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掌編小説  作者: kj
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自傷の代償

 俺は静かに洗面台の前に立った。家の人に気付かれないようにこっそりと。気づかれると非常に厄介だからだ。ここなら密室で誰にも迷惑がかからない。

 右手には鋭く尖ったエモノを握りしめている。

 これから一思いにやらなくてはならない。手は緊張で震えていた。

 ゆっくりと右手をこめかみの近くに持ち上げる。 

 右手に持ったソレを肉に突き刺すのだ。

 大学に入学した時から、やろうとは思っていたのだ。ソレがずるずると今の今まで伸ばしてしまっていた。怖いからだ。怖いけどやらなくちゃ、やらないと、と思っていた。

 簡単だろう? 簡単なはずだ。頭に向かってぶすりと刺すだけ。なのに無意味な思考を止めることが出来なかった。

 これからやってくるだろう、痛みと喜びと、ほんの少しの後悔が芽生えるだろうことはわかっている。

 自分を自分で傷つけるという行為はどうしてこんなにも苦しいのだ。


 ハアハア、俺は荒い息をついた。結局俺にやりきることは出来なかった。

 ――ピアスの穴あけを。

 そう、俺はピアスの穴を専用のハリ(ピアッサーというらしい)で開けようとしていたのだ。こっそりしてたのは色気づいたと家族に茶化されるのが嫌だったから。密室でやったのは声が漏れたとしても、おのれの所業がバレないようにするためだ。

 は? 誰が自殺なんてするか! そんな痛いことこの俺にできるわけ無いだろう!

ただでさえピアスの穴あけだけでこれだけビビっているのだ。世の女子高生はこんな怖いことを平然とやっているのか? そう思うと自分の小心さにむなしくなる。

 いいんだよ、男は体の痛みには敏感なんだよ! 心の痛みには鈍感だがな! 

また今度にしよう。そう思い洗面所の戸を開けようとした。その時、バーンと勢いよくその戸がひらかれた。

「突撃隣の晩ごはーん!」

 けたたましい音声とともに、我が妹がやってきた。スプーンを片手に持って実に間抜けな妹である。おっと、ばれる。咄嗟にピアッサーを身体の後ろに隠す。

「おにいちゃん、ご飯だよ―」

「お、おう」

「今何隠したの?」

 ヤバイ、みられたようだ。

「いやべつに」

「なんかエロいやつ?」

「こんな所に持ってくるか!」

「じゃあなに? 言わないとお母さんに言っちゃうよ」

ニヤニヤと俺を追い詰めてくる。しまった。この際、エロいやつで良かったかもしれない。しょうがない。俺はあっさりと観念して右手に持ったものを見せた。

「ピアスの穴あけだよ」

「ふーん。で、出来たの?」

いや、と否定するとニヤ―っと笑う。

「怖くてできなかったんでしょ?」

 くっ、反論できないのが悔しい。

「じゃあさ、あたしがやったげるよ」

 人にやってもらったほうが気紛れるじゃん? と至極まっとうな意見を提案された。

「それじゃあ、ちくっとしますよお、そういや今日のご飯何だと思う?」

「我が家でスプーン使う食べ物なんてカレーイッタ!くぅ!」

不意の一撃。身体に電流が走ったような痛みが突き抜ける。

「はい反対」

 バッチっと鋭い痛みが続け様に入った。目の前が一瞬真っ白になる。

「はいおしまいー」 

 ピアッサーを俺に渡し、ニシシシ、と笑いながら逃げるように洗面所を出ていった。

 何だって言うんだ?

 それにしても痛いのって一瞬だけなんだな、血とかどうなてるの? 不覚にもその時の俺は相当間抜けだった。鏡の前で自分の耳たぶをみてみた俺は驚愕する。

 そこにできたはずの穴は無かった。

 俺の手の中にはご丁寧に電撃が走るおもちゃが握らされていた。

 遠くから妹の声がする。

「おかあさーん、お兄が色気づいてるー!」

 くそっ! やられた!

 なあ言っただろう? 家族に知られると厄介だってな。

洗面台、スプーン、ピアス の三題噺です。

一人称での心のセリフを多めにして書いてみました。最近流行りの小説は心のセリフが多めなのでどういうふうな書き方がよく見えるか知りたいですね。

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