる。


「いや、見ててわかるわよ、わからないのは優希さんだけ」


「………………」


「でも……私とお父さんは一応戸籍上は親子な訳で……」


もじもじと答えると、冬華おかーさんはため息をつく。


「あのねぇ……ここは異世界なの、日本の法律がどうこうじゃないのよ、それに優希さん今は国王よ? どこに法律が入る余地があるの?」


しれっという冬華おかーさん。


「確かにそうだけど、外聞とかあるんじゃ……」


「そんなもん奥さんが一人くらい増えた所で、だれも何も言わないわよ、ただでさえ【リーベルンシュタインの種馬】とか【ハーレム王】とか呼ばれるんだから」


「えぇ……そんなの知りたくなかった……」


「だから一人くらい増えても問題無いわよ、っと。はい、終わり」


話してる合間にも、冬華おかーさんは私のメイクを手早く終わらせていた。


「まぁともかく、お母さん達はあんたの気持ち知ってるから、ちゃんと考えなさい」


「はーい」


「それじゃあ朝ご飯食べに行こうか」


そう言って冬華おかーさんと転移版に乗る、するとお城の中に直結した広間に出る。


「優羽、おはよ」


「巴おかーさん、おはよう」


「うん、制服似合ってるわ」


弟の優巴ゆうはを連れた巴おかーさんがやって来た。


「ありがとう巴おかーさん、それと優巴も」「あうあう~」


「それでね、優羽。お父さん起こしてくれないかしら?」


「え? まだ寝てるの?」


「そうなのよ、昨日も遅くまで原稿考えたみたいで……」


今日、優希お父さんは入学式で祝辞を読むことになってるのだが、昨日も遅くまで考えていたらしい。


「全く……そんなに張り切らなくても……」


「良いじゃない、娘の入学式なんだから張り切ってるのよ」


口ではそう言いつつも、それだけ頑張ってくれるのが凄く嬉しい。


「あはは、それじゃあ起こしてくるよ」


「いってらっしゃーい」「あうぅ~」


二人に見送られ、私は転移板でお父さんの寝室へ向かう。


案の定まだ寝息を立てている。


「お父さん!! 早く起きないと遅刻するよ!!」


「うぅ……もう朝?」


「そうだよ! 今日は私の入学式でしょ!」


「忘れて無いよ~」


そう言って起き上がると、私を抱きしめてくれた。


「おはよう、優羽。そして入学おめでとう」


「ありがとうお父さん!!」


(あぁ、幸せだな……)


あの地獄に居た私は今、世界一幸福な夢を見ているのだから。


だからもう少し頑張って……



---------------------------------

「うっ……」


頭がくらくらする……。


まわりを見渡すと、倉庫の様な場所、しかも揺れている……。


あぁ……そうか……夢を見てたんだ……。


ありえるはずがない夢……。


でも……この夢は……。


「すごく、あったかかった……」


その温かさを抱きながら、眠りに落ちた。

正直この話書いてて胃が痛かったです!

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