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クリスタベル姫、クビライ・カーン、苦痛の眠り。Christabel; Kubla Khan; The Pains of Sleep (1816)  作者: S・T・コールリッジ Samuel Taylor Coleridge /萩原 學(翻訳)
クビライ・カーン、あるいは夢の幻像。 Kubla Khan: OR A VISION IN A DREAM.
7/10

クビライ・カーン。KUBLA KHAN.

詩人の前書きにある通り、本作は中断して未完のまま、この形で発表された。題名こそクビライ・カーンの名を借りたものの史実とはほぼ無関係に、エデンの園やビザンツ帝国や荒野の聖者などといった聖書にまつわる記号を用いて、聖都ザナドゥー及び聖帝の幻影が語られる。

それでも当時の東洋趣味に合ったのか、本作から『ザナドゥー』の幻影が広まる事となった。

クビライ・カーン上都におはして

威風堂々、光栄の館お命じに。

聖河アルフの流るる所にて

人には計り知れない洞窟通って

流れて行くは陽の落ちた海に。

肥沃な土地を5マイル四方

囲い込めるは城壁や塔。

In Xanadu did KubLÁ KHAN

A stately pleasure - dome decree :

Where Alph , the sacred river , ran

Through caverns measureless to man

Down to a sunless sea .

So twice five miles of fertile ground

With walls and towers were girdled round ;


これなる庭園、煌輝(きらき)らしくも小川もくねり、

そこには香り撒き散らす樹々の花咲かせ。

これなるは、周りの丘ほど古い森、

緑なす日の当たる場所を折り重ね。

And here were gardens bright with sinuous rills

Where blossom'd many an incense - bearing tree ;

And here were forests ancient as the hills ,

And folding sunny spots of greenery .


さるほどに、かの深い謎めく裂け目は、

緑の丘を(はす)に走って、杉の木に覆われて。

荒涼たる地よ、神聖にして惹かれることは

いつまでも囚われた女さながら

欠けた月の下、魔性の恋人求めて。

But oh that deep romantic chasm which slanted

Down the green hill athwart a cedarn cover !

A savage place ! as holy and inchanted

As e'er beneath a waning moon was haunted

By woman wailing for her demon - lover !

この裂け目から、沸き起こるは絶え間なく

この大地が太い湯気を立てて喘ぐかの如く、

巨大な噴水、一瞬にして押し出されて。

爆発的ながら間欠的な噴出にあって

And from this chasm , with ceaseless turmoil seething ,

As if this earth in fast thick pants were breathing ,

A mighty fountain momently was forced :

Amid whose swift half - intermitted Burst

巨大な断片が跳ね上がる雹のように、

あるいは脱穀機の槌の下にある籾殻のように。

これら踊れる岩の中、一度に、永遠に

聖河の源泉躍り出るは瞬時に。

Huge fragments vaulted like rebounding hail ,

Or chaffy grain beneath the thresher's flail :

And mid these dancing rocks at once and ever

It flung up momently the sacred river.


5マイル程も迷路のように曲がりくねって

流れる聖河は森を抜け谷を通り

人には計り知れない洞窟に至り

ドヤドヤと死海へと沈んでいって。

Five miles meandering with a mazy motion

Through wood and dale the sacred river ran ,

Then reached the caverns measureless to man ,

And sank in tumult to a lifeless ocean :

このガヤガヤいう中、クビライ遠く聞きつける

父祖の声複数が戦争を予言している!

And ' mid this tumult Kubla heard from far

Ancestral voices prophesying war !


 愉しき円屋根落とす影

 浮かぶは波間のその中に

 歌い交わしが聞こえたは

 かの噴水とかの洞窟より。

物珍しき趣向の奇跡となろう

さんさんと日の当たる……聖堂に氷洞!

The shadow of the dome of pleasure

Floated midway on the waves ;

Where was heard the mingled measure

From the fountain and the caves .

It was a miracle of rare device ,

A sunny pleasure - dome with caves of ice !


