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仮面の下のヴィラン〜負けを知らない女は今日も微笑する〜  作者: ぶる子
一章 スクールカーストにご用心
8/8

7


「ごめん、ちょっと良いかな。」


ざわついていた教室が未麗の一言で一気に鎮まる。


「いろんな意見があると思うけど、まずは私の話を聞いてほしい。一方的に梓ちゃんの話を聞かされても不平等だと思う。だから私の意見も言わせてくれないかな。」


大半が、未麗が意見を発することに関しては同意、というようだった。


「はぁ!?何言ってんの。梓が泣いてるんだよ。謝りもしないわけ?」


そう言ったのは梓の取り巻きの一人である多賀惟子(たがゆいこ)だった。


「じゃあ謝る前に私の意見を言わせてくれる?平等である方がいいよね?」


これには相当な圧をかけた。その圧に怯んだのか、惟子も押し黙る。


「まず言わせてほしいのは、私は昨日、梓ちゃんとは会っていない。最寄りが一緒だったっていうのも、今聞かされて初めて知ったんだ。…ちなみに、梓ちゃんは昨日何時ごろに私と会ったの?」


急に問われた梓は困惑し、また質問の真意を汲み取ったようだった。


「なんでそんなことっ…言わないといけないわけ?…グスッ」


どうやら泣いて誤魔化す作戦らしい。


「梓ちゃんの情報の正当化を図るためだよ。そもそも出会ってないってのが私の主張ではあるんだけど、それを言ったところで信じないでしょ?だから証拠、アリバイがあったかを確認したいんだ。それとも何か、言えない理由があるの?そもそも出会ってないんだから、時刻なんて分からないもんね?」


「なっ…わ、分かるよ!だいたいあれは…十七時前後あたりだろ。」


つくづく頭が悪いのだな、この梓という人間は。この程度の挑発に簡単に乗るとは、幼稚園生同レベルも冗談抜きかもしれない。


「十七時前後…?その頃私は図書館で勉強していたはずだけど。」


「は、はぁ!?確証もないくせによくいうわね!!」


「確証?では今から図書館に向かって確認してもらいましょうか?」


「な、何を……」


図書館の件は実を言うと嘘だった。その時刻は大体家にいたとは思うが、それではアリバイが成り立たない。どうせ図書館に行って確認する事態にはならないだろうし、店などではレシートが無いことでで疑われてしまうかもしれないから、図書館ならその心配もないと思い咄嗟についた嘘だった。

案の定うまくいった。


「あと、財布の件、私は財布を奪うなんて幼稚な真似はしません、別に経済的にも困っていないし、する意味がないから。それと、その財布を私がいつ奪ったというんでしょうね。昨日の掃除は何班でしたっけ?」


ついに梓は声も出さず固まった。

この学校では掃除は班制で、出席番号ごとに班が振り分けられている。

私は続けた。


「昨日の掃除は確か…そうだ、夕美ちゃん辺りだったよね?」


今のは周りの野次馬への問いかけでもある。

夕美は急に名前を呼ばれ肩を震わせた。


仕方ない。ちょっとだけ参加してもらおう。


「昨日の掃除で、私の机の中に財布なんて入ってた?夕美ちゃん。」


夕美は、プルプルと懸命に首を横に振っていた。


「っ…!みんなこんな隠キャ女一人を信じるわけ?!」


はぁ、と未麗はため息をついて見せる。


「夕美ちゃん辺りだったとしたら…」


そう言って未麗は少し教室を見回す。


「あ、笹木さんもだよね?」


そう言って話しかけたのは、クラスの割と上位にいる男子、笹木桃矢(ささきとうや)である。案の定桃矢は、なかったと思うよ、と頷く。

梓は唇を噛んで桃矢を睨みつけていた。


「これでほとんど確定したよね。昨日まではなかった。掃除をしている頃には私はもう帰っていてそこにはいなかったし、掃除の時にもなかったとすれば、財布が机に入ったのは今日ということになる。でも私は初めてここに足を踏み入れた。机の中に財布を入れる余地なんて、私にはないよね。それは入れるのもそうだし、梓ちゃんから財布を奪うのも同様に。」


