飛ぶ時代
更に二年が経った。
イアは全く変わらなかった。
元々あった時もこんな感じだったものの、或る意味凄いとも思えた。
魔術の重要性はさらに増し、機甲師団がオワコン化してきているのが現状だ。
何処かで戦争が起きたという話も聞いている。
やはり魔術と技術の間の軋轢によって戦争が発生したようだ。
「全く、機械で魔術に勝てるわけないのにねえ」
笑いながらそう言ったのはヴァルだった。
元々あった技術に後から来た技術は敵うはずがないという事なのだろうか。
それを聞くと、
「...その魔術の許を作り出したのが君なのが笑えるよね」
と笑いながら―――しかし心は嗤ってなさそうな感じでそう答えてくれた。
相変わらず、皮肉な奴だ。
―――
「さて、そろそろ僕も本気だそっかな――!」
「何がだよ」
11歳の誕生日の日、イアが言ったその言葉に、俺は問い返していた。
その答えが思った通りだったのか、軽く笑いながら答えてくれた。
「いやさ、ゼロ君ってイヴェンシアの事は知ってるんでしょ?なら…」
「いや、本人なんだが」
「ヴァルカリア高等...えっ!?それってどういうこと!?」
なぜそんなに驚くのかは分からないが、俺は続けることにした。
「...このことはシグレに言うなよ」
「う、うん」
俺の話に同意してくれたようだったので、すっかり弓としての記憶がないらしいイアに其のことを言うことにした。
「俺って、一回ここをいなくなってまた戻ってきたんだよ」
―――
「...何言ってるのかわかんないんだけど?一回死ぬときに何か言ってた気がするけど...。」
「その『何か』から戻ってきたんだよ!」
まだ理解しがたいようなイアに俺はそういう。
何か―――転生と言うやつは、どうやら俺が死んだ時間に別の人物として新たに生まれたらしかった。
何故かDoomsday Knightsも一緒に時間を超えてきたわけだが、そこらへんは俺にも理解できていない。
そのような話をしていると、やりたいことが出来なくなるわけで。
「二人とも、何話してるの?」と、シグレのそんな声が聞こえた。
―――
「V53地区、ゼロ=ゲイルだ」
「ゼロさんね。...おお、見つかった。あんたの受験場所は第23魔術区域だよ」
「...分かった」
「では、貴方に神龍の威光のあらんことを」
本人に言ってはならなそうなその応援を聞いて苦笑しつつ、俺は第23魔術区域に向かう。
第23魔術区域とは、魔力量が当時の俺の半分を上回る魔力の場合に魔術試験を行う場所だ。
それを受けに来ているのが当時の俺よりも多い未来の俺だということを知れば、もっと魔術中和壁を強化していそうなものだが―――。
そう考えながらヴァルカリア“国際”高等魔術学院の最深部にあるその魔術試験用区域の扉を開くと、先客がいた。
「...下民が、我と同列に並ぶとは」
「まあまあ、そう仰られないで下さいませ、殿下。優秀な学業の花形ともいえるこの学院は全ての民に平等に入学を許可していらっしゃるのですから」
「そうであるな。おい貴様、名を何という」
何処かの国の王子なのだろう、その偉そうな口を叩く男は俺に興味を持ったようだった。
普通に今の名を応えても良かったのだが、それでは面白くないと思った俺はあえて偉そうな態度をとることにした。
「おいおい、今どきの此処はこんな態度の奴も入れる事にしたのかよ」
「キサマァァ...。
どうやら、このヴァルダ=ヴァルカリアを愚弄するというのか!」
案の定乗ってきたその王子さまは自らの名を先に語ってくれた。
が―――
「...お前のような奴がヴァルカリア家の王子だと?笑わせんじゃねえよ」
―――この男が、俺の子孫だということが信じられない。
その俺の反応に勢いづいたのか、ヴァルダとかいう不遜な子孫は続ける。
「いいや、確かに我はヴァルカリア王国次代皇帝、ヴァルダ=ヴァルカリアだとも。
偉大なる父祖である神龍皇、イヴァリア=ヴァルカリアの直系の子孫だ!
理解したなら平伏せよ!そしべっ―――」
「...名前を間違うぐらいなら言うなよ」
その途中、確かに神龍皇と言う名は出たが、イヴァリア、とはだれの名だ?
「イヴェンシア・ディヴァイニア=ヴァルカリア。
その名を忘れたのか?」
そういうと、彼等は目を見開く。
「その名は我がヴァルカリア王族しか知らぬ筈...なぜその名を知っている!?」
...どうやら、俺の名前は封印されていたらしい。
それが可哀想になり、その二人に伝えた事と共に、ヴァルダとか言った現王子の傷を治すことにした。
「...まあ、俺がイヴェンシア当人だからなあ...。」