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掌編小説  作者: kj
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砂漠男

砂漠、醜い、楽譜 の三題噺です。

少し笑えるようにと思って書きましたが、あんまり笑えません。すいません。

笑いについて勉強中です。

感想お願いします。

砂漠、醜い、楽譜

 

 広陵とした荒野が広がる砂漠地帯。

 そんな殺風景な景色が広がる中、煌々と明かりが灯る建物があった。

 長い一日が終わり、静かな夜が訪れようとしていたが、その建物だけは違うようだ。

 そこは場末の酒場。

 一日の仕事を終えた、鉱夫や商人が喉を潤しに集まっていた。

 店の中はたくさんの客が集まり、今がまさに稼ぎ時。

 おい酒はまだかあ! ハッハッハ! と陽気な声が聞こえてくる。

 店内も厨房も火がついたような忙しさだ。

 さて、この店にはステージがある。

 数人が乗れば埋まってしまう小さなステージだ。

 そこで音楽家たちが陽気に音楽を奏でていた。

 アップテンポで楽しくなるラテン調のメロディ。

「セニョール&セニョリータ! 今宵はようこそおいでくださいました!

 今日も一日お疲れ様! やなこと? 仕事? そんなの忘れて飲みましょう!

 飲んで歌って、食って寝て!  

 シニョールもシニョリーナも関係なく、踊って騒いで声出して!」

 調子の良い掛け声とともに音楽家のボーカルが歌い出す。

 彼の歌声は素晴らしかった。

 はつらつとした元気な声、よく通る高音にうっとりとするような低音。

 音楽家としては最高の声の持ち主だ。

 稼ぎは音楽で十分だしきっとモテモテだろう。

 が、1つの問題がそれを頑として拒んでいた。

――目は小さく、豚っ鼻。

おでこに三本シワが刻まれて、出っ歯のでばがめ、頭は中途半端に禿げ上がっている。

彼の問題は顔にあった。

一思いに言ってやろう。彼はブサイクだった。

しかし彼は気にしない。

ヤジが飛んでもどこ吹く風。そんなのは慣れっこだし彼は気にしていなかった。

客もそれを知っていて、いじってくる。

「いい声だ! それで頭に毛が乗ってたらなあ!お前モテモテだぜ!」

「よく言われるよ! 君のように髪が欲しーい!」

「いいぞ! もっと鳴け! メス豚が集まるぜ!」

「そうともモテモテさ! 豚さんにーはー!」

 そんな中、彼の歌に聞き耳を立てていた人がいた。

 若いにもかかわらず一人のようだ。

「あんたに熱い視線を送ってるお嬢さんがいるぜ! 声かけてやんな!」

「まかせて、人を笑わすのに私よりいい顔の奴がいるかい?

 いやいない! セニョリータ! 楽しく飲んでいないのかい?」

 彼の陽気な声と相反するブサイクな顔は大抵の人を笑顔にさせてくれる。

 しかし、彼女は違ったようだ。

「そ、そんなことありません! とても楽しんでますわ……」

 急に話しかけられて上ずった声を上げたが、

最後のほうは消え入りそうなささやくような声だった。

はにかみながらうつむいてしまったが、頬はほんのりとピンク色。

酔っているのか、怒っているのか、緊張しているのか顔色からはわからなかった。

グラスの中身はあんまり減ってはいない。

 微笑んでくれてはいるが、怖がらせてしまっただろうか。

「おーい! 怖がらすんじゃねえよ、おめえの顔にびっくりしてるだろう!」

 店内に大きな笑いが起きる。

「申し訳ない。お嬢さんお詫びにお飲み物を! 何かお好きなものは?」

「そしたら……あなたの歌をもっとお聞かせくださいませんか? あなたの歌に聞きほれていただけですから……」

 彼女はまたしても小さな声でもじもじといった。

「ムチャスグラーシアス! お嬢さん、歌ならいくらでも歌ってあげましょう! あなたのために!」

 すると彼女は顔を持ち上げぱあぁっと輝かせた。

 しかし、残念ながら目を合わせてくれない。

 顔はやっぱりお気に召さなかったようだ。

「おめえの声に惚れちまったんだな! 罪な男だ! この男前が!」

 皮肉交じりのヤジが飛んでくる。

「あなたにー! 捧げましょう、永遠の愛の歌を!」

 彼も娘もほかの客たちも、酒の陽気にあてられて気分は最高潮だった。


ある日の酒場、その夜はいつものように喧騒に包まれていた。

 しかしいつもと若干様子が違う。楽団のボーカルがいなかった。

「なんでえ、つまんねえな」

 彼のファンである常連客が悪態をつく。ブスでも陽気な彼は男どもの人気が高い。

「今日はいねえのか?」

楽団の一人に話しかけると苦笑とともに驚くべき返答が帰ってきた。

「彼はハネムーンだよ」

 その言葉を聞いて近くにいた客からどよめきが起こる。

「はあ!? 声はいいけど顔が残念なあいつが!?」

 まじか、そんな馬鹿な、先を越されただと……など声が上がった。

「あのお嬢さんが一人で来ていた日があったろう? あの娘っこがお相手だ」

「しかしなんでだろうな」

すると楽団の一人がニヤリと笑った。

「この話には仕掛けがあってな……。

「ホントに声で落としちまったんだあの男!

あの娘目が不自由でほとんど顔が見えていなかったらしい。

顔なんてはなっから眼中になかったわけだ」

ヒューっと歓声が上がった。

その日、酒場はその話で持ちきりだった。

後日、彼が「声で嫁を射止めた男」としていじられるようになったのは言うまでもなかった。


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