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掌編小説  作者: kj
10/12

ハロウィンにて、死者は舞い戻る

仮装、落ち葉、墓場


 少し冷たい風が、落ち葉を舞い上げる。

 真っ赤に燃えた、秋の山々が遠くに見えていた。

 俺はそんな風景を尻目に近くの公園にきていた。正確にはその隣りにある墓地。

 こじんまりとした小さな墓地だ。

ばあちゃんっ子っだった俺は毎月のようにお墓の前で手を合わせている。

その日もいつものようにばあちゃんに会いに来ていた。

 俺の話し相手は決まっている。

 手を合わせて目をつぶり語りかける。

「ばあちゃん、俺進路決めたよ。ずっと迷ってたけどさ、○✕大学に決めた。しばらく勉強に専念しないと……。だからしばらく来れないかもしれない。……一段落したらまた来るよ。いい結果期待しててな」

 俺はゆっくりと目を開いた。

 その場を後にしようと立ち上がろうとしたその時、隣から声がかかった。

「すみません」

 女性だと思われる声の主を見ると、俺は思わず飛び退った。

 ゾンビの格好をした女が立っていた。

 髪はボサボサ、目の瞳孔は開き、顔にはべっとりと血糊が張り付いている。

「ああ、ごめんなさい! 驚かせました?」

 彼女は慌てて頭を振り、怖い顔で笑顔を作る。

「今日あれじゃないですか、ハロウィン! ちょっとみんなで仮装してみようってことになって!」

 言われてみると周りにはそれらしい格好をした人がたくさんいた。吸血鬼の格好をした人や、魔女のようなとんがりボウシをかぶった人、中には仮面舞踏会に出るようなマスクを付けた人などざっと十数人くらいだろうか。

 俺が目をつぶっていた間に来たのだろうが全然気配を感じなかった。

 それにしても墓地でハロウィンとはなかなかブラックユーモア溢れてるじゃないか。

 そう思ったが、公園にいる家族連れや楽しそうに話しているカップルはこっちの様子を気にする様子はない。こんな異様な光景なのに気にしているのは俺だけのようだった。 

「ああ、そうなんですか。ところで何の話でしたっけ?」 

「えっと後藤さんの親族の方ですよね? 私、佳代子さんと知り合いだったんです」

 佳代子とは俺のばあちゃんのことだ。こんな知り合いがいたんだな。

 ぱっと見の年齢が仮装のせいで全然わからないが、声音から推測するに俺と対して変わらない年齢にも見える。

「そうなんですか。それはそれは生前お世話になりました」

「ははっ、何だかケンジくんにそう言われると変な感じがしますね」

「あれ? 僕名前いいましたっけ?」

「え? ……ああ、お祖母様からお名前聞いていたんです」

「お祖母様、よく言ってましよ、ケンジくん本当にいい子だって」

「本当ですか、なんだか照れますね。人からそんな事言われると」

 俺がそう言うと、彼女はフフッと笑った。

「甘えん坊でわがままで泣き虫で、事あるごとにお祖母様のところに来てたって」

 俺の恥ずかしいことまで全部話している。

 なんてこった。

 ばあちゃんがこんなに口が軽かったなんて知りたくなかった。

「でも安心しました。話に聞いていたケンジくんはもう自分のことは自分でできる立派な子になったんだなって」

 少女は真っ直ぐに俺の目を見つめた。微笑みを湛える彼女の顔に、思わず顔を背ける。

 なぜか、ばあちゃんに直接言われているような気がしてしまった。

 ばあちゃんと遥かに年齢が離れた少女の言葉はなぜか心に刺さった。

「私が言うのもなんですけど、お墓、来てあげてくださいね。お祖母様も喜んでくださってると思いますから」

 そう言い残し、彼女はその場を去った。仮装した人々の中に紛れ込むと彼女は一瞬で見えなくなってしまった。


 家に帰ると、俺は無性にばあちゃんの顔をみたくなった。

「かあさん! ばあちゃんの写真ってある?」

「あるわよ、そういえば納戸から古い写真も見つけたのよね。アルバムに閉じてくれる?」

 母から古い写真を受け取るとそこには見覚えのある少女が映っていた。

「おばあちゃん学生の頃演劇部だったんですって。これ、この人。あんまりわからないわよねえ?」

 母はそう言ったが俺にははっきりとわかった。この頃のばあちゃんと俺は話したから。


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