特別編:いい夫婦の日③
メアリーの世界から戻って来た俺達、その後メアリーはまだ寝ていて起きてない人の朝食を作りに行った。
「さて、次は……「私だよー!!」」
背後から冬華がが背中にぶつかってくる。
「冬華か、それで何をする?」
「えへへ~それはね~」
◇◆◇◆◇◆◇◆
「んん~気持ちいぃ~」
「そうだね、この時間の乗馬が、こんなに気持ちいいとは思わなかったよ」
朝露に濡れた新緑の遊歩道を冬華と馬に相乗りして進む、冬華が行きたいと言ったのは冬華の地元近くにある乗馬施設だった。
「でも、まさか冬華が乗馬をやってるなんてなぁ……」
「昔から、親戚のお家に行くついでに乗馬をしてたんだ〜」
「だから、異世界で馬に乗るの上手かったんだな」
「へへ〜ん、見直した?」
「うーん……惚れ直した」
「あぅ……」
冬華と相乗りをしているのもあって後ろから抱きしめる形で手綱を握っているので、必然的に口の位置が《《耳元》》になるわけだ。
「それで冬華、どっちに行けば良いんだ?」
遊歩道は分岐地点だった。
「えっと……いつもは左だけど、今日は右!」
「わかった、頼むぞ」
「ブルルッ」
すると、遊歩道というより、草が多くて獣道っぽくなるが確かに道は整備されている。
「そうだ、どうして乗馬に来たんだ?」
「ん〜っとね、特には考えてなかったんだけど、優希さんと二人っきりで過ごすなら、他のみんなもやらない事やろうかなぁ…ってなったから!」
「そっか、ありがとうな」
「え?」
「いや、冬華ならもっと時間内、目一杯楽しむぞ!! みたいな感じかな~って思ってたからさ」
「え~心外だ~!!」
「ごめんて」
「私だってちゃんと優希さんの事、考えてるんだよ~」
ぷりぷりと頬を膨らませつつ怒りながら、冬華がこちらを見る。
「わかってるよ、冬華はいつも全体を見て、足りない部分や空気を読んで動いてる事くらい」
手綱を片手に持って頭を撫でる、指通りの良い髪の感触が気持ちいい。
「むぅ……ずるいなぁ……」
それに身を任せる様に体の力を抜いて、俺に身を預ける冬華。
「それで冬華、あとどのくらいなんだ?」
「ん~と、もう少しだね」
「わかった」
そして、おしゃべりしながら進んでいると、視界が開け広場に出た。
「おーこれは凄い」
「でしょ~、私の好きな場所で、乗馬やる時はいつもここにくるんだ~」
目の前に広がる大きな富士山に、目を奪われる。
「もう少し早いと、朝日が当たって赤富士になるんだけどね~この子もそこまで早起きしてもらうのも悪いしねぇ~」
そう言って、冬華が馬を撫でると「ブルルッ」と返してくる。
「さて! 帰ろうか!」
「もういいのか?」
「うん! 時間も無いし!」
「そうだな、時間もそろそろ折り返しだもんな」
「じゃあ、帰りもお願いね~」
「頼んだぞ」
「ブルルッ」
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それから厩舎に戻って、馬のブラッシング等の世話を終え戻った俺達、冬華はお昼過ぎから向こうで遊ぶために準備をしに戻った。
「えっと……次は……」
「私ですっ!」
春華が冬華と同じように抱き付いて現れた。
「春華かぁ、今日は何をするの?」
頭を撫でながら聞くと春華は空間収納から新しいえぷろんを取り出した。
「皆のお昼ご飯を作ろうと思うのですが……駄目でしょうか?」
「春華が良いなら良いけど……」
「大丈夫ですっ!」
「そっか、なら一緒にやろう」
「はいっ! それとこれを使って下さい」
春華が手に持っていたエプロンを渡してくる、見た事無い柄だけど……
「春華、このエプロンって……」
「優希さん用に私が作りました、お揃いにしたかったので……」
そう言って春華が自分用のエプロンを取り出す、なるほど同じ柄だ。
「そっか、なら遠慮なく付けれるね」
早速付けてキッチンに立つ、用意された食材を見るとお弁当を作る様だ。
「今日は何を作るの?」
「えっと……唐揚げとおにぎりと手羽元の煮込みとミニハンバーグと卵焼き、サラダはサーモンのマリネサラダにしようかと思います」
「そうか、じゃあまずはお米から用意するか」
「では、私は手羽元煮込みの準備をしますね」
そう言って手早くショウガなどの食材を切り分けていく、その横顔を見ながら米を研いで炊飯器にセットする。
「炊飯器のセットは終了っと……春華、先に唐揚げで使うもも肉の筋取りしとくね」
「ありがとうございます優希さん」
結婚前は母さんや耀に上げ膳据え膳だった俺だけど、ちょくちょく春華やメアリー、たまに耀や巴の料理の手伝いやお菓子作りを手伝う様にになった。
「母さんからは、驚かれたもんなぁ……」
「何がですか?」
「いつの間にか春華たちを手伝ってる内に、料理が出来る様になってるからさ」
「そうでした……優希さん料理未経験でしたね」
「いやぁ、学校の調理実習とかではやってたけどさ、家ではやってなかったからね」
「最初は凄くひやひやしてたんですよ?」
「あはは……回復魔法あるからって滅茶苦茶にやってたからね……」
テレビやお料理動画でみた、高速みじん切りや素早い包丁捌きを真似したら、左手が追い付かずざっくりと何度か切ったりして大変だった。
「回復魔法あるってわかってても、私は気が気じゃ無かったんですよ」
「あはは……本当にゴメン……」
頬を膨らませながら調理を進める春華、手元は凄い速さで目で追えない位である。
「よし、鶏ももの切り分け終了、じゃあ次はミニハンバーグやればいい?」
春華の後ろのテーブルに切り分けた鶏ももを置く、それに合わせて先程切っていたミニハンバーグの具材を渡される。
「じゃあ捏ねて形まで作っちゃうね」
「お願いします」
それからしばらく、春華の作業を眺めているとお米が炊き上がったのでおにぎりの準備をする。
「春華、おにぎりの味付けは?」
「さっぱり系で纏めたいので塩とゆかりと梅じゃこにしましょう」
「了解」
1升のご飯を三等分してふりかけを混ぜ込んでいく、その途中一つ小さいのを握る。
「春華」
「はい?」
口元に持って行きながら「あーん」と言うと、春華は小さな口を開けて一口食べる。
「どう?味付け」
「美味しいです!」
美味しそうに噛みしめてる春華を横目に、残りを食べてしまう。
「うん、美味しい」
「優希さん!?」
「あれ? まだ食べたかった?」
「あうぅ……」
「じゃあ、はい」
さっきより小さめのおにぎりを握って春華の目の前に差し出す。
「はい、あーん」
さっきより大きな口を開いて一口で食べる春華、若干不満そうな顔だがまぁいいか……
「美味しいです……」
そしてその後もちょくちょく食べさせたり、食べさせられたりしていると皆の分の昼食が出来上がった。
「予定より早く終わりましたね」
「あぁ、それじゃあみんなの所に持って行くか」
「はい! ですが、その前に……優希さん」
「ん?」
春華に呼ばれ振り返ると同時にキスをされた。
「えへへ、先にデザート頂いちゃいました」
珍しくいたずらっぽく笑う春華に、敵わないなぁと思い。時間まで春華を甘やかすのであった。
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