第13話:水城 耀の長い1日①【改稿版】
「マジかよ……」
(神様、なんてものをくれたんだよ……)
表示されたウインドウの前で頭を抱える。
【英雄譚】の能力は全然良い、むしろ大歓迎だ問題はもう一つの【英雄色ヲ好厶】の方だ。
「庇護下って……彼女居た事すら無いんだぞ俺……」
それに、私生活で仲の良い女子なんて耀くらいだぞ?
クラスメイトには頼まれ事をされる事はあるけど、それもたまにだし、そもそもクラスメイトの女子とそう言った関係になるのが想像できない。
「いや、だからといって耀にそれを伝えてどうしようと言うのだろう。そもそも俺は、耀の事どう思ってるんだ?」
幼馴染で、子供の頃から一緒で、エアリスやユフィ並みに美人だし、この間耀からデートと言われた時はドキッとした、いつも一緒に居るから夫婦とか言われているのも悪い気分じゃない。
それに好意が無いと言えば嘘になるし、むしろ一緒に居るのも心地いいし、離れる所が想像できない。
でも異世界で出会った、エアリスの様に恋に落ちた様な感覚は無い……。
「というか、女性の接し方がわかってたら、エアリスもユフィも寝取られる事は無かったんだよなぁ……」
ベッドの上で頭を抱えて悶える。
「いやいや、そもそもこっちの世界に帰って来るのが決まってるってのに、手を出すのは下種過ぎるだろ……」
そんな〝ヤリ捨て上等!〟とか言う様なクズにはなれない。
「どうしたもんか……」
いつしか考え込んでしまっていたが、部屋に入ってきた母さんに「遅刻寸前だよ?」と言われ大慌てで準備をする羽目になってしまった。
大慌てで準備したせいか朝食も摂らずに走り出す、今までより体が軽い、これも【ジョブ】の力なのだろう。
「流石にこんな時間だし、耀も先行ってるでしょ!」
起き抜けに見たスマホには、耀からのメッセージは入っていなかった、こんな時間だし先に行ったのだろう。
慌てながらやけに黒塗りの高級車が多い通学路を、いつもの倍の速さで駆け抜け、急ぎに急いで飛び込んだ教室。
その中には耀の姿が無かった……。
「うぅ……やらかしたぁ……」
気付くとスマホも忘れていた、連絡が取れないので耀が道中事故に遭ったのかと思い戻ろうとしたが、運悪く担任の先生と出くわしてしまった為に戻れなくなってしまった。
「あー全員揃ってるな~」
「せんせー、水城さんが居ませーん」
「あぁ、水城は家庭の事情で数日休みだ。上凪、水城に渡すプリントとかあるだろうからちゃんと持って帰ってやれよ?」
「はい……」
(ほっとしたような、残念というか……)
朝の事でもやもやした気持ちだった事もあり、その日一日は授業に身が入らなかった。
◇◆◇◆◇◆◇◆
◇水城 耀side◇
昨日は、とても目まぐるしい一日だったなぁ……。
以前、優希と下校途中に遭遇したゴブリンの様なモンスターが世界中に現れ、それによって世界の常識が変わってしまった事。
政府によってダンジョンに対抗する為の探索者という存在、そして私が世界初のジョブの魔法使いになってしまった事。
それに、昔仲の良かった鶫とも再開した、まぁその後は優希との事根掘り葉掘り聞かれたけど……。
「それにしても、昨日の優希めっちゃ格好よかったなぁ……」
数日前から優希の纏う雰囲気が変わっていた。
今までは頼りない感じだったのにいきなり大人になったかの様な感じだった、いつもなら脇役の様にしている体育の授業で、サッカー部や他の人を抜いてカッコよくシュートを決めたり。
昨日も出かける時に私をべた褒めしてた語彙力は〝アレ〟だったけど、今まではそんな事なんて無かった。でも、髪型やリップを変えたりしたときは必ず気付いてくれるし似合ってるかを言ってくれてたっけ。
そんなところに好感が持てるなぁと考えてたら、昨日の鶫ちゃんの言葉が思い出された。
『いやーしかし相変わらずだね、優希君大好きは』
「そりゃそうだよ……」
ふっと、昔の事を思いだす。
――ピピピッ! ――ピピピッ!