「も、もっと早く来ていて入れたんじゃないの?それであたかも今学校へきたかのように教室に入ってきたとか。」


「滅茶苦茶だよ。というか、ちょっと筋の通らない話だけど、仮にもしそうだとしたら私ならバレる可能性のある机より鍵のかかっているロッカーに入れる。その方が安全だからね。そうじゃないのは、梓ちゃんが朝早く来て自分の財布を私の机に入れたと考える方が自然じゃない?ロッカーは鍵がかかっていて開けられないしね。」


「そ、そんなんじゃない!!違う!!ばっかじゃないのこのブス女がさ、勝手にそんなのでっち上げて、ふざけないでよ。証拠もないのにイキっちゃって。」


もう支離滅裂、どうでも良くなっている節さえある。

既にここにいる人間の全員が、もう未麗の敵ではなくなっていた。誰もがこう思っていたであろう。“これは梓のでっち上げだ。どうせ美人な未麗が気に入らなかったに違いない。”と。皮肉でもなんでもない、その通りだった。


「あの…」


そう言って片手を低めの位置に上げて前に出たのは、黒川裕翔(くろかわゆうと)、隠キャ系男子であった。


「証拠…って言っていいかわかんないんだけど。僕昨日、片寄さんを見たよ。その最寄り駅で。というのも、僕も最寄りが一緒なんだけど、電車が一緒だったみたいで。

だけど片寄さん、電車の中じゃ寝てたし、改札出るまで誰とも会ってなかったよね。スマホに夢中だったみたいだし。

しかも改札の出口で、誰かと待ち合わせしてたよね?多分お母さんだと思うけど。

そこからは僕の家の方に帰ったからよく知らないけど、その場合もしかして黛さんと出会った時に、片寄さんのお母さんも居たってこと?なんか不自然じゃないかな…って、あ、なんか口を挟むようで、ごめん…」


彼は普段よく喋る方ではないから、これを言うのに勇気がいっただろう。しかし彼は、普段の様子を知っていれば意外なほど饒舌に説明してくれた。


当事者以外、第三者の意見というのは貴重で、それはまさに梓の言っていることがでっち上げだというようなものだった。


梓はついに何も発さない人形と化し、取り巻きもこれ以上は言い返せないと悟ったらしく何も言わなかった。そのあとカースト一軍の男子が、


「まあ、つまり、黛さんが正しかったってことで解散かな。おらおら他クラスの奴らマジで散れって!w」


と冗談まじりに行って、その場は終わった。


またその男子の一言が梓の心にさらに刺さったらしく、悲痛な表情を浮かべてどこかへ消えてしまった。梓はその日、教室に戻ってくることはなかった。


またこの、「片寄梓虚言事件」により梓の株は暴落。

取り巻きも自然と剥がれていき、結局一人身へと成り下がる。昨日までボスだった女が、スクールカースト最下位まで一日で転落したのである。そこからは梓の悪い噂は絶えず、今まで散々してやられた恨みでいじめ紛いなこともあった。

ついに梓は耐えかねて、夏休み前には転校して行ったのである。


そしてこれにより黛未麗は見事、ほぼ頂点と言えるところまで上がって行ったのだった。


その日の放課後、未麗は一人自室でティータイムを楽しんでいた。

今日のことを思い出しては笑いが止まらない。満面の笑みだった。片手に読んでいる本の内容など頭に入ってこないほどに。世にはあれほど知識がなく要領の悪い人間がいるのだ。

しかもそんな人間が少し前までクラスを牛耳っていたと思えば、笑えるのも無理はない。


「チェックメイト…ってね。」


未麗はそう独言て思う。

人間とは面白い。人生とは、面白い。

独言る

今日も悪女は微笑する。


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