特別編:いい夫婦の日⑥
幼き姿で行った夕食会では皆からからかわれたり、撫で繰り回されたりして大変だったが、無事? 夕食を終えてデートの続きに戻ることになった。
「どうしよ……まだ身体が戻らない……」
「幼い時のユウキ……これが尊いという事かっ!!!」
しかもミュリはもんどりうって悶えている。
「あのーミュリ? 大丈夫?」
「大丈夫です!! 私は正気です!!」
「いや……まぁいいや楽しそうだし」
「ああああ!!! ユウキこっち見て!!」
カシャカシャカシャカシャカシャカシャカッカッカッカッカッカッカッカッカッカッ
どこで買ったか分からないめちゃでかレンズの着いたカメラで撮影しつつお手製の応援うちわを扇ぐミュリ……お前それ作ったのか。
ここ最近分かった事だがミュリは、《《俺のファンクラブ》》を作って会長までやってるらしい……ある時から熱心にパソコン教室に通ったりしてたのはそうゆう事かと感心してしまった。
流石にそろそろ良いか……
今日は夫婦の日なのだ、もうそろそろ良いだろう。
「なぁミュリ、どこか行かないか?」
「え? ひゃあっ」
カメラをぐいっと押しのけて、体重をかけてソファに押し倒す。
「ユユユユユウキッ!?」
「どこが良い? こんな時間だしもういけるところは少ないけど……」
「えっと……それでしたら……」
◇◆◇◆◇◆◇◆
「うぅ……流石に寒いな……『風よ、わが力を使いこの空間を覆いたまえ――エアドーム』」
「ありがとう、ユウキ」
「でも良かったのか? 夜の島なんかで」
「あぁ、ここは星が良く見えるからな」
「そうか、向うの世界と違ってこの世界だと星が見づらいもんな」
そう言って見上げると満天の星が瞬いている、確かに異世界の星空を思い出す位の綺麗さだ。
「私も昔はそこまで星は見なかったんだけどな……」
丁度座るのに良さそうな場所を見つけ腰を下ろす。
「じゃあ星を見るのは、こっちの世界に来てからなんだ」
「あぁ、とは言っても元々はユウキに告白される日の事を思い出すからだ」
「そういえば、あの日も満天の星空だったな。あれ? でもプロポーズした時は夜明けだった様な……」
「そうなのだが、あの日ユウキにプロポーズされるまで星を眺めて色々と考えていたんだ、『このまま付いて行っていいのか』とか『私はユウキに相応しいのか』とかな……」
「そんな事言ってたなぁ……」
「でもあの時、ユウキの『駄目だと言っても無理矢理に連れてく』って言った言葉が凄く胸に残っててな」
その言葉にふとあの時を思い出した、それと同時に恥ずかしさがこみ上げて来る。
「あはは……よくよく考えると恥ずかしいこと言ってるなぁ俺」
「あれには惚れ直したぞ」
そう言ってにっこりというよりにっかりと笑う。
「———っつ!」
今までに見た事無いミュリの笑い方にドキッとする。
そうしているとミュリが抱き付いてきた。
「やっぱり、ユウキについてきて良かった、あの時連れ出してくれなきゃ私は今頃笑えてなかったよ」
「まぁ、俺としてはミュリがどんなに嫌がっても、最悪攫うつもりだったし問題無いでしょ」
ミュリの頭を撫でてると、ミュリの寝息が聞こえ始めた。
「そっか……もうそんな時間か……」
スマホで時間を確認した後は、気恥ずかしいながらもミュリの頬にキスをする自撮りを取って、メッセージアプリにアップしておく。
「あーやばい……これかなり恥ずかしいぞ……」
赤くなった顔を手で扇ぎつつ、星空を1人眺めるのだった。
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それからしばらくして寝たままのミュリをベッドまで送り届け、砂が体についているので耀と会う前にシャワーを浴びる事にする。
「慌てて服を脱がなかったら大変な事になるとこだった……」
浴びる直前に、身体に変化が出たので大急ぎで脱いだ、危うく破くとこだったし仕方ない。
脱ぎ散らかした服を集め、軽くシャワーを浴びる。
そうして、さっぱりしてリビングに行くと、耀が待っていた。
「あ、優希おかえり~」
炬燵の中に入った耀が手を振る。
「あれ? 炬燵なんて無かったよね?」
「うん、だから今日買ってきた」
「そうか……あぁ、あったかい~」
大人数用の炬燵だけど、せっかくだし耀の隣に入る。
「おっ、いらっしゃーい」
入った途端ぐでーっと、もたれかかって来る。
「わぁ……優希もあったかいなぁ~」
「砂が結構髪の毛に入ってたしね、どうしても長くなっちゃった」
「どこ行ってきたの?」
「神津島だね、ミュリの要望で星を見てた」
「この間……といっても夏前だけど、テレビで話題になった場所ね」
「そっか~でも、凄い綺麗だったよ」
「いいねぇ~そう言えば近くの博物館のプラネタリウムに、カップルシートなるものが出来ましてね」
「そうなんだ、じゃあ今度行こうか」
「いいのかなぁ~私と二人だけで~」
「せっかく耀が提案してるんだし、二人で行こうよ」
「ありゃ、珍しい」
「最近二人きりになる事少なかったからね」
「そんな事言ったら、付き合い始めてから二人きりになったのなんて、数える程しか無いじゃない」
「そういえばそうだね」
「イタリアに行った時も、ちびっ子たちの救出に行った時も、異世界に渡った時も、必ず優希の周りには皆が居たもんね」
「うっ……そう言われると、旦那としては非常に申し訳無い気分になるなぁ……」
「えぇ~だからと言って、今更みんなと離婚しろーなんて言っても出来ないでしょ?」
「それは……どうだろう……」
そう言うと初めて耀と目が合った。
「えっ? 皆の事嫌いになったの?」
「そうじゃないよ、だってそうだったら皆と今日一日過ごさないって」
「じゃあ何で?」
「それは……俺の中でどこかしら耀に対して、罪悪感があるからなんだと思う」
「私に?」
「うん、こうして巻き込んだ事や、沢山のお嫁さんを作った事、何度も死にかけて耀に心配させた事、耀の気持ちに気付かなかった……ごっ」
言い切る前に耀に頭突きをされた。
「いったぁ~い」
「耀……頭突きしといてそれはないだろ……」
「優希が馬鹿な事言うからじゃない!」
「えぇ……」
とりあえずヒールをかけながら話を聞く。
「そりゃ、結構前に私が心配だーとか言ったけど! それとこれは話が別! 優希は優希の思うがままの道を進めばいいのよ! その上で私や皆がそれを支える! 使命感とか義務感で皆を嫁にした訳じゃ無いでしょ?」
「うん、それは無い」
「だったらそのまま進みなさい、私は優希も大事だけど皆の事も大事なの」
「わかった」
「その上で私達を十分に愛しなさい!」
「それは問題無いね」
「じゃあよろしい」
そう言うと俺と耀は笑い合う。
「ただ……今だけは私を愛してね」
「かしこまりました、お姫様」
耀の頬に手を添えキスをする。
「うん、それでこそ私の王子様」
そのままゆったりと時間は流れていく。
(やっぱり耀が居ないとだめだなぁ……)
感謝の気持ちを込めて再度、耀にキスをした。