 ダルシマー付の乙女

 かつて見た幻に映る。

 アビシニア人の女中にして、

 奏でるダルシマーに乗せて、

A damsel with a dulcimer

In a vision once I saw :

It was an Abyssinian maid

And on her dulcimer she play'd ,


 アボラ山について歌えしを、

 成る可くは我が裡に蘇らせん

 その伴奏と歌とを、

 然程にも深き喜び勝ち得ん、

Singing of Mount Abora ,

Could I revive within me

Her symphony and song ,

To such a deep delight ' twould win me ,

音高く長い音楽を、

架空に建てん円屋根を、

That with music loud and long ,

I would build that dome in air ,

日の当たる円屋根を!その氷洞を!

皆言われよう、そこの物共見るべしと

皆叫ぶだろう、見ろ!見ろ!と

かの輝く目を、漂う髪を!

That sunny dome ! those caves of ice !

And all who heard should see them there ,

And all should cry , Beware ! Beware !

His flashing eyes , his floating hair !

輪になって囲め三度まで、

畏れ多きは目を閉じよ、

育てられしは甘露よ蜜よと、

天国の乳まで飲んで。

Weave a circle round him thrice ,

And close your eyes with holy dread :

For he on honey - dew hath fed ,

And drank the milk of Paradise.

Xanadu: (げん)の避暑地として立てられた上都は、現地読みで XiangDu(シャンドゥ) と称したのがマルコ・ポーロの聞き書きにて伝わり、英語読みでザナドゥーと呼ばれ、本作により広まるに及び、ヨーロッパ人憧れの幻想郷と化した。


Kubla(クブラ) Khan(カン): モンゴル帝国5代皇帝にして元の初代皇帝、忽必烈(クビライ)(カーン)

英語読みでは誰のことやらさっぱりなので、本邦にて一般的な呼称を採用。


Alph: 架空の聖河であったものが、今では南極大陸の川になっている。


gardens bright with sinuous rills: 創世記2章

8 主なる神は東のかた、エデンに一つの園を設けて、その造った人をそこに置かれた。

9 また主なる神は、見て美しく、食べるに良いすべての木を土からはえさせ、更に園の中央に命の木と、善悪を知る木とをはえさせられた。

10 また一つの川がエデンから流れ出でて園を潤おし、そこから分かれて四つの川となった。


half - intermitted Burst: 間欠泉の描写らしいが、英国に温泉がなく詩人は実物を見ていないのか、やや不自然。


a lifeless ocean: 一般名詞のように書いているけれど、どうやらヨルダンにある、イエスの説教場所になった死海のほとりをイメージしたものらしい。上都には、そのようなものはない。


heard from far: 滝の轟きに空耳した感じ。


caves of ice:避暑地に設ける建物の地下室と考えれば、氷室(ひむろ)の事であろう。しかし caves というから、詩人は洞窟を想像したようだ。


dulcimer: ピアノのように張った弦を撥で打つ楽器。ペルシャ発祥のツィター族がアイルランドで発展したもので、今では合衆国に奏者が多い。これを一日で弾けるようになったというブライアン・ジョーンズの演奏が Lady Jane で聞ける。他に、活動中の演奏家が上梓した動画もある。


Abyssinian: 同名の猫がエチオピア原産とされるのは、そのように紹介した本があったからで、これはしかし著者の誤解であり、実際はエジプトのアレキサンドリアに居た猫をイギリスに持ち帰ったもの。当時はエチオピアを「アビシニア高原」と呼ぶのが一般的だった。つまりエチオピア人をアイルランド楽器奏者に持ってきた訳で、いずれにしてもモンゴル・中国とはかけ離れる。

この背景には、ヨーロッパに中世から流布した『プレスター・ジョンの国』の噂が、エチオピアと混同された史実があり、詩人は夢中に、または意図してか、それを更に元帝国と混同した事になる。


once I saw :この I を作者と解して「アビシニア娘の歌を聞いて浮かんだ幻想」と取る訳も見たが、採らない。

字下げしての扱いからしても、主人公の台詞に見える。

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