第40話:泣き虫ヴォルフ
メアリーの過去は俺の寝顔写真で手を打たれ、野営地に帰らないといけない時間が迫っていた。
「そういえば訓練場に馬車は置いてあるんですよね?」
政務に戻った(強制連行された)エアリスの代わりに書類を持ってきたメイド長が先導して歩く。
「そうですね、幌馬車が5台、馬が5頭おります、それと、兵士を3名程連れて行って下さい」
「え?どうしてですか?」
「まぁ単純に早く帰って来てもらいたいからですね。いくら荷物が人だけとはいえ5台も並んで進んでれば遅くなるので。人質は兵に任せて、街に戻って準備を整えてもらいたいからです」
「それ3人で足ります?」
「出来れば5人は連れて行って欲しいのですが…無理でしたら3人でも大丈夫です」
少し休んで魔力も回復してるし…5人なら大丈夫かな?
「わかりました、多分大丈夫だと思うので集めてください」
「かしこまりました、ありがとうございます」
そしてメイド長が鈴を鳴らすと影師団のメンバーのメイドさんがやって来て、メイド長から受け取ったメモを持って外へ飛び出して行った。
「そうだ忘れていました、道中食堂に寄ってもらえますか?」
「食堂ですか?」
「はい、勇者様達が別行動になりますので、食材と携行できる調理器具を運んでいただきたいのです」
「そうでした、置いて行かないと駄目ですもんね」
「話が早くて助かります」
◇◆◇◆◇◆◇◆
それから食堂に寄り(久々に会ったシェフの方に抱き付かれたり、泣かれたりした)、人質と兵士用の食材と調理器具を受け取り、訓練場まで来た。
「全員敬礼!」
訓練場に入ると近衛騎士団の証の短剣を胸に当て、真っすぐ前を向く。近衛騎士団特有の敬礼をしていた。そして最前列に立つ近衛騎士団の第二団長が迎えてくれた。
「お久しぶりでございます、勇者殿」
「お久しぶりです、ヴォルフ卿」
そう言ってガシッと握手を交わし力比べをする。
「ぐぬぬ…やりますねヴォルフ」
「ぐぎぎ…やるな、ユウキ」
『アレ…なにしてるんですカ?』
『あれはですね…あの二人勇者様は新米で、まだ力も体力も無かった頃に。ヴォルフ卿は訓練生の頃からの付き合いなんです』
『それでよくああやって、力比べだったり剣術の練習だったりしてた仲なんですよ』
『そうだったんですネ……あそこまで好戦的な旦那様見た事無いでス』
と後でメアリーとメイド長が話している、そして唐突にヴォルフの顔が怒りに歪み手を振りほどかれる。
「てめぇ…旦那様とはどうゆう事だ?」
「さて、何の事やら?」
「それにお前…その右指の指輪…」
背後に居るメアリーをちらっと見る。
「そうか…そうゆう事か…」
ヴォルフの魔力が跳ね上がる、背後で近衛騎士がガクガクしてる。
「剣を取れ!」
「あー何か勘違いしてるな…まぁいいか」
空間収納より刀を取り出し構える。
「なんだその武器は貴様!騎士としての心を捨てたか!」
「ご生憎様!俺の生まれた国の伝統的な武器なんだよ!」
「ほう、ならばその腐った性根事砕いてやろう!」
「泣き虫ヴォルフに出来るかな?」
「そう!いう!貴様は!甘ちゃん勇者だろ!」
ヴォルフの武器は剣とゆうより質量武器だ、簡単に言うとベル〇ルクのドラゴン〇しを二つ横に重ねた大きさの武器である。それを身体強化で無理矢理振るう程のパワープレイヤー、まともに受けたら折れるだろうし、丁度いい、あの技を使うか。
飛び込んで来たヴォルフ剣を受け止めず刀で滑らせ受け流す。
『小鳥遊流守りの型———流水』
力押しの相手に対して使える鷲司さんに教わった防御中心の型、この型自体はどの武器でも使える、現に春華が普段盾で使っている戦法だ。
剣を受け流しながら、蹴りや殴りで吹き飛ばす。
「ぐぎぎ…お前…手抜いてるだろ!」
「お前の武器をまともに受けたら、叩き折られるだろうが!」
現に当たった地面は大きく破砕されていて足場が悪くなる。
「それが目的だからな!さあ!折れちまえ!」
「趣味悪いなぁ…クリエイトロック」
「んな!?魔法だと!?」
受け流す際に地面に刺さった剣を魔法で固着する。
「ユウキ!卑怯だぞ!」
「そりゃ俺が数カ月何もしていない訳が無いだろ!」
「グフッ」
腹を蹴り飛ばすが耐え切られる、腹筋硬すぎだろ!
「俺だって数カ月鍛えまくってるんだぁ!!」
―――バガンッと音を立てて剣が引き抜かれる
「ゴリラかよ!!」
「フハハハ!!ゴリラは知らんが悪くない!!」
「うざ!正直その高笑い、うざ!」
「本気で来いよ!ユウキ!全部打ち砕いてやる!
「わかった、本気でやってやるよ!死ぬなよ!」
空間収納に入れていた世界樹の実を使った試作型の魔石を取り出す、それを左手に鞘と共に握り魔力を込める。
「—————すぅ」
「フハハハハハ!!!これが今のユウキの本気か!!はああああああああ!!!」
「小鳥遊流刀剣抜刀術改——風影斬」
身体強化した抜刀に魔力を追加で纏わせる、神速かつ不可視の斬撃を3つ重ねる技だ。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」
それを真正面から受けるヴォルフ。
―――――ビキビキビキバリン―――バギンッ!!!
ヴォルフの魔法鎧と剣が砕ける音がして前をみる。
「———ズシン」という音と主に城壁の二か所が綺麗に切断されている。
「あっ…」
更に手の中にあった世界樹の実を使った魔石と鞘が砕けていた。
「「「あばばばばば……」」」
見ていた近衛騎士たちが腰を抜かしている。
「ちょっと何が起きて…なんですのこれ…」
「あはは…すみませんでした!!」
俺はその場に土下座した。
◇◆◇◆◇◆◇◆
30分後俺はエアリスの前で正座していた。
「訳は分かりました…ですがやりすぎです…」
「はい、それはもう重々承知です、つい楽しくなっちゃって…」
「凄ク、生き生きしてましたネ」
「勇者様ってあんな顔するんですね…」
「見せて下さい!メアリーさん!」
メアリーのスマホにかぶりつくエアリス。
「あぁ…わたしもこの魔道具…欲しいです…」
「うん、向こうの世界行ってら買ってあげるよ」
俺がそう言うと目を輝かせるエアリス。
「ホントですか!ほんとですよ!絶対ですね!」
凄く楽しそうである…これでごまかしたいなぁ…
「はっ…ともかく!城壁は魔法部隊に任せますが…これっきりにして下さい…各所への説明が大変なんですよ…」
「本当に、すみませんでした!」
「大丈夫です、後はユフィが怒ると思いますので♪」
ニコニコ顔で死刑宣告される俺、隣でメアリーが呆れた様な顔をしている。
「とりあえず勇者様、馬と馬車をお持ちしました」
同じく呆れ顔のメイド長がこっちに馬車と馬と兵士を連れてきた。
「あっ…はい…」
空間収納に仕舞い馬と兵士たちを一ヶ所に集め、メアリーの腰を抱く。
「それではユウキ様!お早めに戻ることをお待ちしております!」
「わかった、じゃあ行って来るよ!」
そう言って耀の魔力を目印にして転移した。