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終わるための物語

作者: 夢の中

本当はもう死んでいるんじゃないのか。

時々そう思う。

今いるところは死後の世界なんじゃないか。

でも死後の世界も今と区別がつかないからわからない。

実は延々と死に続けているけれど誰も気が付かないんじゃないか。


夢の中。

夜の夢こそ誠なり。

そんなことを言った有名な作家がいたけれど、それはどうなのだろう。

僕の夢は陳腐だ。

ひどく陳腐で誰かに話す内容さえない。

あまり覚えていないけれど、たぶん毎日見ている。

同じような夢。

同じような場所。

同じような人々。

現実との違いはやっぱりわからない。

夢と現実と死後の世界。

やっぱり何もかもが曖昧だ。


そして僕はなかなか寝付けない。

すぐに目が覚めてしまうから眠りも浅い。


医者は僕に不眠症と診断名をつけた。

同時に不安神経症という診断名もつけた。

僕は今日もなかなか眠れない。


頭の中を同じような考えがぐるぐると回る。

どうでもいいこと。

考えても仕方がないこと。

考えなきゃいけないこと。

やっぱり僕はもう死んでいるんじゃないのか。

だって僕はどう考えても薄っぺらだ。

何にもない。


森の中にいた。

最近僕はよく森の中にくる。

逃げているんだ。

何かから。

何かって?

すべてから。

現実から。

あらゆるものから。


腰に剣が吊り下げられていた。

そうだ。僕は剣士だ。剣士見習いだ。

ちっともうまくならない役立たずだ。

だからひそかに練習するつもりで森に来たんだ。

・・・そうだったかな?

まあいいや。

あれ?先約がいる。

君は誰?


君。

こんな僕にとびきりの笑顔を向けてくれる君。

笑うと目がなくなってしまう。

でもひどく安心できる。

そうだ。僕は君に会いにここに来たんだった。

あれ?そうだっけ?

君は言う。今日は来ないかと思った。

そんなわけない。

そんなわけないよ。

僕は君のセリフに喜びを覚える。

来ないかと思ったってことは会いたかったってこと?


あれ。君は剣を持っている。

そうか。君も剣士だった。それもとびきりの。

いや凄腕の剣士だ。

僕は君に剣を教えてもらっていたんだ。

え?そうだったかな?

まあいいや。

僕は君といると幸せなんだ。

なんだか生きているって気がするんだ。

君といるときだけ僕は生きている。


僕はなかなかうまくならない。

君は言う。

時が来れば自然にできるようになるわ。

それが運命よ。


よくわからないけれど君を守れるくらいには強くなりたい。

とても強い君をなぜ守りたいと思うのかわからないけれど。


僕は呼び出された。

もうすぐ戦争がはじまると言う。

僕は君がいる部隊を希望した。

でもそれは却下された。

僕は知らなかった。

却下した隊長は君の夫だった。

僕は何を喜んでいたんだろう。

彼は僕を真逆の戦地に送り込んだ。

そこは激戦地だった。

僕はそこで死ぬのかもしれない。


目が覚めた。

夢を見ていたのか。

いや今だって夢の中かもしれない。

あの人を知っている気がする。

顔がよく思い出せない。

でも会ったことがあるような気がする。

もうずいぶん前の事だ。

たぶん。

違ったかな。

まあいいや。


戦場にいた。

足元がぬかるんでいる。

あちこちに死骸が転がっている。

血だらけのはずなのにあたり一面が淡い白黒に見える。

ああこれは夢の中かもしれない。

カラーじゃないんだ。


老人が言った。

予言じゃよ。予言。

救い主は空から現れるんじゃ。

背中に羽をはやしてな。飛んでくるんじゃよ。

大事なものを守るためにな。

長い時間のはてに現れるんじゃよ。救い主がな。


トンネルの中にいる。

長い。長いトンネルだ。

出口はあるのか。

遠くに光が見えている。

なんで僕は歩いているんだろう。

誰かに会うんだったかな。

あああの人かな。

でもあの人は人妻じゃないか。

僕を待ってなんかいるわけがない。


トンネルを抜けるとそこは海だった。

海。

どこにいけばいい。

どこにいくんだ。

何をするんだ。


僕は本当は死んでいるんじゃないのか。

目的があるわけでもない。

誰かに会いたいわけでもない。


この海を越えたら。

会えるかな。

笑ってくれるかな。

そうだ。もうなんだっていい。

ただ会えればいいや。

あの笑顔だけもう一度見れればいいや。


心が軽くなった。

体も軽くなって。

僕は空を飛んでいた。


海を越えて。

別の戦いの中に。

僕は剣をふるった。

風が巻き起こった。

いいな。これはいい。

僕はずいぶんと強いじゃないか。

ああそうか。

僕はただ会いたいと思っているんだ。

ほかの事は何にも考えていないんだ。


あの人がいた。

あの人は言った。

ほら、ちゃんとできるじゃない。

僕はあの人の手を取った。

飛んでいこう。

どこまでもどこまでも。


目が覚めた。

いい夢だった気がする。

あのままでよかったのに。

あのままがよかったのに。

僕は泣いていた。

夢の中でもなんでもいい。

僕は本当の僕でいたい。











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