7-7
ここまで頑張ったのに……。
もう、おしまい……。
失意、絶望、そして悔しさ、悲しみ。
それらで胸の中がいっぱいになっていき、目の前が涙で濡れてよくわからなくなった時。
「お待ちなさい!!」
円形闘技場の入り口から、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「おおミカエル! 目覚めたか!! 良かった良かった……」
ミカエル……?
まさか、今までずっと眠ったままだったミカエルが起きてきたの?
あたしは目を擦って、声のする方を見た。
そこには、杖をつきながらもどうにか歩いているミカエルの姿があった。
「お父様、これはどういう事です?」
「お前を傷つけた下民に制裁を与えているんだよ。あと少しで終わるからお前は――」
「なんてことを!!」
え?
あたし達の最後を見に来たんじゃない……?
ミカエルはよろけながらも舞台へと昇ると、リゼットの方へ向かい。
「あなたはリゼットさんですね。どうかこれ以上の戦闘はお止めください」
あろう事か、この戦いを中止するよう頭を下げたのだ。
「なんと! ミカエル気でも触れたか!!」
ここで止めるメリットなんてなんもない。
いや、そりゃあたしは助かるから嬉しいけども……。
なんで助けようとするのか理由が分からないよ?
「気が触れたのはお父様の方です! このような愚かな行為……、果たせばどのような結果になるかお分かりにならないのですか?」
「ふん、下民の一人や二人、大衆の前で処刑して何になる」
そうだよ。
偉い人から見れば、あたし達の命なんて限りなく安い。
だから別に結果も何もないし、しいて言うなら”あーあ死んじゃった”くらいにしか思わないんじゃないかな。
「それに大衆も望んでいる」
「どういう事です?」
「周りが見えないのかミカエル」
「見えていないのはお父様の方です! 改めて見てください」
ミカエルが父親に向かって言った言葉だけども、あたしもつられて観客の方を見た。
「ああ……、天使様が降りてくださった……」
「まさか……、あの者達が……」
「ありがたや、ありがたや……」
「これで闇に怯えなくても良くなるぞ……」
えっ、なにこれどういうこと……。
天使様って、……もしかして百合バーストで強化したエレナ?
そ、そりゃあ光が羽みたいに背中からばっと出てたけども。
なんかめっちゃありがたられているし……。
「もう一度お聞きします。このままこの者達を処断していたら、どうなるか分かりますよね?」
「むう……」
ここでミカエルが中止しなかったら、あたし達はやられていた。
その結果、観衆は天使を殺した者としてリゼットやミカエルの父親を許さないってことかな。
「ミカエル、召使いのウィーンはどうした?」
「ウィーンさんはわたくしが目覚める前に、既に目覚めてわたくしを介抱していました」
「そうか……」
どうやら一緒に治療を受けたウィーンも元気になったみたいだ。
その事を聞いた父親は納得のいかない表情のまま、近くに居た執事の方を向くと……。
「何をしておる! さっさと中止にせんか!」
「で、ですが旦那様……」
「ミカエルもウィーンも無事なら、戦う理由はもう無い。私は帰る!」
「は、ははぁ!!」
執事と共に円形闘技場から早々に出て行ってしまった。
「終わったのか……」
「エレナ! エレナ!!」
「なんだゆき、もう抱きつく必要はないんだぞ」
「無事で良かった! 本当に……本当に良かったよおー!」
「お、おい、泣くな! わかったから!」
こうして、あたしとエレナはどうにか生き残る事が出来た。
うぅ、無事で良かった……。




