シグレの後始末 or ヴァルカリア
「いてててて...。ったく、なんで俺がこんな羽目に...。」
「お前の方が力があるんだ、俺が木を加工してやってるんだから良いだろう?」
「そうは言ってもなあ...。」
この世界での肉体の年齢が5歳ほどになった。
今日は、俺達が木を切っていた。
季節外れと言うほどではないが、少し早めの寒波がヴァルカリア王国にもやってきた。
本来、この寒波と言うものは比較的温暖なこの地においては1年の内初めから11の週までと、53の週から終わりまでと言う、日に表すと約120日の長めの期間に来る。56の週になると冬と呼ばれるようになるのだが、今年は49の週にその寒波の上位、雪波が来るとヴァルが予想していた。
そのためにいま二人出来ていたわけなのだが―――。
「大体、この天気がおかしいんだよ!なんだよ、この雪は!俺達が出た時に降り始めやがって!」
「それなんだよなあ...。」
俺達が家を出た瞬間に寒さが強くなり、雪まで降ってきていた。
そんなにすぐ天気が変わる者かと思ったのだが、そうなのかもしれない。
―――
「...これで戻るって、なあ...。」
―――俺達が家の扉を触った瞬間、雪はやんだ。
萎える、というものだ。
―――
「さ、寝るか...。」
そう呟きながら寝ようとした俺の許に、ガリガリと壁をひっかく音がした。
そこを見ると、特に家に傷がついた様子はないが、黒い影が見えた。
「...鷹、か?」
その陰に、俺はそう呟いた。
―――
「...君は、この近くに<龍の迷宮>が形成されたことを知っているのかな?」
何故か連行された俺は、その男にそう尋ねられていた。
...いや、むしろ尋問と言うべきか。
実際、俺の横にはいつでも俺を殺せるようにか銃を構えている兵士がいて、すぐにでも死ねそうだ。
...まあ、実際は魔術結界を貫通しないのだが。
「...いや、知らないが」
「そうか。では、それがどこに行ったかは?」
「だから、知らねえよ」
「...そうか。いいぞ」
何がいいのか、と聞こうとしたところで結界に攻撃が入った。
どうやら、俺が嘘を言っていたのに気づかれたらしい。
「な!?何故結界術を持っている!?魔術結界でしか防げぬはずなのに...‼」
この男は、魔術結界の存在を知っているらしい。
そのために、俺はコイツに一部の真実を伝えることにした。
「まあ、俺が作り出して消したものだしな。これでいいだろ?じゃあ、サヨナラだ」
―――
「お前、やったな?」
「何がだ?」
「なにがって、魔力の放出だよ。ここだけでも魔力の濃度が昔の水準まで来てるんだ、少な目なのにな。つまり、お前がやってしまったということだよな?」
「...ああ」
そいつらから逃げる様に、しかし堂々と去り、家の前に着くとヴァルに詰問された。
どうやら、俺の魔力放出がばれてしまったらしい。
余計に結界を強化していたせいで少しの衝撃でも大量に放出されてしまったようだ。
「これでお前と同年齢位の奴らから魔術を使うやつが復活して、昔のように魔術至上になるんだよ。
...ヴァルカリア高等魔術学院も復活するんだな」
「...ああ!」
さっきと同じ反応だが、言葉に込めた感情は納得ではなく喜びだった。
ヴァルカリア高等魔術学院とは少し前にこちらの世界に戻ってきた聖龍王グレン・ホリア=ヴァルカリアが娘であるアリシャ=ヴァルカリアなどのさらなる教育のために王家から魔肉の輸出で得た金で建てた、魔術以外も手広く扱う場所だ。
嘗てから要塞として機能していたが、俺が<魔龍狂踊>の後にヴァルカリア王国の皇都・イヴェルカとして新しく作り直したおかげで異空間に―――それも、その空間に入る為には特殊許可が必要だし、自由に出ることもできる。
と、そんな場所になったのだ。
そんな場が復活すると思うと、俺は喜びに身を支配されそうだった。