第10話:魔法使い【改稿版】
◇水城 耀side◇
パーテーションに区切られた所に通され検査や説明を受けた後、検査結果の紙が出て来た。
するとそれを見た担当の女性、渡良瀬さんが眉をひそめている。
「あの、どうかしましたか?」
「いえ……見た事無いのジョブが見えまして……少々確認してきますので少しお待ちください」
そう言ってブースの後ろ側に向かう、すると奥がざわついている。
少しして戻ってきた渡良瀬さんは手を震わせ、とても驚いていた。
「み、水城さん……じ、実はですね。貴女は世界初の【魔法使い】として登録されました」
マホウツカイ? 魔法使いってあのファンタジーに出て来る様なとんがり帽子のとか魔法少女でリリカルな奴とかの?
「えっと……魔法使いってあの?」
私の中で、昨日優希がゴブリンを倒した時の光景が思い浮かぶ、確かに優希は魔法みたいな氷の塊でゴブリンを倒していた、でも私が?
「はい、恐らくお考えになってる、アニメ等で見るあれです」
「そうなんですね。それで、その……世界初とは?」
「はい、今現在世界中の共有データベース内で【魔法使い】の存在は確認されておりません。まだ測定していない人もいるので、確認される場合もありますが現在は世界で水城さんだけです」
「そうだったんですね……」
なら優希も魔法使いになるのかな? 二人で世界初の職業か~特別感あってなんかカッコいいな~
そんな事を考えていると、先程まで笑顔だった渡良瀬さんの表情が固くなる。
「水城さん、ここからは私の独断でお話をさせていただきます」
「は、はい……」
前のめりになった渡良瀬さんの剣幕に圧される。
「ではまず、これ以降日常生活では注意していただきたいことがございます。今現在のところ《《世界初の職》》という事は必ず全世界から注目されます、プライバシーの上でテレビなどでは報じられることはありませんが、各国の人間は貴方に深く注目します。そうなると、貴方の周囲に危険が及び可能性もございますので、どうか迂闊に喋ったり、SNS等で広めない様気を付けて下さい」
「はい、気をつけます……」
「最後に、極めて珍しいジョブですので、政府より召集がかかるかもしれません。その際はご協力していただくかもしれないのでご了承下さい」
そういって渡良瀬さんは頭を下げてきた。
「確約は出来ないですが、もしそうなったら優希……私の大切な人と、話し合って決めたいと思います」
思わずそう言うと、どんどん顔が熱くなってくる……やばっ、凄く恥ずかしいこと言ったような!? すると、それに比例して渡良瀬さんの顔が笑みに変わる。
「まあまあ、彼氏? それとも婚約者かしら~やるわね~」
キラキラした目で詰め寄ってくる渡良瀬さん、先程までのカチッとしたイメージがが崩れてく。
「こん!? い、いえ幼馴染です!」
「あらあら~いいわねぇ~、お姉さんそうゆうの好物なのよ~」
「あ、あはは……」
(助けて優希!!)
それから少しの間優希との事を、根堀り葉掘り聞かれてしまった。
その後、他の職員さんに怒られた渡良瀬さんから開放された、優希はまだ終わってない様子だったので先に待ち合い室で優希のことをぼーっと待っていた。
すると懐かしい声がした。
「あっれー耀ちゃんじゃん、お久~」
振り返ると少し日焼けした金髪ギャルが似つかわしくない、かっちりとしたスーツ姿で居た。
「えっと……誰?」
「あーそかそか、わからないよね~、白鳥鶫だよ」
「ええ!? 鶫ちゃんなの? びっくりした!」
中学の頃に、親の転勤で転校して行った元クラスメイトだ、かなり仲が良かったが引越し以降は疎遠になってしまったのだ。
「あれ? でも鶫ちゃんが、どうしてここに?」
「あはは~、親の仕事が海外になっちゃってさ~、お祖母ちゃんの実家に妹と一緒に預けられる事になったのよ~、それで昨日こっちに来たばかりなのさ~」
ケラケラと笑う鶫ちゃん、昔はなんか滅茶苦茶文学少女ぽかったのに……。
「そうなんだ……でも何で能力検査場に?」
「ああ、あーしは短期のバイトでここのお手伝いなのよ、朝からやってて今さっき仕事が終わったところ。それより耀は?」
「あー私は……優希が興味ありそうだったからさ……」
「あーなるほど、彼の付き添いか……やっと結婚でもした?」
「ふぇ!? い、いや……まっ、まだだけど!?」
私が狼狽えながら返すと、鶫ちゃんはからからと笑いながら返してくる。
「いやいや、まだ高校生だよね!? 私と同い年だからまだ出来ないでしょ」
「むー、からかわないでよ」
「ゴメンゴメン、いやーしかし相変わらずだね、優希君大好きは」
「もう、まったく……」
勿論、冗談だとわかってるので全く怒ってないが、懐かしくもあって鶫ちゃんと笑いあう。
「ははは、懐かしいねこの感じ」
「そうだね~中学2年生の時にもこんな感じの話してたよね」
「そうそう、でも鶫ちゃん。あの頃とは見た目が段違いに変わったよね」
「そーなの! 高校入るときにギャルになってやろーって思ってね。いっぱい勉強したんだけど、なんと高校にはギャルが居なくてさ~まぁでもこの見た目でも勉強は出来たし髪もいずれ色戻るだろうって許されたんだ~」
「そ、そうなんだ……(なんかすっごく喋るようになったんだけど!?)」
「あーごめんごめん、治そうとは思ってるんだけど、意外とこっちのが心地よくて……」
申し訳なさそうにする鶫ちゃん、根が凄く真面目な彼女は、真面目過ぎるが故の反動で、ハマってしまったのだろう。
「ぜんっぜん、大丈夫! 寧ろ昔は肩肘張ってて大変そうだったし、鶫ちゃんが伸び伸びと出来るならそっちのが良いよ」
「うぅ……流石あの旦那だけある……いい子過ぎるよ耀……」
「旦那じゃないよ!?」
それから思い出話に花を咲かせている内に、そこそこ時間が経っていた。
「優希くん長いね~」
「だねー、どうしたのかな?」
「そういえば、耀は適性検査受けたの?」
「うん、一応ね」
「ジョブは何だったの? 因みに私は【裁縫師】だったよ、そっちは?」
「私は……【魔法使い】」
「魔法使い!?」
驚いたのかつい大きな声を上げてしまった鶫、その声に周りの視線がこちらに注目していた。
「ちょ、鶫声大きい!」
「ああ、ごめん……それで本当なの?」
「うん……」
証明書を見せると鶫が目をまん丸にする。
「はえー希少職だったか……」
「希少職って?」
「その名の通り、未確認で人数の少ないジョブの人達を指す言葉だね。ちなみにあーしの【裁縫師】も希少職だよ、世界に一万人くらいしか居ないんだって~」
「はえ~凄いんだね……」
「いやいや耀のが凄いから……」
「あの、すみません……」
「「!?」」
その声と共に、私たちの前に影が下りてきた。