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放課後の図書館であなたと

作者: 夢留 景


それはある日の事だった。


「聞いてくれ、どうやら私は軟派な人間だと噂が出回っているようなんだが、なぜだと思う?」


レアナ・フォン・カルディスは今日も平和なエヴァーガーデン学園の図書館で目の前に座る友人の発言に息が止まりそうになっていた。

今更⁉︎と思いながらも友人に対して暴言を吐かなかった自分を心のなかで褒め称えた。

自分の目の前にいるのは友人とはいえ、この国の第一王子であるレオナール・フォルト・ガーディアルなのである。


「…噂については知っていますが、どこでお聞きになったのですか?」


知っていたのかと、眉を下げながら彼が語るには最近知り合った伯爵子息から聞いたとの事だった。


「今度学園の夜会があるだろう?パートナーの話になったのだが、彼に殿下はどの令嬢をエスコートするのかといった話になってな。なぜかと聞くと。」


「噂の話になったのですね。」


「そうなんだ。身に覚えが全くなくて何故なのかと思ってな」


彼の取り巻きはなにをしているのだろうか、その話は耳に入れぬよう気をつけていたはずなのではないのか。そしてなぜ私に相談してきているのか。

1人思い悩むレアナをよそに次の発言で理由が明かされる。


「皆がこう言った事はレアナ嬢が詳しいと言うのでな。」


逃げたな。

彼の横にいつもいる、胡散臭い笑顔を思い浮かべながら小さくため息をついた。


「‥殿下はよく、御令嬢方にストールを、ご自分で、お渡しになって、らっしゃいますよね。」


「うむ。感謝の印は自分で行動してからこそと、母上にもアニーにも言われているからな。」


「はぁ。いいですか?貴方も一応麗しの王子様なんです。そんな方から直に贈り物をされれば私以外の御令嬢でしたら勘違いするものなんです。」


ため息と共に原因について話して相手を睨めば、なぜか天然王子は頬をそめながらもじもじしていた。


「君に麗しの王子と言われるとなんだか恥ずかしいな。」


そこ⁉︎


「っ。殿下私はそんな話しはしておりません。」


「そうだった!すまない。」


居住まいを正すレオナールをジト目でみながら、レアナは何度目かのため息をついた。

光によって色を変える金茶の髪に、深緑の瞳整った鼻筋にキリリとした眉、切長の目。黙っていれば芸術家が丹精込めた像のような美男子なのがこのレオナールと言う男なのだ。

そんな人に手ずから贈り物をもらえば大抵の令嬢は浮足だつだろう。

仕事はできるが、中身は頭に花が咲いたような性格だとしてもだ。


「なるほど。そんな事になっていたのだな。」


うんうんと人ごとのように頷く目の前の男に頭痛がする。


「で、レアナどうすればいいだろうか?」


可愛らしく首を傾げてもまったく可愛くない。

考えたら分かるだろうに聞いてくるのがこの男なのだ。


「私が聞いた話ですと、殿下からストールをもらえた数だけ本命度が高いのだとか。」


どこかの公爵令嬢が嬉しそうに話していたのを思い出しながら喋ると、嫌な事も思い出してしまう。

お礼すらもらえない方もいらっしゃるみたいですけど。とキンキンと高い声が聞こえてくるようだ。

イラッとする。


「ストールをプレゼントせずに、私に送るように花とメッセージカードにされてはどうです?」


憮然とした顔で言えば、目の前の方は困ったようにいう。


「花もメッセージカードも相手をよく知らなければ送れないじゃないか。

ストールならば誰に送っても大丈夫だろう?」


「ならば直接渡すのをおやめになってはどうですか?」


「どこの誰かわからないから直接渡す事になってしまうのだが…」


「ご令嬢の顔と名前を一致させて、家に送るのはどうですか?」


「興味がないからなかなか覚えることができないんだ。」


ああ言えばこういう。

ため息をつきすぎて、私はため息製造機械になりそう。


「はぁ、そうですか…。私ではお手伝いできそうにありませんので、貴方の側近に相談してください。」


「うーん…。そうしてみる。ありがとう、レアナ嬢」


なんだか、しょぼんとしながら殿下にお礼を言われる。

最初からそうしていただくといつも助かるのだけど。


「そうだ、城下で美味しいお菓子を見つけたんだ。また君に送ってもいいだろうか?」


「まあ!それは大歓迎ですわ!どんなものか楽しみにしております!」


レオナールが選ぶお菓子は美味しくてセンスのあるものばかりなので、素直に嬉しい。

こういうご褒美があるので、殿下の相談と友人はやめられない。


「ふぅ……また伝わらなかった。」


殿下が何か言ったようだが、お菓子にワクワクしていた私の耳にはよく聞こえなかった。


「?」

「何かおっしゃいましたか?」


「いや、そろそろいくよ。また明日。」


「ええ、また」


にっこり笑い手を振ると、殿下も手を振って図書館を出ていった。

本当にあの方は美しい。所作もなにもかも。何気ない言葉でいつも私の感情を攫っていってしまう。

ほぅと息をつくと、まったく進んでいなかった本を改めて手にとった。





××××××


「ちゃんと言えたか?」


「ダメだったよ。今度の学園の夜会はレアナ嬢をちゃんと誘う事を目標にする。」


「お前もお前だけど、彼女も相当だよな…」

「まぁ頑張れよ。」

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