消え去ったイア or 戦艦クリンゲ
「...あれ?」
シグレは家に久々に帰ってきた。
が、何か足りない様な気がする。
物はあるし、場所も正しい。
なのに何故―――。
シグレがそこまで考えたところで、“人”の確認を忘れていたことを思い出し、何が足りないのかは彼女にとって大事なことだったと思い知らされた。
「...イア?」
―――
「ゼロ!イアが居なくなってる!」
「え?イアがいない?そこら辺を歩いてなかったのか?」
「いや、それが...。」
シグレが話してくれた内容は、家の一部が何かに吸い込まれたかのような跡が残っていたことと、その手に持っていたペットボトルが表していた。
つまり―――。
「まさか...アイツ、戻ったんじゃ―――」
それが、しばらく後に知ることになるとは、まだこの段階では気付いていなかった。
―――
「何言ってるんだ?さっさと戦艦作りの続きに戻らないと、留年することになるぞ!」
だが、その一言でイアに対する考えは消し去られることになった。
イア=弓は大丈夫なのか、しっかりと生きて戻れたのか。
其のことは、しばらく後になるまで知る由もなかった。
今は、目の前にある戦艦づくりということが最重要事項だったから―――。
「...それにしても、基部がこれでいいのかよ?」
「...いや、これじゃあまだ基部どころか配線、それに装甲なんて夢のまた夢だ」
俺達はその虹色に輝くしょぼい骨組みを見ていた。
何の知恵もない俺が一から考え出して作ろうとしている、クリンゲ級戦艦一番艦クリンゲだ。
一応大き目な戦艦にしようとは思っているが、自分で用意している魔晶鋼では司令室の骨組みすら満足に作ることのできないということだ。
その為、これから魔晶鋼を大量生産しなければならないのだが―――。
「こんな大規模な戦艦作りなんて、俺知らねえし、それにお前大気中の魔力は大丈夫なのか?」
「それなんだよなあ...。」
これに付きまとう難点が、魔力だった。
魔晶鋼を作る際に、魔力を約0.01%大気中に放出することになる。
少しなら一切問題ないのだが、何せ生産量が生産量だ。
世界の大気に俺の全魔力の1万分の1の魔力量(大体魔力量:12億)が充満することになると思うと、恐ろしい。
「...まあ、何とかするさ」
「その言葉信じるからな」
「ああ。俺の言葉なんだ、少しは信じてくれてもいいだろ?」
「どうだか」「うわ、ひでえな」
そんな話をしながらも、すでにこれだけでこの世界の駆逐艦の全戦力に引けも劣らない能力を持った司令室が出来上がるのを待ち遠しく思っていた。
―――
「...さて、この一年間、色々あったな。
俺としては、ゼロのバカに付き合わされている思い出ぐらいしかないが」
皆は笑っていたが、俺は嗤う気にはなれなかった。
実際、その馬鹿、こと俺もグレンに付き合ってもらって戦艦を作っている印象しかないのだから。
「トールとはここでお別れになる。
シグレ、ヴァルともだ。
しかし、きっとまた会えるさ。だから、またな」
そこで声を落としたグレンは、その顔に笑みを浮かべて嘲笑するように言い放った。
「...留年した諸君!君たちとはまた来年会うことになるから、宜しくな!」
本当にこの6000年で変わったんだなあ、と思いつつも俺はヴァルカリア国際高等魔術学院校内地下に位置する船廠にて戦艦クリンゲの司令室を完成させていた。
星暦6034年、24の週最終日の事である。
―――
「...まさか、こんなに早く司令室すら完成させるなんてなあ」
「まだまだだよ、俺専用艦もそのうち創るからな」
25の週の始まり、つまり入学式の日に、俺達は話をしていた。
今年は二人ほどこのクラスに入ってきており、どちらとも明るそうだ。
...因みに、今年も旅行に行くことになっており、割と旅行が邪魔なのだが―――。
「勿論、今年も行くよな、ゼロ?」
とグレンに威圧されてい、更にこのドックの使用許可はグレンの名のもとに発令されている物であるから逆らうことはできず、仕方なく今年も旅行しながら戦艦クリンゲの内装、及び外装の作成を続けることにするのだった。




