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仮面の下のヴィラン〜負けを知らない女は今日も微笑する〜  作者: ぶる子
一章 スクールカーストにご用心
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5


帰りの挨拶を終え、リュックを肩にかけ直して教室を出ようとする夕美を見つけ、未麗は急ぎ足で駆け寄った。


「あの、夕美、ちゃん?」


彼女は驚いたように異常ともいえる速度で振り向く。もともと下を向く癖があるのか、なんとなく上目がちにこちらを見つめた。俯いていており、厚く長い前髪のせいもあり、表情は読み取りにくい。


「この本、図書館で置いて行っちゃったでしょう?読みたそうだったから私が借りておいたの。どうぞ。」


そう言うと、あからさまに困惑したようにあっ、うっ、と良くわからない言葉を発してうろたえている。


ふむ…どうしたものかな。


「もしかして、迷惑だった…?」

黙ってしまった夕美を見て、少し悲しげな表情を浮かべて言ってみる。


「うあっ、いや、その………ありがとう、ございます。」


そう言って遠慮がちに受け取った夕美を見て、優しい笑顔を作る。


「全然気にしないで。その本、面白いの?」


夕美は少し固まったあと、無言でゆっくりと頷く。


「そうなんだ、私も本が好きなの、今度読んでみるね。…あ、そうだ。」

少しバックの中を漁って、スマホを取り出す。

「ライン交換しよう?この学校に来て友達ができないと不安だし、少しでもみんなと繋がりを持ちたいから。夕美ちゃんが一人目だよ。」


ひらひらとスマホを振って笑ってみせる。

“少しでもみんなと”、と言うことであなたはあくまでたくさんの中の一人だとアピールして、緊張感を解かせつつ、後ろからこちらをチラチラと見ているクラスの数名の男女を意識して、夕美だけが優遇なわけではない、後であなたたちとも交換させてね、と言うニュアンスも含むように言った。また、逆に“一人目”と言う単語でどこか特別感も引き出す作戦だった。

この作戦に夕美は気づいてもいないようだった。この程度で作戦などと呼ぶのはおかしいかもしれない。だがまあそれは当たり前で、まさか人が発する言葉の一言一言の裏に陰謀があるとは到底思わない。

無論、普通であれば陰謀など無いからだ。未麗ほどのドス黒い人間でも無い限り。


「で、でも、私なんかと交換しても…」


なおも夕美は引き気味だった。


「いいでしょう?別に。誰とだって仲良くなりたいもの。それとも嫌?」


多少の圧をこめて言ったこれで、やっと通じたらしい。いかにも納得はしていなさそうだったが、ラインのQRコードを見せてくれ、交換が完了した。


「ありがとう。それじゃあまたね。」


夕美はペコリと頭を下げると、そそくさと去って行った。その後ろ姿が見えなくなるのを確認して、さも自然に後ろへ歩き出す。

そちらに先程の男女数名がいることを把握しての行動だ。


その数名らはこちらへ来る未麗を見て、「たまたまここにいましたよ」とでも言うように、いや、口に出さないだけで顔にはもう出ているが–––こちらを見ずに互いに話していた。

そしてそれは未麗も同じである。

あたかも「今気がついた」と言うようにあっ、と声を漏らし、みんなとライン交換していい?と聞く。ついでにそれらしいテンプレートの理由も言っておいた。

演技の質こそ違えど、やっていることは同じ、ここまで世界を悟ったような未麗であってもたかが高校生だと自分自身に苦笑した。いやしかし、されど高校生かもしれない。未麗が低いのではなく、高校生が大人同等にレベルは高い。たかが高校生、されど高校生である。


取り敢えず、今日一日だけで十人、いや二十人近くとは話せただろう。ラインも五、六人ゲットすることができた。

初日にしては上出来だろう。ついでに今ラインをもらった彼らにこんな提示をしてみた。


「良かったら駅まで一緒に帰らない?」


男子は未麗の美貌故かはたまた何なのか、即答で肯定だった。女子も未麗に対して好感なようで、二つ返事で承諾を得られた。


まあ、このメンツは正当に評価してスクールカースト二軍辺りだろうか。いや、男子のうち一人は一軍ともいえる程の位置だ。初期に関わる友達としては、悪くない。このままこの顔ぶれメインで這い上がるのも悪くないかもしれない。


未麗はそんなことを頭の片隅で考えつつ、じゃあ帰ろうぜ、と言う皆に向かっていつものように微笑を浮かべて頷いた。


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