表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クリスタベル姫、クビライ・カーン、苦痛の眠り。Christabel; Kubla Khan; The Pains of Sleep (1816)  作者: S・T・コールリッジ Samuel Taylor Coleridge /萩原 學(翻訳)
クリスタベル姫。Christabel.
5/10

第二部結び。The Conclusion to the Second.

残念ながら『クリスタベル姫』はここで中断し、遂に続編が書かれることはなかった。

見てきた限り、本作は福音書の記述を元に展開されているので、この後は『死』『浄化』『再生』が語られる予定だったのであろう。

小さな子、しなやかなエルフ、

歌うも踊るもその身のために、

赤い丸い頬した妖精か何か

いつも何か見つけ、求めはしない何も、

A little child, a limber elf,

Singing, dancing to itself,

A fairy thing with red round cheeks

That always finds, and never seeks,

その視界に幻影作り出すこと

父の両眼を光で満たすこと。

するとたちまち喜びが滔々と

父の心に溢れ、父もついには

度を超えた愛情表現に駆られ

無意味に辛辣すぎる言葉かけ。

Makes such a vision to the sight

As fills a father's eyes with light ;

And pleasures flow in so thick and fast

Upon his heart, that he at last

Must needs express his love's excess

With words of unmeant bitterness.


かなり有りそうな押し付け合い

お互い全く勘違い

がっかりしたように呟いてみせるとか、

人畜無害な癖に不良を気取るとか。

Perhaps 'tis pretty to force together

Thoughts so all unlike each other;

To mutter and mock a broken charm,

To dally with wrong that does no harm.

あまりに繊細すぎ綺麗すぎたのか

各々心の内にきつく責める異常

愛と哀れみゆえの甘えか。

何がなし、罪の世界に在る以上

Perhaps 'tis tender too and pretty

At each wild word to feel within,

A sweet recoil of love and pity.

And what, if in a world of sin

(悲しむべくまた恥ずべくも、これ真実ならん!)

心と頭に来る斯様なめまい

怒りと痛みから救われることは先ずあるまい、

斯く言われるはこれ世の倣いとぞ。

(O sorrow and shame should this be true!)

Such giddiness of heart and brain

Comes seldom save from rage and pain,

So talks as it's most used to do.

必ずしも評判の良くない第2部の方が、訳者にはずっと面白かった。愛らしいクリスタベル、堂々たるジェラルディン、登場人物の生き生きした描写もさることながら、ここまでネタを詰め込んだ1篇は、ちょっと他に思いつかない。それだけにネタが通じなかった、かすりもしなかったと知ったときの詩人の絶望は、察するに余りある。

本作を元にキーツ『聖アグネス祭前夜』、ロバート・ブローニング『天翔る公妃』、レ・ファニュ『カーミラ』へ至る一方、本作を朗読したバイロンの前に詩人シェリーが卒倒したのを切欠に、ポリドリ『吸血鬼』、メアリ・ゴドウィン(後のメアリ・シェリー)『フランケンシュタインの怪物』が生まれたのだから、本作こそ吸血鬼譚の嚆矢とされる。『吸血鬼』は「バイロン作」と銘打って出版され、ゲーテすら「バイロンの最高傑作」と評し、マルシュナーが同名のオペラを作曲し、その演奏を指揮したワーグナーのオペラ『さまよえるオランダ人』作曲に至る。『さまよえるオランダ人』が少なからず吸血鬼の要素を備えている理由は、その経緯にあったらしい。しかし勝手に名前を使われ、別作品の剽窃まで受けたバイロンは激怒したというし、罪を担う存在を描こうとしたコールリッジは、吸血鬼などという化け物に興味は無かったようだ。

ここまで作者の意に反した大ヒットは、シェイクスピア『ヴェニスの商人』以来で、もはや未完であろうと、稀に見る傑作間違いなし。作者がなんと言おうと、棚に上げて飾って置くべし。

さて、読者には如何であろう。ご意見お寄せあれ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