第12話:広がる戦線と新たな戦力
◇優希サイド◇
――現在8階層――
水没階層を抜けた俺は、モンスターの全く現れない階層を進んでいた。
「うーん、あとどのくらい進めば良さそう?」
「わからない、でも水没したエリアは抜けたから、下るだけ」
「モンスターが現れないのが不思議だよな」
「ん、周囲を見てるけど、ダンジョンの壁が水没してた様子もない」
触ってもみるがダンジョンの壁は風化した様な、触り心地だ。
「とりあえず進もうか」
「ん、そこの次が広間。中にモンスターが居る、気を付けて」
「わかった、ありがとう」
折れ曲がった先の通路の奥、ユフィが言っていた広間が見える、そしてそこに居たのは……
「ガアアアアアア!!!!!!」
以前こちらの世界で会った、特殊個体のシルバーオーガだった。
---------------------------------
◇ダンジョン庁―長官室―◇
『ガアアアアアア!!!!!!』
「なんだこの、モンスターは……」
「恐らく、以前報告にあったハイオーガの特殊個体【シルバーオーガ】かと……」
「そうか……こいつが……」
やっとテレビとつながった画面から見たのは大人でも腰が砕けてしまう様な咆哮を放つモンスターだった。
「彼は……大丈夫なのだろうか……」
「彼が本当の【上凪 優希】なら一度は倒してますね、彼も相当ダメージを受けましたが」
「そうか……救援はまだ届かないのか?」
「はい、先程練馬から出発したので後1時間はかからないかと……」
「そうか……」
画面に小さく映るシルバーオーガを見ながら考える、もし彼が負けた時の事……
最悪、諏訪の地域一帯を封鎖して大量のミサイルにて、ダンジョンやその周辺の湖もろとも焦土にするしかない。
それほどまでに厄介な相手なのだシルバーオーガは。
「頼む……勝ってくれ……」
画面向こうの彼へ、すがる様に祈った。
---------------------------------
◇優希サイド◇
――現在8階層・大広間――
「ガアアアアアア!!!!!!」
「全く……うるさいなぁ……」
「—————ヒュン」
「ガアア…………?????」
接近し、刀に魔力を込めただけの、構えも何も無い状態の《《一凪》》でシルバーオーガの頭部を切り落とす。
そのまま仰向けで倒れて行き、大きな音を立てて沈黙した。
「ユウキ……凄すぎ……」
「あはは、ここまで楽に倒せるなんて……」
こちらの世界に戻って来た当初、弱くなっていたとはいえ苦戦した相手を瞬殺できるようになったのが、嬉しかったりする。
「とりあえず……魔石を取り出して……っと」
拳大の大きさの魔石が出て来る、この位になるには相当な年月か……共食いで力を高めたか。
「多分この階層に敵が居なかったのは……」
「ん、コイツが食い荒らしたんだと思う」
「だよね……」
「それじゃあ、再度ナビを頼むよ」
「ん、任せて」
大広間の奥の階段を下りながら再度ユフィへの道案内を頼んだ。
---------------------------------
◇上凪チャンネル◇
優希がシルバーオーガを倒した瞬間、同接が約50万人を超えた所だ、色んな言語の人がコメントに来ている。
”は?”
”は?”
”はぁぁぁぁ!?”
”Oh my goodness!!!!”
”Неужели!!”
”うおおおおおおお!!”
”すげええええええ!!!”
”这使我吃了一惊!”
”Ist es wahr!!”
”non posso crederci! ! !”
”không thể tin được! ! !”
”何したか見えなかったぞ……”
”あれってオーガだろ?戦車砲でも何十発も当てて倒したって聞いたぞ”
”主は本当に神閃なんだろうな……”
”テレビでも速報が流れ始めたぞ!!”
”まじか!!!”
その九割が今起きた事を信じられない様子で驚いている。
元々マイクは無いので
「私も、本当に驚きました……あんな怖いモンスターを一撃なんて……」
「ん、流石としか言えない」
「同接も50万人超えてからは、万単位で人が増えますね……」
「凄いの?」
「凄いですね、国内のランキングでは、歴代10位にもうすぐ入ります」
「むふー、流石ユウキ」
「ですね!」
---------------------------------
◇とある配信者A◇
「は?」
俺達は今、練馬の駐屯地から自衛隊のヘリで諏訪へ向かっている途中だった。
「どうした?」
「それが……シルバーオーガが出たらしい」
「「「はああああああああ!?」」」
「それで、瞬殺されたらしい」
「「「はああああああああ!?!?!?」」」
「詳しい事はわからないが。配信者が右手の刀を《《振った瞬間》》、オーガの《《首が落ちた》》らしい」
「シルバーオーガって、俺達が苦戦したオーガよりはるかに強い特殊個体だよな?」
「あぁ……正直報告は2例のみで、今回と前回は探索者学校の編入試験の時に現れたらしい」
「まさか……そこまで強くない?」
「いやいやそんな訳無いだろ、特殊個体だぞ?」
「ゴブリンでさえあんなに強かったのに……」
「だっ、だよな!!すまん、少し気が動転してるみたいだ」
そんな話をしているとヘリが着陸態勢に入る。
「皆様、到着されましたら市街へ輸送します、そちらで1区画守りに入っていただきます」
「「「「了解!」」」」
---------------------------------
◇ダンジョン庁―長官室―◇
「嘘だろ……」
「信じられん……」
私達二人は画面にくぎ付けだった。
「あのシルバーオーガを瞬殺……」
「強すぎる……」
「失礼します!」
「入りたまえ」
大慌てで飛び込んで来た職員が国内1位パーティ【躍進者】が到着しました!
「わかった、後は自由に動いてもらってくれ」
「了解しました!!」
「さて……頼んだぞ……」
ここで見守るしかない状況が、とてつもなく歯がゆいが仕方ない、若者が未来を作るのだから。