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掌編小説  作者: kj
7/12

死後の世界

攻略、帽子、幽霊


俺は死んだ。そう死んだんだ。

そう思えば思うほどなんだか返って実感がわかなかった。

だって意識はここにあるし、意識ができる自分がいる。

 「我思う、故に我あり」ってだれのことばだっけ? 自分は何なのかと自問自答できるんだから自分は存在してるでしょ、みたいなそんな意味だったと思う。

そんな事を考えられるんだからやっぱり死んだとは思えなかった。

 でも僕は確かに浮いていた。自分の手のひらは透き通り身体はふわふわと浮いている。

 いや、見る限り足はないからふわふわなんて言ってしまったが、実際は浮遊感なんて一切感じてなかった。これが幽体離脱なのだろうか。

 それもそうか、死んでるんだから浮く感覚なんて感じられない。

 僕は、ハハンと乾いた笑いを浮かべた。

 この状態で笑っても滑稽なだけなんだろうけど。

 ところでここはどこなんだろう。

 周囲を見渡すとそこは4畳半の和室だった。目の前には仏壇がある。

 ああここが僕の供養されている場所なんだと理解した。

 だが死んだ理由も死んだ場所も全くわからない。

 とりあえず場所を移そうと部屋を動く。身体は進みたい方向にスルスルと滑っていく。おもしろい。これなら幽霊になっても悪くないかもしれない。戸を見つけ引き戸に手を掛けた。いや、かけようとした。

 手は虚空を掻きバランスを崩した俺はズルっと滑るように戸の中に吸い込まれた。

「うおっ!」

 思わず声が漏れる。身体は戸を透過し、そのまま隣の部屋に突き抜けた。

 そうか、身体が透明なのを忘れていた。漫画だったらすごいベタなやつをやってしまった。体が急に透明になったら誰でもそうなるだろう。そう心の中で言い訳をする。

 それにしても気持ち悪い感覚だ。壁をすり抜けるというのは普通に怖いことを知った。

 隣の部屋は何の変哲もないリビングらしく、人は誰もいないようだった。

 部屋をあちこち動き回っていると突然声が聞こえてきた。

「……こっち……」

 遠くから声が聞こえる。

「戻っ……き…くだ……い」

 段々とはっきりと聞こえてくる。お迎えだろうか。この先待ち構えるのは天国か地獄か。運命は神のみぞ知る。死んでもこんなに考えなければいけないのだとしたら、ほんとに死んでも死にきれないな。

そう思った矢先、身体が激しく揺れた。なんだ? 成仏ってこんなに激しいのか? そんなアホなことを考えていると揺れは収まった。

揺れが収まると視界が突然暗転した。


「いやあ、随分入り込んでましたねえ」

 俺はVRゴーグルを外し、一息ついた。最近のVRは本当にすごい。

 場所はとある科学館。そこでバーチャルリアリティの体験をしていたのだ。

「どうでしたか、なんかニヤニヤなされてたようですけど」

「すごく面白かったです! でも臨死体験というよりかふつーにゲームでしたね」

「ははは、まあそなっちゃいますよね。でもVRでしか味わえない体験だったでしょう?」

「はい、身体が物を透けるのとかほんとリアルでした!」

「ちなみにあの扉でスカってなったやつ見てましたよ」

 くそっ、やっぱりみられていたか。

「あれ、絶対やっちゃいますよ」

「ええ、わたしもやってます」

 職員さんは、ハハハと笑った。

 いやあ、今日はこの体験をできただけでも来たかいがあった。

礼を職員さんに告げVRコーナーを後にしたのだった。

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