第52話:奇跡の使い手
モンスターとの戦闘から1時間、今は部隊ごとに被害状況の確認をしていた。
・後衛は皆軽傷者のみ。
・中衛も重傷者のみ。
・遊撃は戦闘不能が約20人重傷者が約70人死者約10名
・前衛は戦闘不能が約50人重傷者以下は約500人
・総死者数はおおよそ60人(判別不可能な人もいるため)
「損害は約130人か…戦闘不能の内70人は治療次第だな…」
死者60名、その内遺体の完全な損壊は約10名…他約50名は致命傷や出血多量での死亡。
(この内容だと蘇生は可能だな…とりあえずエアリス呼んで来るか…)
正直敵がかなり混乱していたのと大型のモンスターが速攻倒されたお陰で死者数はかなり抑えられた、ホークアイツさんも「こんなに死者数の少ない戦いは初めてだ」って言っていた。
「ホークアイツさん!今からエアリスを連れてきますね」
「お?おう…?わかった」
そう言って転移をした。
「よっ…と」
城内に転移してしばらくメイド長がやって来た。
「勇者様、どうかなされましたか?」
「道中で敵軍との戦闘がありました、それでエアリスの力を借りたいな~って思いまして」
「かしこまりました、ではお呼びしますね」
それからエアリスを待っていると扉が開かれた
「ユウキ様!」
見た事無い衣装に身を包んだエアリスが来た、あれって軍服かな?非常にコスプレっぽいけど…
「どう?ユウキ様、ヒナギクさんの新作なのですが…」
「うん、凄くよく似合ってるよ。カッコ良さと可愛いさと凛々しさが、良い感じに混ぜ合わさってるね」
「ありがとう!」
そう言ってエアリスが抱き付いてくる。
「おっと…それでこれは…魔法鎧なの?」
「いいえ、違いますわ。でも魔法鎧と同じ布を使っているので魔石を装着すれば魔法鎧としても使えますの」
「へぇ…凄いね…」
ヒナギクさんのお店は仕立服も取り扱っているが素材に使う布は魔法鎧よりグレードが落ちている、魔力を込めれば綺麗になったり元々が汚れ辛かったりする布なのだ
今回の布はそれとも違い、ユフィと一緒に組み合わせた新しいタイプの布で蚕の繭から撚糸(紡いだ糸の事)を作る際にポーションを通して糸自体の材質を上げるて魔法が定着しやすくなっている、それと染色に魔石を混ぜ込んでいる為微弱ながら布自体が魔石の様に扱えたりする。
無論それだけじゃ魔法鎧の発動には向かないので魔法鎧を発動させるには別の魔石が必要になる。
それでも汚れにくさや耐久性が上がっているので新しい布として流行らせるつもりらしい。
この技術は元々エアリスが考えた政策の一つで、戦争や探索者の旦那さんが亡くなった場合に、奥さんが一人でも多く働けるように悩んでいた所を、ユフィと雛菊さんがこの布を発明した事で政策に盛り込むことにしたらしい。
そんな話をしているとトランクケースを二つ持ったメイド長がやって来た。
「姫様、準備が出来ました」
「ありがとうございますメイド長」
「勇者様、姫様をよろしくお願いします」
「はい、命に代えても」
荷物を受け取り空間収納にしまい転移をした。
転移した場所は遺体安置所で、そこには約50人分の遺体と約10人分の破片が収められていた。
「エアリス、どのくらいの人なら治せそう?」
「そうですね、私が蘇生できるのは死んでから24時間以内、かつ傷などを治療した場合になりますので…」
「わかった…そこは俺の出番だね…」
鑑定と復元魔法で遺体の傷を治療していく、とりあえず損傷が激しくない約50人分の修復を終えた。
「それじゃあエアリス、これを使って」
俺が今まで付けていた世界樹の腕輪を手渡し蘇生をしてもらう。
『戦いの中で散り、悔い残した者よ、その魂を神の奇跡をもって呼び戻そう!————リザレクション』
エアリスの魔力が広がりどこからともなく光の玉が死者の体に入る、すると次々に蘇った人が目を覚ます。
「衛生兵の皆さん、お願いします!」
そうして次々と運び出されていく人達、そして残るは破片になった人達である。
「さて…修復…」
戦闘後かつ王城との転移の往復と修復で魔力がだいぶ使われているが…まだどうにかなる…
(でもやっぱり丸々修復させるのは…きついなぁ…)
修復に必要な大部分が脳なので脳が残ってる人は簡単なのだが…脳が無くなってる人は本当に大変である。
「ふう…つかれたぁ~」
「ユウキ様!!」
魔力をごっそりもっていかれたので尻餅をついてしまう、慌てて駆け寄るエアリスを手で制す。
「大丈夫大丈夫、それより衛生兵の人は居るかな?あの山を移動させないと…」
そう言って死体の山を指差す。
「呼んできますね!」
そう言ってエアリスは外に出た。
5分程して10人程連れてきてくれたので、手分けして並べていく、ついでに服も着ていないので布をかけてもらった。
『戦いの中で散り、悔い残した者よ、その魂を神の奇跡をもって呼び戻そう!————リザレクション』
2度目の使用、前回の5分の1だがエアリスの額に汗が滲む。
先程と同じく光の玉が体に入り込み全員が目を覚ます。
「奇跡だ…」
「聖女様…」
周りの衛生兵がそう次々と呟く。
「終わり、ました……」
ふらついたエアリスを支え、膝の上に座らせる。
「お疲れ様、エアリス」
「ユウキ様もお疲れさまでした…」
生き返った人たちが忙しそうに担架で運ばれていくのを眺めながら二人で静かに喜びを分かち合った。
◇◆◇◆◇◆◇◆
それから翌日、俺とエアリス、数名の回復魔法が使える衛生兵でポーションでも治りが遅い、重傷者を治療して回った。
バラバラから蘇生した約10人は体の調子が戻らないとの事で、荷馬車に乗り砦に戻る事になった。
それからエアリスは替えの馬で最前線へと付いて行くことになった。
そしてその翌日の朝、遂に最前線へ到着した。