|幕間|:ハードボイルド
◇情報屋side◇
都内某所、立ち飲み居酒屋の上の階、探偵事務所が俺の城だ。
今日も浮気調査の依頼しか入ってこない仕事のファイルを投げ出し俺は煙草に火を点ける。
虚空に吐いた紫煙は闇に溶ける、全くこんな事をやる為に俺は探偵になった訳じゃねえのに。
「今日の仕事はこれで終わりっと」
顧客に渡す浮気の証拠資料を纏めて紙封筒に入れる、明日顧客と会えば今回の仕事はこれで終了だ。
「さて、仕事終わりの一杯にでも行きますか」
立ち上がった所にスマホが鳴動する嫌な感じがするが出ない訳にもいかない。
「うげっ……はい、もしもし」
『おぅ、ひさしいのぅ…いきなりですまんが調べて欲しい奴がおってのう……』
「厳爺か、受けてもいいが酒くれ酒」
『なに?酒じゃと?わかったわかった、今度孫婿にもってかせるわい』
「へえ、厳爺の孫ちゃん結婚するんか…え?結婚?」
あの子まだ15とかだろ?相手はロリコンか?
『小僧、メアリーなにだっけか?』
俺の疑問を無視して話が進んでる。
『メアリー・アーリンストンですね』
答えたのは若い声、年齢にして高校生位だろう、声変わりしたにしては声が若々しい。
『そうじゃったそうじゃった』
そう言うと厳爺は又通話に戻ってきた。
『メアリー・アーリンストンと言うおなごじゃい、どうやら裏の仕事をやっとるらしくてな』
「よくある名前だな…偽名って事もあるし他に特徴は?」
『小僧、他に特徴は?』
『おかしな頭巾被ってましたね』
『珍妙な頭巾を被っとるそうじゃぞ』
「珍妙な頭巾か…それならわかりやすそうだな」
『何かわかったら連絡をくれ』
「了解した、費用諸々はいつもの通りで」
そう言うと通話が切れた、本当に身勝手なジジイだぜ。
「まあこれで数日は、くいっぱぐれなくて済む」
財布の中身を覗き寂しそうに佇む野口さんが三人居た。
◇◆◇◆
そうして1週間後、俺は頭を抱えていた。
昔なじみの厳爺より依頼され俺は【メアリー・アーリンストン】について調べていた。
出てきたのは偽装された戸籍の情報と不自然に掲載された新聞記事のみ、年齢と孤児院で育てられた記録のみ。
「ったく…これだけ調べても出てこないのか……」
資料を放り出して俺は愚痴りながらイスに深く掛け煙草に火を点ける。深く紫煙を吸い、思う様にいかない調査にむかっ腹が立つ。
「まあ、これだけ調べても情報が出揃わないのは、組織においてかなり重要な存在だったことがわかるのが情報って事か」
「まあとりあえず海外に飛ぶか…」
とりあえず厳爺に連絡を入れる。
「もしもし、厳爺か?」
『おう、お主か。それで何かわかったか?』
「分かんなかった事が分かったってのは駄目かい?」
『成程、相当に重要な存在って事かのう』
「まあ、そういうこった、それで厳爺頼みがある」
『何じゃ?報酬は待っとけ知り合いに良いモノを調達してもらっておる』
「いや、そうじゃない。今回の依頼、現地で調べたいんだ」
『お主…それは危険じゃぞ』
「別に、死にに行く訳じゃないさ、厳爺にもらった命だ無駄にするつもりも無い」
『うーむ…よし一つ条件がある』
「なんだい?」
『うちの孫婿も連れて行け』
「はぁ!?」