魔術試験 or 死してなお残る魂
『...何を言っているのか分からないのだが』
納得できない様な二人に、俺は多少肉体を変化させることにした。
「...!?それは我が偉大なる父祖、イヴェンシア様の御姿!何故貴様が―――」
そこで言葉を途切れさせるヴァルダ王子。
更に傲慢そうな感じがない返答までいただけた。
「いえ、貴方様こそイヴェンシア様なのですね。
我が父祖の誇りを損なってしまい、申し訳ございませんでした!」
途中から真面目さが入ったのが、王子の素直さを表している、と思った。
―――
「さて、と。
今回の魔術試験官は俺、グレンだ。宜しく―――って!?なんでお前が...。」
魔術試験が始まる前、俺は何とか肉体を戻せないか模索していた。
それが終わらぬままやってきたのは、ヴァルよりはまともなものの、なかなかに適当な性格をしている、聖霊王と黒龍王の加護を持ち、ヴァルドア大陸にて広く信仰されている聖龍教の神、《聖龍王》グレン・ホリア=ヴァルカリアだった。
「い、いや、姿が戻らなくて...。」
「...虚龍王の力が有んだろ。
それで時間を戻せばいいんじゃねえのか?」
あきれたようなグレンの冷えた目と新たに入ってきた少女の目線に晒されながら俺は自分の肉体すらも巻き戻せることを教えてくれたグレンに感謝しながら肉体を戻し、試験に臨むことにしたのだった。
―――
「...下らねえ」
それが、俺の感想だった。
この第23魔術区域すらも通常の魔術区域と同じ様な扱いをされており、昔のような威力・詠唱スピード・詠唱内容は一切なかった。
しかも無詠唱が基本だった戦場に行けば、この様な者たちは死ぬこと間違いなし。
武器を担いで特攻した方がまだ有意義な死というものだ。
「さて、ゼロ君?なるべく控えめに頼めるか」
弱すぎてもうぐったりしているらしいグレンだが、ようやく復活しそうなのだ、なるべくやさしめなものにしておこう。
「がんばれー、イアー!」
そのつもりだったのだが、その声に俺が放とうとした炎の弾は異常に大きい魔力密度になってしまい、貫通させるつもりもなかったのに第23魔術区域を貫通し、炎を上げた―――ところで何とかグレンがその炎を消滅してくれ、何とか助かった。
それを見ていた、俺を『イア』と呼んだ女は、口を大きく開けていた。
―――
「...すごいなあ、威亜...。」
私は、その炎の弾に驚きを隠せなかった。
私自体は、もう死んでいる。
でも、(もう終わりなのかあ...。)と思ったときに、男の人が出てきて、私はこの世界に生きていた。
きっと、威亜は私の事を思い出さない方が幸せだと思っているけど、ちょっとだけなら、見てもいいかなって思えた。
そこで、私がなんだかこの世界にいちゃいけない気がして、監視員の人に「私、やめます」と自己申告することにした。
―――
「私、試験止めます」
その声に、俺の作ってしまった大穴をグレンが補修しているのを見ていた皆が止まった。
「私、あんな凄いの見て自信なくなっちゃいました」
そういうその少女は、どこかで見た事があるような...そんな白銀の髪をしていた。
その見た目に何かを思い出しかけた。
が、思い出す前に「お、俺もやめる!こんなんじゃ無理だ!」という声が聞こえ、それに続くようにリタイアする人が多くなっていった。
そこに残っていたのは、俺だけだった。
―――
「...鈴くん、それでよかったのかね?」
『ええ、まあ...。ホントはこうしてほしくなかったんですけどね』
「それは威亜にも言われたよ。だが、仕方ないだろう?私は死ぬのをおとなしく見守るような男ではないのだよ。佑子も、それは分かるだろう?」
『まあ、私がここにいる理由はそれだものね』
「そういう事だ。ただし、君の事はなるべく秘密にしておくよ。
...そろそろ、木口君の話にも了承すると言っておくか...。」
その場所で、私はいた。
存在しない、Fake ScarecrowのⅭⅠ層。
そこで、私たち―――常にいる佑子さんと、斉太さんはいた。
此処から下に降りて、またみんなと遊ぶこともできるけど、こんなことを知られちゃったら威亜に私が言った事を自分で裏切ってしまう事になるから。
そう思って、私―――《Bell》はバレない様に攻略組に佑子さんと共に混じることにするのだった。