第36話:祝祭と、別れと
朝(昼)に突如現れたリッカルドさん、彼が言うにはこれから俺達はパーティに呼ばれるみたいだ、唐突にそんなこと言われても……
「はぇ?ぱーてぃ?」
「そうだ、パーティだ、まぁ俺とお前さんの家族とレオナルドと釘寺だけの小さなものだがな」
「そうなんですか、俺はまたなんか大きなパーティかと…」
「まぁ街のバーを貸しきってやるだけだからな、大きいのか小さいのかわかんないけどな!」
(よかった、それなら大きくはなさそうだ…)
「よし、そうと決まれば行くぞ!」
立ち上がったリッカルドさんに肩を組まれ連れ出される。
「そうして優希は男同士の友情を深めに行くのであった」
「ちょ、耀変なナレーション入れないで!助けて!!」
「行きましょうカ、耀さン」
「そうねー」
後で二人が楽しそうにしている、それは良いのだが…リッカルドさんめちゃくちゃ酒臭いんだけど!!
そうしてそのまま黒塗りの高級車に乗せられ行き着いた先は、目の前に広場を構えるお店だった。
「すごい…」
「あぁ…」
思わず耀が呟いてしまうのが分かる、お店の前の広場は色とりどりに飾られ、沢山の料理とお酒が並ぶテーブルがいくつも並んでいる、そして沢山の人がラフな格好でお酒を片手に待っていた、その中には俺達の両親も居る。
「どうだ?凄いだろ!お前に世話に人やお前さんを一目見たい奴がこれだけ集まったんだ!島の反対側の奴とかはまだ来てないがこれからもっと増えるぞ!!」
「ちょ!小ぢんまりしてかと思ったら、とてつもない事になってるじゃないですか!?」
「ガァハッハッハー、皆それだけお前に感謝してるんだよ」
大笑いしながらバシバシと背中を叩くリッカルドさん、めっちゃ痛いんだけど…
―――――ボキッ
「ぎゃああああ折れた!」
何してるんだこの人…普通お酒は入ってても折れる程は叩かないでしょ!?
「仕方ないですね…ヒール!」
ヒールを使って治すと周囲から「おぉーーー」っと感嘆の声が上がる、ついでに酒も抜いてやろう…
「本当に凄いな…」
まじまじと治った手を見るリッカルドさん。
「折角直したんですから、無茶しないで下さいよ……」
「すまんすまん、酔っ払い過ぎたな」
「お酒抜きましたので、もう酔ってダル絡みしないで下さいね」
「わかった、わかった。とりあえずこれ持て」
そう言って差し出してきたワイングラスを受け取る。
「Bene allora! Il liquore è stato distribuito?(それじゃあ!酒は行き渡ったか?)」
広場に集まった人皆が各々お酒の入ったグラスを掲げる。
「Queste due persone qui hanno rischiato la vita per noi!(ここにいる3人は、俺達の為に身命を賭して助けてくれた!)」
「Lodiamolo e apprezziamolo, festeggiamo insieme affinché questi tre possano avere tanta felicità!(それを称え感謝しよう!、この3人に沢山の幸せがある様に俺達で祝おうじゃないか!)」
リッカルドさんの声に広場に集まった皆が歓声を上げる、口々に「Buona fortuna!(幸運を!)」と言っているが意味が分からないので理解できない…
「優希さン、皆さん『幸運を』とカ『お幸せに』って言ってるんでス」
そうメアリーが耳元で教えてくれる。
「そうなんだ、メアリーありがとう」
振り返りメアリーに返すと、顔が近かったのかメアリーの顔が赤くなる。
「いっイエ…耀さんにモ伝えてきまス!」
2~3歩の距離に居るんだけど、わざわざ俺から離れ反対側に回る、あっ耀に捕まった。
ナデナデされているメアリーを置いといて、歓声に手を上げ「Grazie!(ありがとう!)」と言うとより一層歓声が大きくなった。
「È quasi ora di limitare la quantità di alcol che puoi lasciare dietro di te! Quindi alza il bicchiere!(そろそろ酒のお預けも限界だろう!じゃあグラスを掲げてくれ!)」
そうして再度、広場に集まった皆がグラスを高く掲げる。
「Salute!(乾杯!)」
「「「「Salute!(乾杯!)」」」
「「「「かんぱーい!」」」」
「乾杯」
「乾杯でス」
そうして各々グラスを打ち鳴らしていく。
「耀」
耀の前にグラスを出す。
「優希」
それに応じて耀もグラスを前に出す。
「「乾杯」」
二人でグラスを打ち鳴らせ一口飲む。
「―――――って!これお酒じゃん!!」
「祝いの席で酒を飲まない奴が居るか!」
ガハハと笑いながら戻ってきたリッカルドさんが隣に来る。
「なぁ優希」
「どうしたんですか?」
「ありがとうな」
そう言うリッカルドさんは、広場で騒ぎ立てる人々を慈しむ様に眺める。
その視線の先では皆が楽しそうに笑い、子供も大人も入り混じって楽しそうにしている。
「この光景は、お前が頑張ったから今ここにあるんだ、今日だけは【英雄】を嫌がらずに胸を張ってくれ」
「そうですね…」
俺も久しぶりに見る人々が笑い合い騒ぎ合う眩しい光景に目を細める。
◇◆◇◆◇◆◇◆
それからは、耀が赤ちゃんを抱かされてわたわたしてたり、その後に「赤ちゃんって可愛いねー」って唐突に言ってきてドキッとさせられたり。
遅れてきたレオナルドとエメラルダさんに祝福されたり。
レオナルドがリッカルドさんのファミリーの一員だったと知ったり。
駆け付けた昨日一緒に戦ったイタリア軍の方々に何故か胴上げされたり。
べろべろになった両親をタクシーに押し込んでホテルへ返したり。
何人もの女性にナンパされそうになった俺を、耀とメアリーがガッツリホールドして「これは私のです!」「Questo è mio!」って言ってたり、メアリーはイタリア語なのでわからなかったけど。
それからは皆騒ぎ、歌い、止めに来た警察官も俺の事を知っていて一緒になって騒ぎ始めたり。
夜遅くになるまで祝祭はつづくのであった。
◇◆◇◆◇◆◇◆
それから二日後、俺達はサルデーニャから帰る為空港に居た。
見送りはリッカルドさん、レオナルド、エメラルダさん、釘寺さんの4人だ。
「それじゃあ、情報なんかが分かったら、幸一(釘寺さんの下の名前)を通して連絡するな」
「任せてくだいリッカルドさん!じゃあ上凪、次会うのは日本になるだろうけど、頑張るぜ!」
なんかめっちゃ釘寺さん張り切ってるけど大丈夫かな…
「いやー寂しくなるな…何年も連れ添った友の様に感じれるぜ」
「あはは…そう言われると悪い気はしないね、今度は日本に来てよ、案内する」
「それは良いわね!私も又優希に会いたいし!次までにパパとアリーチェに教えてもらって日本語を勉強しておくわ!」
そう言って抱き付いてくるエメラルダ、なんか懐かれたんだけど……
リッカルドさんを見ると笑ってるので気にしないでおく。
「じゃあ行こうか、耀、メアリー」
「えぇ…」
「かしこまりましタ」
もう一度振り返り手を振る、また出会えると信じて。
作者です。
イタリア編これで終わります!
次からは主人公がアイドルデビューします!