「やばっ、もう起きて準備しないと!?」
予備にセットしていたアラームが鳴る、これより遅くなるとお弁当の用意が出来なくなる。
大急ぎで身支度を整え、朝食とお昼のお弁当を作る、朝食を食べ終え時計を見るとそろそろ登校の時間だ。
自分の部屋に行き窓から優希の部屋を見ると、未だにカーテンが閉まっていた、こんな時は高確率で寝坊をしている。
「さて……寝ぼすけの優希を起こしに行きましょうか」
幼稚園からほぼ毎日一緒に登校してる私達、だが優希は月に1~2回寝坊をする時がある。その時は決まって私が優希の家で待つ事にしているが。
それでも間に合わなくなるくらいの大寝坊の日がありそう言った時は仕方ないので先に行ったりする。
「今日は大寝坊じゃないといいなぁ……」
そうばやきながら玄関を開けると、門扉の前にメイド服の女性が立っていた。
「おはようございます、水城様」
そう言って、その女性は綺麗な角度でお辞儀をした。
「おはようございます……。えっと、どちら様でしょうか?」
「私は、鳳里菜様の秘書、兼メイドを務めさせていただいております。布良と申します」
そんな私の疑問に、顔を上げた彼女……布良さんは、淀みなく答える。
「鳳……里菜さんって、あの最近話題になった?」
「はい、水城様のお考えしているお方で間違いないかと」
「それで、その。布良さんはどうしてここに?」
「それでしたら、お答えはあちらでございます」
手で促された方を見ると黒色の高級車が停まっていた、あれってリムジンって奴だよね? というかウチの前の道、狭くては入れないんだ……。
それから布良さんの「ご一緒について来て下さい」の言葉に促され、数歩後ろをついていく。
そしてリムジンの横扉を開けると、昨日テレビで見た鳳さんが降りてきた。
「おはようございます、水城さん。私は鳳里菜と申します」
そう言って鳳さんは、とても綺麗な所作で頭を下げる。
「お、おはようございます、私は水城耀と申す者ですっ」
(テンパって返答が可笑しくなっちゃったよぉ……恥ずかしぃ……)
顔を上げると、少し緊張した面持ちの鳳さんだが、私と視線が合うとお嬢様然としたゆったりした微笑を返してくる。
すっごい美人だこの人……。
「申し訳ありませんが、お時間が無いので。こちらに乗っていただけますか?」
そう言って鳳さんは開いてるドアへ私を促す、私は警戒して躊躇ってしまう。
「大丈夫です、貴方には危害は加えるつもりもありません。水城さんの今後の為に少しお話がしたいので、お乗りいただけますでしょうか?」
警戒しながら私が乗ると、鳳さんも車に乗り込み車は滑り出すように発車する。
「鳳様、水城様お飲み物等はお飲みになりますか?」とグラスをてきぱきと用意しながら布良さんが聞いてくる。
「私は、オレンジジュースで。水城さんはどうなさいますか?」
「わ、私も……同じやつで……」
私達のオーダーを聞き届けた布良さんは、美しいと見惚れてしまう所作でオレンジジュースを注ぐ、座席の座り心地も良いけどここら辺の道はそこそこ揺れる、だが布良さんは一切零す様子はなかった。
「お待たせしました、どうぞ」
出されたオレンジジュースを鳳さんは一口飲み「んっ、おいしい」と感想を漏らす、少し警戒しつつ私も飲んでみると、さらっとした飲み口と裏腹にすごく味が濃厚で思わず気が緩み「おいしい」と漏らしてしまった。
そうして鳳さんは口を濡らすと、こちらへ向き直り話を始めた。
「水城さん、いきなりすみません。突然なのですが今日の学校はお休みでも大丈夫でしょうか?」
不安そうな顔でこちらへ伺いを立ててくる。
「はい~大丈夫です~ってえぇ!?」
美味しいジュースで緊張が解けたのか、いきなり休めと言われた事にびっくりしてしまう。
「えっと……どうしてですか?」
「ええ、これより水城さんのご両親へご挨拶へ行こうかと思いまして」
「はっ? ええええええええええええ!?」
驚きすぎて今年最大級の声が出てしまった。